土耕栽培と養液栽培の未来

養液栽培面積の増加

 

養液栽培の面積は年々増加していますが、最近の平成28年の農水省調査では、施設栽培面積43,220haに対し養液栽培面積2,003haで約4.6%でした。平成19年の同調査では、施設栽培面積50,608haに対し養液栽培面積1,375haで約2.7%でした。この9年間で施設栽培面積はマイナス7,388haと約14.6%減少し、養液栽培面積はプラス628haと約45.7%増加しています。

 

 

 

一方で施設栽培面積から養液栽培面積を差し引いた土耕栽培面積は、平成19年には49,223ha、平成28年には41,217haとなり、マイナス8,006haと約26.3%の減少となります。この数字だけ見ると土耕栽培の減少率に対し、養液栽培の増加率が非常に高く見えますが、いまだに施設栽培面積の95%以上は土耕栽培となり、日本の施設園芸の中核を占めていると言えるでしょう。


品目別の養液栽培面積

次に品目別に見てまいります。グラフは年次、作物別の養液栽培面積(単位:ha)です。この中で養液栽培の多くを占めるのがトマトといちごです。当初よりトマトの比率は多く、その後も安定的に伸びてきたと言えます。また、いちごの伸びも安定しています。次に多い「その他」の内訳は明らかではありませんが、ほうれんそう、ベビーリーフなどの葉菜や、パプリカなどの果菜が該当していると思われます。

 

品目別の養液栽培実面積推移(単位:ha) 資料:農林水産省 園芸用施設の設置状況等(H28)


農林水産省 園芸用施設の設置状況等(H28)によると、平成28年にはトマトの栽培延面積約7,083haに対し養液栽培実面積は約720haとなっており、いちごでは栽培延面積約3,856haに対し養液栽培実面積は約661haとなり、他の野菜よりも比率は高いと思われます。その背景として、トマトの大規模施設ではほとんどが養液栽培(固形培地耕)を導入していること、いちごでは省力化や観光農園用に高設栽培が普及していること、などがあげられます。

それにしてもですが、トマトでもいちごでも施設栽培の大半は土耕栽培であり、オランダのように養液栽培が中心の施設園芸とは様相が異なっています。

養液栽培と土耕栽培の未来

先ほどのグラフの傾向を見る限りでは、今後も養液栽培面積の増加が見込めるかもしれません。施設の大規模化と養液栽培の導入には高い関係があり、企業参入や農業法人の経営拡大にともなったそうした傾向は今後も続くことが考えられます。

 

しかし、中小規模の個人経営農家の場合、大規模施設への設備投資のみならず、養液栽培への設備投資にどれだけ積極的になれるかは、未知数な部分もあると思います。導入に対する費用対効果がまず気になる部分であり、導入によって経営の損益分岐点が上昇する分を収量増や売上増でカバーする必要がありますが、トマトのように市場価格が低下傾向にある品目では投資にはどうしても及び腰になるかと思います。キュウリやイチゴであれば単価が安定しているため投資の計算もしやすいかもしれません。実績のあるイチゴ養液栽培の面積増、養液栽培の実績がまだ少ないキュウリ栽培の動向など、注視すべきことになると思われます。

 

養液栽培の動向を中心に考えておりますが、養液栽培と比較した場合に土耕栽培にも様々なメリットがあります、例えば・・

・設備投資が少なく、損益分岐点が低い

・栽培ベンチやベッドが無い分、空間容積を有効に使える

・土壌からハウス内への水蒸気やCO2の供給がある(マルチ展張による低減はある)

・土壌消毒期間を長くとるため、休養期間も長い

・脱着式レールを敷設することで、高所作業車も養液栽培と同様に利用できるようになった

ということがあると思います。

 

一方で、デメリットとして

・作替え時の土壌消毒や堆肥投入が必要で、栽培期間も短くなり、労力も余分にかかる

・土質や土壌の均一性により、保水性や排水性が異なり、調整が必要

・養液栽培に比べれば根圏の容積は大きいが、少量多頻度潅水を行わないと水分率の変化が起こりやすい

・土壌病害のリスクがある

・初期の土壌改良が必要な場合がある

・大規模栽培では、堆肥投入作業や土壌消毒作業の負担が大きい

 

以上のような両面があり、ケースバイケースで判断が必要なところもあると思います。最終的には投資を伴うことなので、収量や売上、作業労力や投入資材などの経済性と、栽培技術の難易度などを総合的に評価する必要があるでしょう。いずれも絶対ではなく、未来に向けて残ることは間違いないと思います。また環境負荷の問題も含めた総合的な評価が必要な時代になっていると考えます。

 

 

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施設園芸、植物工場、スマート農業の違いは?

今さらですが、植物工場には太陽光型植物工場と人工光型植物工場があります。その定義をおさらいしてみます。

 

農商工連携ワーキンググループでの検討

 

2009年から農林水産省と経済産業省が共同で開催した「農商工連携研究会植物工場ワーキンググループ」での検討で、次のような定義が行われています。

パプリカハウス(オランダ)

 

「植物工場は、施設内で植物の生育環境(光、温度、湿度、二酸化炭素濃度、養分、水分など)を制御して栽培を行う施設園芸のうち、環境及び生育のモニタリングを基礎として、高度な環境制御と生育予測を行うことにより、野菜などの植物の周年・計画生産が可能な栽培施設である。この概念にあてはまる栽培施設として、大きく分けると、閉鎖環境で太陽光を使わずに環境を制御して周年・計画生産を行う『完全人工光型』と、温室などの半閉鎖環境で太陽光の利用を基本として、雨天・曇天時の補光や夏季の高温抑制技術などにより周年・計画生産を行う『太陽光利用型』の2類型がある(後略)。」

 

これを読むと明らかなように、植物工場は施設園芸の一種と定義されています。さらに施設園芸の中で、以下の3条件に合うものを植物工場と言っています。

・施設内で植物の生育環境(光、温度、湿度、二酸化炭素濃度、養分、水分など)を制御して栽培を行う施設園芸であり、
・それらのうちで、環境及び生育のモニタリングを基礎として、高度な環境制御と生育予測を行うことにより、
・野菜などの植物の周年・計画生産が可能な栽培施設。

 

植物のモニタリングと生育予測

 

10年前の定義ですが、現在での通用するものと思います。生育環境の高度な環境制御は、施設園芸全体の数%で行われていると言われます。また生育のモニタリングや生育予測については、さらにそれらの一部で行われている、もしくは取り組まれ始めていると考えられます。10年前に生育予測について言及していたことは、かなり先を見ていたと言えるでしょう。簡単な収量予測であれば、前年や平年の実績と現状を比較し、さらに着果数などをモニタリングして精度を高める手法が現在は取られています。

 

このワーキンググループで言う生育予測は、施設内環境と同様に、植物の生育そのものをダイレクトにモニタリングするようなことを言っていると、文脈からは読み取れると思います。それについては、一部で実用化は進んでおりますが、広く現場で取り入れられているわけではないでしょう。

 

施設園芸と植物工場、スマート農業へ

 

この点にこだわれば、施設園芸と植物工場の違いにフォーカスできるかと思います。より精度の高い生育予測によって、計画生産や計画出荷の精度を高めることで、植物工場での野菜などの生産技術に到達できる、という考えになります。技術志向的なコンセプトに感じられますが、現在、盛んに取り組まれているスマート農業へのステップアップとも捉えられます。

 

5年前の農水省のスマート農業の将来像に関する報告では、スマート農業を「ロボット技術、ICTを活用して、超省力、高品質生産を実現する新たな農業」としています。さらにその一分野として「作物の能力を最大限に発揮」があり、そのことを「センシング技術や過去のデータに基づくきめ細やかな栽培<精密農業>により、作物のポテンシャルを最大限に引き出す多収・高品質を実現」と説明しています。

 

「作物のポテンシャルを最大限に引き出す」という言葉が盛り込まれ、より高い生産性を目指すのがスマート農業と言えそうです。そのプロセスでは植物の生育モニタリングや生育予測も要素技術として活用されるはずです。またスマート農業では、技術志向のところはあるものの、作物のポテンシャルに言及しているように、植物にフォーカスを当てた技術を更に指向しているように感じとられます。

以上のように、施設園芸〜植物工場〜スマート農業の流れを追っていくと、未来の農業へのステップがイメージできそうです。

 

 

 

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国産野菜の生産と植物工場の未来

国産野菜の需要と植物工場の未来

植物工場について、マスコミではブーム的に取り上げられることが多く、撤退や倒産があると、さも植物工場全体がダメという論調がありました。ブームがあったのかどうかも定かではありませんし、この先もブームは訪れないと思います。

生鮮野菜を生産する太陽光型や人工光型の植物工場が存在しているのは、国産の生鮮野菜に対するニーズによるもので、もし輸入の野菜で良いという国民の意識が大勢ならば、わざわざ手間をかけ国内で植物工場で野菜生産をする必要はないと思います。国産の野菜を生産する農家数が急激に減る中で、それを補完するための植物工場や、参入企業はこれからも一定数で増えていくと思います。

絶対需要と市場内競合

国産野菜に絶対的な需要が存在するなら、それに向けたビジネス化の流れが止まることは無いと思います。しかし、同じ方向、同じような生産や販売を指向する参入者が増えてしまうと、お互いの競合が発生して折角のパイを食い潰してしまう恐れもあります。ここ数年のトマト生産の増加と価格低下が典型例と思いますが、数量の増加以上に市場価格の低下は大きくなるため、影響はかなり大きいと思います。やはり、ほどほどが肝心であって、競合しない程度の生産販売に注意する必要があるでしょう。

今後の品目展開

高度環境制御を行う太陽光型植物工場や人工光型植物工場では、それに適した栽培品目は今のところ限られていると思います。太陽光型ではトマトが主流であり、数はまだ少ないもののパプリカやイチゴの例があります。また全農がゆめファームのプロジェクトとして高知県でナス、佐賀県でキュウリの大規模栽培を開始、もしくは計画しています。葉菜ではサラダ菜などのレタス類、村上農園を中心としたスプラウト類がありますが、一般の施設園芸に比べると品目が限定されています。しかし特に果菜類はいずれも施設園芸の中心品目であり、トマトとパプリカ以外は生産者や栽培面積の減少が顕著なことから、植物工場による生産の補完は意味あることと考えられます。

 

レタス類栽培を統合環境制御により行う太陽光型植物工場(ひむか野菜光房・宮崎県)


人工光型植物工場では、相変わらずでありますが、リーフレタスやサラダ菜などのレタス類が中心であり、これにハーブ類やベビーリーフが少数ながら続いています。あまり強い光を必要としないレタス類の栽培が人工光型での品目の中心となっています。また、新顔としてイチゴの栽培も数例ですがみられます。詳細の情報はまったくわかりませんが、周年出荷のため四季なり品種を用い、長期間引っ張るような作型で安定供給をはかる仕組みではないかと想像します。

一般の施設園芸と植物工場の棲み分け

太陽光型植物工場は1ha以上の規模で、高度環境制御と養液栽培での生産を行う施設として、最近は定義がされています。個人経営の農業生産者で1ha規模の施設を建設した例は早々なかったと思います。これは数億円の建設費と、補助事業が組まれたとしても補助残の調達が大変であることなど、資金面の問題が大きいと思われます。またまとまった用地を取得するには複数の地権者の同意が必要であり、それを個人が調整して進めることにも困難が伴うことがあります。

このようなことから太陽光型植物工場は一般には企業参入による取り組みと考えられてきました。個人経営の生産者では、数10a規模の施設を順次増設して全体でha単位となる経営を行う場合が見られます。しかし数10a単位の施設に比べha単位の施設では、作業面の効率性向上、部材点数削減などによる施設コストの低減、温湿度などの栽培環境の安定化などのメリットもあり、今後は大規模施設での経営に意欲を示す生産者も、特に若手を中心に増えるはずです。

今後は植物工場が企業だけのもの、という意識にとらわれることなく、特にネックとなる施設コストや資金調達、用地確保の問題の解決に望みながら、国産の野菜生産と施設園芸の維持発展を考えていくべきではないでしょうか。

 

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植物工場の動向について

毎年4月には、勤務先で植物工場についての実態調査を公開しています。太陽光型や人工光型の植物工場の箇所数や、経営収支状況とその分析、都道府県別リストなどが掲載されています。同様な調査は他には無く、また経年で実施しているため、マスコミからの問い合わせ、記事掲載も多いものです。日本農業新聞でも毎年、紹介記事が掲載されています(今年はまだのようです)。以下に個人的見解、雑感となりますが、コメントを記します。
 


植物工場の収支状況

おおまかにですが、黒字、赤字、収支均衡という設問でアンケートを行っており、調査報告ではそれらの回答と、設置年数、規模、雇用者数などとの集計も行っています。「植物工場の半数が赤字」といった記事を良く見かけますが、年数を経て施設の償却が進めば収支も改善され、その傾向は調査結果にも出ています。また新規参入の場合は、特に初年度や2年目は生産が安定せず目標の出荷や売上に達しない場合もあると思われ、それも赤字発生の要因になっているはずです。初期投資額が大きいほど黒字化は長期化する傾向かと思いますが、資材費の高騰や自動化省力化の設備投資のなどにより、この傾向は続いていると思います。

植物工場への新規参入

植物工場の分野がマスコミの取材対象になっているのが自分としては不思議に思うところがあります。植物工場も一般の農業や施設園芸分野の一つであるはずで、特別なことでは無いと思っているためです。しかしマスコミ側とすればニュースバリューがあるから取材をされている訳でしょうし、植物工場情報に一定の需要があるためと考えられます。

おそらく多くの日本企業では、本業が安定化、もしくは低落傾向にあって、新規事業を常に模索しなければならない状況にあると思います。その際の対象にアグリ事業や植物工場事業が必ずといって良いほど取り上げられるものと想像をします。かれこれ10年ほど、そうしたことが続き、その間に新規参入と成功、撤退が繰り返されたことで、この分野に関心を持たれる一定の層が形成されたのでは、と考えられます。参入企業は製造業や食品産業、建設業など幅広く、また最近では融資や出資をする金融業の関心も高まっていると思います。

植物工場は特別か?

確かにLED照明でのレタス栽培などは、一般の農業と比較すれば極度に設備化や制御化が進んだ先端的な農業に見えるかもしれません。また、数ヘクタール規模の大規模なハウスでのトマト栽培も、一般の施設園芸に比べれば別世界に見えると思います。その分の投資額も増え、同じトマトやレタスを作っている露地農家や施設園芸農家との競争で不利にならないよう、栽培品目や品質で特徴を出すことが植物工場経営のポイントのように言われて来ました。

しかし、植物に期待される能力と収量(最近はポテンシャル収量と呼ばれることが多い)を実現するよう、環境を調節し、水分や肥料を適切に与えるという栽培の基本は、一般の農業でも植物工場でも変わらないと思います。一般の農業と異なる点として、巨額の投資を回収するための経営能力や、大量生産による収穫物の販売能力、大勢の作業者などを管理する組織運営能力などがあると思います。しかし、これらの能力は製造業や流通業などの企業経営では当たり前のように行われていることで、取りたてて植物工場向けに考慮しなければならないことでは無いでしょう。

以上のような雑感ですが、マスコミの問い合わせ受けたり、記事を拝見するたびに思っております。そうした間にも現場の改善もどんどん進んでおり、植物工場の経営なんて簡単です、といえる時代が来ることを期待している訳です。

 

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半農半Xという生き方と施設園芸

京都府綾部市の塩見直紀さん(半農半X研究所 代表)が提唱する「半農半X」という言葉が誕生したのは、1993〜94年頃。すでに四半世紀が立ちました。「半農半X」とは、持続可能な農ある小さな暮らしをベースに、天与の才(X=天職、生きがいなど)を世に活かす生き方、であるそうです。
 

 

塩見直紀、半農半Xという生き方 (ソニーマガジンズ)


地球環境問題と半農半X

 塩見さんは、半農半Xの背景として、地球環境問題と天職問題の二つをあげています。温暖化や気象変動など地球環境問題の顕在化は、持続的な生産活動や生活に大きな疑問を投げかけています。また天職問題とは塩見さんの造語ですが、自分の使命は何で、人生をどう生きるかということ、だそうです。人は個性を発揮できる時代になったが、実際にどう生きるか、かえって個性を失う時代で、世界も方向性を失っている、生きる意味を失う人も多い、だんだん生きづらくなっている、という背景を上げています。

 そして、環境を維持しながら自分の使命をもとに働き続ける方法として、小さくてもどこでも耕すこと、育てること、生き物に触れることの実践を上げています。そして人間が一番をいう心を捨て、自然に対する感性を取り戻すことから始め、そうした場所を自分で作り、謙虚に、かつ創造的に生きることを目指す、という新たな生き方の提案をされています。

 

半農半Xの考えは、塩見さんの書籍が台湾や中国で翻訳、出版されることで共感を呼び、特に中国での反響が大きかったそうです。また、半X半ICTなどを掲げて若者の移住や職場の提供をはかる自治体も出現するなど、生き方や考え方から政策レベルにまで変わりつつある、というのが最近の動きとして見られるそうです。

施設園芸の生態系での仕事

 施設園芸を仕事としている農家や農業法人の皆様は、毎日のように植物の発芽から成長、開花や結実などに触れ、その過程をいかにスムーズに進めるか、いろいろな工夫や苦労をされていると思います。また、トマトならトマトだけ、イチゴならイチゴだけ、というモノカルチャー化が進む施設園芸ですが、一方で化学農薬から生物農薬、天敵の利用へのシフトがかなり進んでいます。

 天敵は購入資材として利用されてきましたが、バンカープランツを利用しハウス内で天敵を保護しながらの利用も一部で進んでいます。さらに土着天敵という地域に生息する生物を天敵利用する方法も研究や実践が進んでいます。また、ルーペで拡大しなければ見えないような天敵生物や害虫の行動や増殖を観察し、植物と天敵にプラスとなるような管理を進めることになります。これは施設園芸の生産現場で、小さな生態系と一緒になり活動する仕事にも思えます。

 天敵利用にとどまらず、植物の生育のケアをしながら施設園芸の現場で働く人たちは、生命とかなり密接に関わる環境にあると言えます。それを日々意識しているかどうかは別ですが、半農半Xとはまた一味違う生命と共存する仕事、植物のDNAの働きを良くするようハウス環境や潅水などを制御する仕事、さらに生き物の命をいただくことで成り立つ仕事が、施設園芸であると思います。「植物の声を聞く」という篤農家的なことはほとんど聞かなくなりましたが、広大なハウスに何万本もの植物が生育しているとしても、植物の日々の変化や様子を伺いながら、環境や虫たちの動きも見つつ、自分らも一緒に生きているということも大切にしたいものです。



 (参考記事:日本農業新聞 2018年10月14日付 オピニオン欄 塩見直紀、半農半Xの今)

 

 

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農業資材業界のこれからの人材

先日、ある業界の集まりに参加させていただき、全国から来られた農業資材販売の方々とお話しする機会がありました。

農業資材業界での商売とは

農業資材には、種苗、肥料、農薬などの栽培系の消耗資材や、被覆資材やパイプハウス、灌水資材などの耐久資材などがあります。商売の流れも系統(JA系)と商系に分かれていますが、末端の顧客は農家さんや農業法人となります。そうした農業資材業界で働いている人は、製造業と流通業に大別されますが、メーカーにも営業マンは大勢いますし、末端に近い流通業でも自社製品を開発販売しているところも多くあります。

 

 


私もこの業界や、その周辺で30年間以上、働いてまいりました。営業職に付いたことはありませんが、商売の進め方やタイミング、新しい商品の広がり方など、感覚的にですが理解をしてきた積もりです。商売のサイクルは基本は年1回の栽培期間に沿って回されており、種まきや定植の時期に間に合うよう資材を供給すること、ハウスや施設を建設することが求められます。

農業資材業界の商売で必要なこと

地域性が色濃い業界で、地場のニーズに合う商品を供給する必要性から、商品規格もかなり多いと思います。種苗は毎年、種苗会社から新品種が発売される一方で、旧来の品種を使い続ける農家さんもおり、扱い品目も年々増加していると聞きます。新しい品種や資材、設備などは、市場に出る前に様々な試験が行われ、現地実証などを経て販売に至るものも多く、さらに広まっていくには実績がモノを言う業界でもあります。

どこの業界でも同じかもしれませんが、農業資材業界の商売では「継続」、「信頼」、「口コミ」が特に重視されていると思います。一方で、農業の生産現場では、常に様々な課題が発生しています。例えば「気象災害」、「新たな病害虫発生」、「人手不足」、「高温障害」などが最近のキーワードになりますが、それらに対応した新商品やサービスの開発や提案も盛んな業界であると思います。

この業界で総じて言えるのは、地域に根ざした商売をしながら、メーカーや他の先進地域の情報を取り込み、時間をかけて新商品や新技術を現場に定着させて、また次の展開に取り組む、といった姿勢が求められると思います。

農業資材業界に求められる人材とは

この日の集まりでは、私が以前勤務していた農業資材会社の関係者の方が何名かいらっしゃっていました。その会社はすでに無く、同僚だった社員達は、同じ業界の他社に雇われたり、自ら事業を興して地域で商売をされている方も多いのが特徴です。おそらく他社の商品やサービスであっても、その特色を理解すれば商売をすることに違和感は無いはずで、現場ニーズや商売のポイントをしっかりつかむことで、実績を重ねることも容易かもしれません。「つぶしが効く」ということかもしれませんが、現場の変化に対応した新たな提案ができなければ、つぶしだけではやっていけないのも事実でしょう。

施設園芸の現場の世代交代は着実に進んでおり、後継者の若手農家さん達が経営の主体に変わりつつあります。親の代で蓄積した資産や技術を活かしながら、次世代の農業、施設園芸に取り組む時に何が必要とされるか、業界の関係者はこれからも入念に調査、分析をし、仕掛けていくべきでしょう。自ら調査や分析が出来なければ、情報を各方面から入手すべきであり、地域に根ざした商売だけではやっては行けない時代になったとも言えるでしょう。そうしたことに対応した人材を、様々な機会や場面の中で育成する必要が、今後もあると思います。実は勉強と行動が一番大切なのかもしれません。

 

 

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国産間伐材の施設園芸利用

少し古い数字ですが、2017年度の林野庁調査で発電燃料向け国産間伐材・林地残材などの利用量が263万トンと初めて200万トンを越えました(0218年9月23日付、日本農業新聞総合面)。発電機やボイラーを持つ全国の1398事業所を対象に木材チップの使用量を調査した結果で、記事ではFIT制度や各地に稼働開始している木質バイオマス発電所が、利用量増加の背景にあるとしています。また、2013年度の調査では約50万トンで、4年間で4倍以上の急速な増加と言えます。
 

施設園芸で燃料として用いられている木質チップと貯留槽


木材バイオマス発電と施設園芸利用

最近は数万KW規模の木質バイオマス発電所が全国に建設されており、使用量の多くは発電用途と思われます。また、間伐材利用による発電での電力買取価格が最高で40円/kwと木質バイオマスの中でも最も高いため、間伐材利用が増加しているとしています。売電を行った上で、燃焼発熱を利用した暖房など、施設園芸への熱供給も可能です。

最近では岡山県で建設された大規模施設(10ha規模のトマト、パプリカ等の栽培施設)でも木質バイオマス発電が行われてる計画と聞いていますが、ハウスに隣接した発電所であり、熱供給もされると思われます。一方で最近の木質バイオマス発電施設は発電効率が良くなっており、その分の熱供給量は低下しているという話も聞いたことがあります。

 

木質バイオマスの燃焼による施設園芸への熱供給

発電施設まで設けなくとも、木質バイオマスを燃料としてた施設園芸利用は、ここ数年で実用化が進んでいます。カーボンニュートラスの燃料として温暖化対策となることが取り上げられていますが、エネルギー源の多様化という観点も重要と考えられます。すなわち、従来の重油やLPGなどの化石燃料と木質バイオマス燃料を併用したハイブリット暖房設備が多く、複数熱源の利用を前提としていることがあります。

例えば従来型の重油式の温風暖房機と木質バイオマス燃料を用いる温湯ボイラーを併用した大規模な施設園芸団地が静岡県の小山町に数年前に建設され、稼働中です。ここの団地周辺に地元産の木材を木質ペレットに加工する工場があり、輸送コストをあまりかけずに団地での暖房燃料として利用しています。また重油による暖房も併用していますが、重油が木質ペレットに対し発熱量当たりの価格で比較して高価であれば、重油使用量を減らし、木質ペレット使用量を増す、といった調整も可能です。

 

複数エネルギー源確保のメリット


このことにより施設園芸の生産原価の多くの割合を占る光熱費を低減する効果があると考えられます。また複数のエネルギー源を持つことで、エネルギー価格の変動や、エネルギー供給の安定性に対するリスク管理にもなると考えられます。

重油式の暖房機に比べると木質バイオマス利用の暖房機は一般的ではなく、導入コストも高い状況です。しかし、暖房を中心としたエネルギー利用は、昔から変わらぬ施設園芸の技術的、経済的ポイントの一つです。化石燃料に依存せず、地域資源で未利用資源でもある地元の間伐材などを利用することは、施設園芸の未来にとっても大切な要素であると考えております。

 

 

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書くことの大切さと720文字の小論文

日本農業新聞には毎週日曜日に農業書の新書紹介がされる読書欄があります。4月21日付けの同欄のトップには「著者に聞く」として、技術士の板木利隆先生が自著「九十歳 野菜技術士の軌跡と残照」について語られています。同書の出版祝賀パーティーについては、このブログでも触れさせていただきましたが、板木先生自らがインタビュー形式でさらに出版の経緯や書くことの大切さについて触れられています。農業技術士の大先輩の板木先生の言葉を、ご紹介したいと思います。

 

板木利隆先生著 「九十歳 野菜技術士の軌跡と残照」 創林社


技術文書を書くということ

インタビューで板木先生は、「人間というのは何か書いて記録を残さないと、忘れてしまいます。私は書くことをとても大事にしています。」と話されています。先の出版記念祝賀会でも板木先生は、「口頭で教えることは、そのたびに変わることが多く、信用ができないのです。ものを書くことが非常に重要で、特に技術については大切です。」と挨拶で話されていました。

このふたつの言葉は、ニュアンスは異なりますが、書くことについて板木先生は大切にされていることがわかります。また口頭での伝達のあいまいさに対して、書いたことが正当な記録として残ることを重視されているのが理解できます。

さらにインタビューでは、「明治生まれで、その時代に活躍した野菜の先生方は既に亡くなっていますが、残された本の行間にはその方々の思いがにじみでているのです。本を読むことでそれが分かるのです。」とも話されています。時代を経た専門書の行間から著者の思いや考えを読み解く、板木先生の姿勢が感じられます。技術的な文書を書くことには、理論や考え方を正しく伝えることだけでなく、その背景や技術者や研究者としての思いも伝える働きもあると言えます。

すべてを書き尽くすのではなく、行間に思いを刻む文章というのは、簡単には書けそうもないかもしれません。しかし、あらゆることを盛り込んだ文章というのは、とても読めたものではない訳で、やはり行間に込めるという書き方は技術者や研究者にも必要なのでしょう。

技術士試験の小論文と行間

私は、字数が限られた小論文の書き方の指導をしています。これは技術士の2次試験受験の際に、受験申込書に書き込む小論文のことです。自分の代表的な技術業務について、わずか720文字で、概要や立場と役割、業務の目的、目的を達成するために生じた問題点、その問題点に対する技術的な解決策、その成果をコンパクトに書き込むものです。

技術文書としてムダのない表現で書かなければ、これらすべてを720文字に盛り込むことは難しいのですが、実際には書き足りないことが出てきます。必要なことだけを書き込むよう指導をしていますが、ご本人はご納得しないような場合もあります。「本当はこのように考えていたが、文字数の都合で削除せざるを得ない」という場合です。

この小論文は論文として審査されるものではなく、最終の口頭試験の際に使われるものです。そのため、自分で内容を補うチャンスは与えられていることを本人に伝え、口頭試験に備えるよう指導をしています。また、口頭試験の試験委員に行間を読み取ってもらい、それについての質問を暗に促す、というテクニックもある訳です。そうした指導により、言いたいことを盛り込めないという場合でも本人には納得していただいています。

文章とは書き手と読み手とのコミュニケーションの手段で、技術的な内容であっても文字を通じて様々な事実や論理、そして思いを伝えるものとなります。技術者こそ文章修行が必要ということであり、板木先生の「書くことを大事にしている」ことの意味を噛みしめる必要がある訳です。

 

 

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苦い野菜

事務所の近くには食堂やレストランが多く、ランチタイムには和食、寿司、中華、蕎麦、韓国、インド・ネパール料理と、食べ歩きができる場所です。今年になって開店したホテルの1階のレストランに先日行ってみました。

テーブル席は満席で、オープンキッチンの前のカウンター席に案内されました。目の前でスタッフが豚ロースの塊を切ったり、グリルしたり、別のスタッフが珍しい野菜を切ってサラダに盛り付けしたり、出来上がった皿をサービススタッフに渡したりと、ライブ感のある席です。

牛肉ホホ肉とゆで卵、つけ合わせの野菜

注文したのは牛ホホ肉とゆで卵と数種の野菜をビネガーとオリーブオイルで和えたような料理です。ホホ肉はワイン煮込みで柔らかく微かに甘みがあり、ゆで卵は細かく刻まれ、同じくゆでたポテトと混ぜられてほんのりと甘く、やさしい味わいです。付け合わせの野菜は、細長いスティックセニョールのようなブロッコリー、同様に細長いミニニンジンなどがのせてあり、いずれも苦みが強く、ホホ肉やゆで卵とは対極の味覚で、アクセントの強い一品でした。

順番が逆になりますが、前菜のサラダにも青みの強い葉菜が何品か入っており、いずれも歯ごたえと苦みがあって、こちらもアクセントが強いものです。またビーツを絞ったフレッシュジュースも出されました。濃い紅色のジュースで、どんな味なのかわからずに喉に流し込みましたが、強い酸味に思わずむせかえってしまいました。

苦い野菜の主張

つけ合わせの細長いニンジンは、朝鮮ニンジン系のものでは?と思うくらいの苦みでしたが、短く細いためか、後を引くような苦みではなく、ホホ肉やゆで卵の甘さとのバランスが感じられます。沖縄の島ニンジンに形は似ていましたが、島ニンジンにはこんな苦みはありません。またサラダの固く苦い葉菜の苦みはドレッシングで和らげられ、バケットの甘さとマッチした感じでした。

 

島ラッキョウ、イタリアンパセリ、ミョウガなどのサラダ(自家製 本文の料理とは関係はありません)


いずれも野草のようなアクは無く、上手に調理をしていたと思います。主役ではないものの、主役を引き立てるだけのアクセントには十分なっていました。

レストランの野菜セレクションと多様な野菜生産

目の前のオープンキッチンのスタッフの動きを見ていると、野菜を扱う量の多さに目が引かれます。苦いニンジンなどは大量にパッキングされており、そうした珍しい野菜を専門に扱う卸売業者の存在も感じられます。以前、同じレストランでモーニングを食べた時もありましたが、さすがに朝からは苦い野菜は出されませんでした。

市場にはあまり出回らないであろう苦い野菜を作る生産者と、それを取り扱う卸売業者がいて、このようなインパクトのある一品を味わうことが出来たと想像をめぐらしています。施設園芸でも、甘い野菜、やわらかく食べやすい野菜が主流になっていますが、食の世界では苦い野菜も健在ということです。甘さ一辺倒のモノカルチャーでは無い、多様な野菜生産、多様な農業があって、食の楽しみが生まれると思います。

 

 

 

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アスパラガス収穫ロボットの提供サービス

先日、佐賀県のアスパラ農家さんに伺う機会がありました。有明海と雲仙普賢岳を望む山の上、ミカンの園地を造成してパイプハウスが何棟も並んでいるロケーション、日当たりと風通しが良く、アスパラ栽培にも良さそうな場所でした。ご主人の安東さんのお話を伺うと、奥さんが地元出身で自分は農業経験もなく新規で始めたとのことでした。ハウス内の土壌から伸びたアスパラをもいで食べさせていただくと甘く、やわらかく、とても美味しく、驚きました。生でアスパラを美味しくいただいた経験は初めてでした。

 

遠くに雲仙普賢岳を望む山の上に建設されたパイプハウス

 

安東さんによると、向きや面積が異なる10棟近いパイプハウスごとに、施肥や温度管理の方法を少しずつ変え、試行錯誤しながら栽培を続けられたとのことでした。おそらく様々なトライ&エラーを重ねて、よりよい管理条件を見つけらものと思います。またご自分で試験区を設定した実証試験とも言え、データを残し、確認しながらの科学的な手法を取られたものと感心をいたしました。特に堆肥にはこだわられていました。

 

畑でもいで、生で食べても、甘く美味しいアスパラガス

 

 

〇収穫ロボットの導入

 

園地は元みかん畑ということで、用水も導入され、送水ポンプの圧力で園内の潅水もまかなえていました。液肥は混入機で施用されており、ハウスの巻き上げ換気は手動で、他には環境モニタリング装置(みどりクラウド)がある程度で、非常にシンプルな栽培設備でした。

 

ところがお話を伺うと、アスパラの自動収穫を行うロボットの試験をされているとのことでした。当日はロボットによる収穫を見ることはできませんでしたが、自動走行のためのラインテープがハウス入口付近に敷設されていました。ロボットは収穫コンテナを搭載する自走式のもので、画像処理装置とカッターやハンドが先端についたアームからなるもののようです。

 

安東さんのハウスでの自動収穫の動画です。

 

ロボットメーカーはアスパラ用の実用化を皮切りにキュウリ用などの開発も行っており、しかもそれらの産地である佐賀県に拠点を置き、本格的なサービスを開始するとのことで、これから本格的な導入が進むのかもしれません。

 

 

〇ロボットの提供サービス

 

動画にあるように、このロボットは小型で、軽々と動く感じもし、装置や機構もシンプルのようです。ロボット1台の値段は分かりませんが、安東さんによると、メーカー側は販売ではなく提供サービスを行う予定とのこと。提供料金は、その時々のアスパラの市場価格を参考にし収量などから売上額を算定して、その一部をサービス料として設定する考えのようです。また装置にトラブルがあった際には近くの拠点からメンテナンスサービスを行う体制も構築されるようです。作物や地域を限定したスモールスタートのビジネスであるのでしょう。大手メーカーとは異なった手法であると思います。

 

おそらくロボットを購入した場合、初期投資には何百万円かは必要になると想像します。それを利用料金を徴収しながらサービス化することで導入費用を抑え、普及を促進することがビジネス上のポイントと思われます。機能向上や上位機種の開発など、日進月歩の分野になると思われ、購入形態はそもそも適切ではないのかもしれません。この点はハウスのリース事業などとは異なる点かと思われます。所有しなことでのメリットが利用側とメーカー側の双方にあるビジネスモデルになると思われます。

 

 

〇施設園芸・植物工場分野のサービスの発達

 

製造業のサービス化が言われて久しいのですが、農業機械や農業資材の業界でも徐々に浸透していると思います。消耗資材を除き耐久資材や耐久製品であれば、サービス化は基本的には可能と思います。また保険と組み合わせることで、災害や事故等のリスク移転も可能となります。施設資材の価格高騰が言われ久しいのですが、こうしたサービス化の波は徐々に広がり、サービス価格の形成も現場では進んでいくものと思います。安東さんとロボットメーカーさん(inaho)の取り組みには注目してまいりたいと思います。

 

 

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