三方よしの施設園芸経営と作業管理アプリ

前回のブログに引き続き、大阪府立大学にて、日本施設園芸協会主催、大阪府立大学植物工場研究センター講演による成果報告会「次世代施設園芸拠点の運営管理の向上」のレポートです。

 

神奈川県と静岡県で直売を中心としたトマト施設栽培を行う(株)井出トマト農園の井出寿利社長に、「大規模法人経営 販売戦略、人材育成と仕組み作り」のテーマで、ご講演をお願いいたしました。井出社長はトマト農家の後継者で、大学卒業後に不動産会社の営業を経て就農をされ、規模拡大と経営拡大を徐々に進められ、現在は施設面積は約1.4ha、従業員は社員8名、契約社員、パート従業員を合わせ60名の大所帯です。売り上げは2017年は約1.5億円、2018年の予想は2億円を超える見込みとのことで、自社直売所とECショップでの直売比率が47%と高く、またイオンやオイシックス等のスーパー、ネットスーパーへの販売とほぼ同率で、残りは市場相対取引による販売で、利益率の高さが伺えます。

 

私も藤沢市の井出トマト農園の農場、直売所には何度もおじゃましていますが、お客さんは常に切れない様子で固定客の方の多さが伺えます。商品のポジショニングは市販のトマトよりも鮮度が良く、おいしいトマト、ということで、直売所価格も値ごろな設定をしており、ここでしか買えないフレッシュなトマトが手に入るということが人気の秘密のようです。

 

井出トマト農園の直売所で売られている桃太郎トマト(筆者撮影) https://www.idetomato.com/

 

〇三方よしの経営とは

 

井出さんによると、父親から経営委譲を受けてから順調に規模(面積、従業員数、売上)を拡大してきたものの、従業員が50名を超えたところで壁にぶつかったそうです。それまでは社内の仕組みを特に作らずに運営を行ってきたため、規模が大きくなるほど社長自身の負担が増え、残業月100時間レベルになってしまい、逆に従業員の離職率が高くなり、作が終わるキリの良い時期に大量の離職者が発生、そのたびに従業員募集をして一から教える必要があり、何とかしなければ、と考えるようになったそうです。

 

井出さんは、ある著名な経営コンサルタントの門をたたき、教育の重要性に目覚め、社員やパートさんに対して「会社と個人と顧客」の三方よしの経営を目指すことを伝えるようになりました。そして社員の教育により可能性を引き出すことに注力を注ぎ、社員の意見や提案を取り入れて、様々なルール作り(仕組み作り)や改善の取り組みを行うようになったそうです。

 

仕組み作りには3年ほどかかったようですが、今までまったく言語化されていなかったことを書き出すことから始め、規律やモラル、採用マニュアル、オリエンテーションマニュアル、作業難易度の書き出し、評価基準制度などを次々に文書化していきました。そして個人ごとに配布している冊子(CCS)の中に、企業の歴史と理念、計画と目標、財務諸表、KPI、組織図、規則とルールを盛り込み、さらに個人ごとの目標なども書き込むようにして、従業員が常に携帯して自分と会社の目標や発展を意識できる形にしたとのことです。

 

こうした取組みは一般の企業においてもなかなか実現できていないことではないでしょうか。そのことを農場経営の中で実践して、従業員と顧客、そして会社の3方よしの経営を目指すことで、社員や組織が自律的に回る仕組みをわずか3年で作りあげたことが、井出さんの経営者としての成長と発展そのものであったと思います。

 

〇作業管理アプリの開発

 

もうひとつの仕組みづくりとして、作業管理アプリの自社開発があります。従業員の能力向上のためには作業記録と集計が必須という考えの元、すでにMS ACCESS などを用いた自社アプリケーションの開発を行ってきた経緯があったのですが、従業員が常に携帯し操作している個人所有スマホでのアプリ利用を思い立ち、社長みずからがアプリの要件定義を行って外注によるアプリ開発を短期間で行っています。

 

主要な作業(収穫、誘引、葉かきなど)の作業時間記録をかならず行う仕組みを整え(入力漏れがないようにする工夫もされています)、その集計がリアルタイムでクラウド経由でされることで、各従業員単位や作業グループ単位、全社単位で現在の作業能力や単キングなどが把握できるようになっています。このことは各従業員や作業グループの目標と実績管理がリアルタイムで行えるということに他ならず、実績にもとづく作業指導などにすぐに結びつく形になっているものと思います。

 

また作業情報の他、収穫記録もスマホで行い、こちらもリアルタイムで集計することで、個人や品種、農場全体の収量が把握でき、収量計画と実績の対比がその場で可能となっています。このリアルタイム性は大変貴重と思われ、従来は日ごとや週ごとに事務担当者がエクセルなどで行ったいた集計作業を省力化するとともに、過去のデータに基づいた検討作業を、すべてリアルな情報に置き換えるという革新性が感じられます。

 

こうした作業管理や収量管理は、やがては収量予測などとも結びつく可能性が高いと思います。また開発されたアプリはすでに外販もされており、定額料金での導入が可能となり、今後の拡大が期待されています。

 

やはり経営者自らが、経営上の問題意識にもとづいて開発されたアプリには、機能上の強みや、経営面での応用の可能性を感じます。アプリ名はFarmOSです。

 

 

 

 

ホームページ「農業・施設園芸・植物工場の未来」もご覧ください

 

 

JUGEMテーマ:農業