環境制御の設定の自動化・省力化の流れ

複合環境制御、統合環境制御といった環境制御技術の導入が生産現場では進んでいます。メーカー各社も製品開発を積極的に行い、展示会にまいりますと様々な製品展示がされています。ヘクタール規模の大規模施設ではオランダなど海外メーカーの独壇場でしたが、最近では国産メーカーの対応製品もみられます。

制御機能や対応規模の面で進化をしている環境制御機器ですが、その一方で高価な機器をどのように使いこなすかが問われています。規模によりますが、本体とセンサー類を組み合わせた価格帯は100数十万円〜300万円程度と幅広く、制御機能は地上部環境(温湿度、飽差、CO2濃度)を対象に、各種機器(暖房機、ヒートポンプ、天窓、側窓、カーテン、CO2発生装置等)を制御するものが多くあります。それらの制御ではかなり多くの制御設定(目標値や補正値などの数値入力)が必要になっています。

 

 

ハウスの環境制御は様々な制御設定を元に行われます

 

制御設定での問題点

小規模や単機能の環境制御装置では起こらなかったことが、大規模化や複合機能化により顕在化しています。例えば制御項目の増加に伴う設定作業の煩雑化があります。これは制御点数が増えることで起こるもので、また最近の流れとして制御時間帯を細かく分割し時間帯ごとに設定を行うことがあり、時間帯の分だけ設定作業が掛け算で増えていきます。

さらに現場でのやっかいなこととして、天候の変化、変動に対応した設定の変更作業があります。これは日射量や外気温などの外部環境が大きく変化する場合、それに追随して制御設定を調整する作業です。気象が不安定な日などPCや機器の前に長い時間張り付いて天候をみながら設定を調整をする場合もあって、省力的と言い難い状況かもしれません。

 

制御設定の自動化の流れ

最近は制御設定の作業そのものを自動化、もしくは半自動化する製品も開発されています。知られた製品として、環境制御分野の専門家で元静岡大学農学部助教授の狩野敦先生が開発したDM-ONEがあります。特徴的な製品であり、メーカーの株式会社ダブルエムのサイトの説明を引用します。

 

 

(1)三つの制御コンセプト

一般の環境制御では、環境値(例:気温)が設定値(例:暖房設定温度,換気設定温度)を踏み越えない限り何も行いません。この場合の「設定値」とは温度範囲を決定しているにすぎず、気温が暖房設定温度〜換気設定温度の範囲に保たれていれば「正しく制御された」状態と言えます。

DM-ONEの制御では、まず、最適であると考えられる環境値(気温)が算出されます。予め換気や暖房のために入力しておく設定値はありません。DM-ONE内部の植物モデルが現在の環境値(日射、CO2濃度等)において最も純光合成が大きくなる気温を自動的に算出します。この「最適値」を目標温度として制御を行います。

次に、DM-ONEは、ある温度範囲を維持するのではなく、常に「最適」な温度を実現するために換気や暖房を制御しつづけます。一般の制御のように「設定」された値からずれた場合のみ機器制御を行うということはしません。

三つ目に、DM-ONEの制御対象は、可能な限り物理値(気温,相対湿度など)ではなく、栽培植物の生理機能値(光合成や蒸散)となっています。制御は気温や水蒸気密度の制御を通して行うが、その目的は純光合成速度や蒸散速度の制御です。

 

 

環境制御の考え方が独自であり、植物の生育モデルをもとに、現在の環境(日射量、CO2濃度など)での純光合成速度が大きくなる気温をもとめ、それを最適値として目標の温度として制御するということです。そもそも設定を行わない仕組みで、設定作業から解放されると言えるでしょう。

もう1社の製品をご紹介します。施設園芸が大変盛んな高知県のメーカーであるICHIKAWA(有限会社イチカワ)の統合環境制御システム、アネシスQ2600です。高知県との共同開発により生まれた製品で、この製品カタログの表紙には、次の特徴が書かれています。

 

 

・作物にとって最適な環境を維持して光合成を促進

・温度と湿度をバランスよくコントロールして病気を抑制

・天候やハウス内環境が変化するたびに設定を変える手間を省く

 

 

三つ目のフレーズに、「設定を変える手間を省く」とあり、様々な機能が実装されています。同社資料によると例えば天窓の開閉について、外気温の変化に応じて補正する機能があり、風向風速に応じて天窓開度を制限する機能(これは他社製品にもあるかもしれません)もあり、天気(曇り度合という指標を用いているようです)に応じて温度設定を変える機能もあります。いずれも補正機能で、人間が補正する代わりに制御装置が環境の変化にもとづいて自動的に補正する機能です。オランダ製の環境制御装置にも同様な補正機能は装備されていると思いますが、やはり設定が必要です。この製品の開発には地元の篤農家の意見も取り入れられているそうで、補正値の設定についても篤農家の意見が反映されているのかも知れません。

 

 

以上の2つはコンセプトはまったく異なるものの、制御設定を自動化するよう工夫された製品と言えます。施設園芸の専業メーカーが開発している製品とは一味違うものですが、こうした新たな流れも起きています。

 

制御設定のプリセット化での対応

制御設定の値は、最近の製品ではデータセットとして扱うようになっており、保存や読み込みも可能な機種もあるようです。これは季節の変化や生育状況に応じて適切なデータセットを読み込んで、設定作業を簡略化するものです。データセットそのものはノウハウと言え、篤農家のノウハウとして活用をはかるといった趣旨もスマート農業の世界では耳にするようになりました。それには知財としての扱いなど制度の整備が必要となるでしょう。一方で、その土地、そのハウスで活用できるデータセットを整理し、プリセットして簡単に扱うような製品の開発も起り始めています。完全にセット化すると融通は効かなくなるため、前述のような補正機能も組み合わせてフレキシブルな仕組みも取られているようです。

 

 

プリセット化しデータセットを選択することで、専門的な知識が無くとも現場の環境制御の管理の自動化(制御の自動化ではありません)がかなり進むのではないかと思われます。ただし植物の生育状況に応じた改善などは出来ないため、管理の自動化・省力化と生産性の向上には一定のトレードオフがあると言えるでしょう。

 

 

スマート農業と高度環境制御技術の進展の流れは強いものがあると思います。それを実際に使いこなすには経験やノウハウの蓄積も必要かと思います。ご紹介したような自動化・省力化の流れは、スマート農業の新たな動きとして注目してまいりたいと思います。

 

ホームページ「農業・施設園芸・植物工場の未来」もご覧ください

 

by 土屋農業技術士事務所 所長 土屋 和

 

 

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