高知県の施設園芸情報の一元化

日本農業新聞の5月3日付け1面トップに「施設園芸情報一元化 全戸にシステム普及 AIが分析栽培最適化・・」との見出しの記事があります。

 

高知県の施設園芸の進展

 

高知県では施設園芸は主要産業であり、知事のリーダーシップで様々な施策を進めています。技術面では、CO2施用などの環境制御装置の普及が行われ、それをサポートする専門の普及指導員の育成もされてきました。また天敵の導入もいち早く行われるなど環境保全型農業が施設園芸にも浸透しています。また、次世代型ハウスと称する高軒高ハウスの導入も支援しており、木骨ハウスと農業用ビニール利用のイメージが強かった施設園芸の現場も施設や設備の近代化が着実に進んでいると思います。

 

今回の新聞記事は、従来の施設園芸施策と成果をベースとして、さらに企業との共同研究成果による収量予測の精度向上や、IoPクラウドと呼ばれている様々なデータを一元管理する仕組みを構築し、施設園芸の全戸に普及させ、集まるデータをもとにハウスごとの栽培内容を見える化、AIが栽培モデルを作ったり、技術の高い農家のデータをもとに営農指導などに活かすというプロジェクトの紹介と思われます。非常に広範囲な仕組み作りと思われ、プロジェクトとしても施設園芸分野ではかつてない規模で現場を巻き込むものと考えられます。

 

内閣府の地方大学・地位産業創生交付金の高知大学への採択

 

この記事の内容は突然現れたものではなく、おそらく内閣府の「平成 30 年度地方大学・地域産業創生交付金」に高知大学などが応募して採択された「“IoP(Internet of Plants)”が導く「Next 次世代型施設園芸農業への進化」を元にしたものと思われます。

 

この交付金の趣旨は内閣府によると「地方を担う若者が大幅に減少する中、地域の人材への投資を通じて地域の生産性の向上を目指すことが重要。このため、「地域における大学の振興及び若者の雇用機会の創出による若者の修学及び就業の促進に関する法律」に基づく交付金として、首長のリーダーシップの下、産官学連携により、地域の中核的産業の振興や専門人材育成などを行う優れた取組を重点的に支援する。これにより、日本
全国や世界中から学生が集まるような「キラリと光る地方大学づくり」を進め、地域における若者の修学・就業を促進する。」とあります。

 

高知県では、高知大学や高知工科大学、地元のJA組織や金融機関、工業会などが参加する産官学連携プロジェクトとして採択され、初年度交付金が481,769 千円で5年間の交付が予定され、その5年間で10年先に向けた地域の自走をはかる趣旨となっています(参考ホームページ:平成 30 年度地方大学・地域産業創生交付金の交付対象事業の決定について 内閣府地方創生推進事務局

 

高知大学を中心とした大規模プロジェクトの内容

 

高知大学は、「“IoP(Internet of Plants)”が導く「Next次世代型施設園芸農業」への進化 」として、プロジェクトの概要を公開しています。参加機関や専門家の数が多いことが目を引きますが、主要なテーマは次の3つのようです。

  • 全国に先駆けてオランダの最先端技術を取り入れて普及を開始した「次世代型施設園芸システム」を、多様な園芸作物の生理・生育情報のAIによる可視化と利活用を実現する「IoP(Internet of Plants)」等の最先端の研究により、飛躍的に進化させる。
  • 「Next次世代型農業」の展開と「施設園芸関連産業群の創出・集積」、「アグリフードビジネスを担う人材育成」などを通じて、「若者の定着・増加」を図る。
  • 「Next次世代型農業」の普及とさらなる高度化を図る仕組み「IoP推進機構(仮称)」により、自走する体制を目指す。

 

このテーマから読み取れる内容は、オランダからの先端技術導入などで進化した施設園芸を、作物の情報まで対象に広げたAIを利用した高度なシステム(予測や栽培技術支援などと思われます)で進化させ、関連作業を発展させ、人材育成を大学などを通じ行って、若者の定着をはかり、それらを10年先を見据えて組織的に行う、ということだと思います。若者人口のこれ以上の流出を防ぐという深刻なテーマが大元にあって、その対策に内閣府が交付金によって支援を行うという枠組みと考えらます。

 

技術的にはAIやクラウド利用といった点に目が向きがちですが、県全体で10年がかりのプロジェクトに取り組むという志や危機意識も、この記事からはくみ取るべきでしょう。巨大プロジェクトのため、全容は記事からは理解しがたい面もありますが、このような交付金が法律で定められ、全国の7か所で動き出しているということです。施設園芸の関係者は、高知大学や高知県の試験研究機関、先端的な施設園芸関係者の動向にもこれから注視すべきかと思います。

 

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私の技術者人生(大学時代)

還暦になって、これからの人生に思いを巡らす時間を持つようになりました。未来は過去の延長にある訳で、技術者としての自分の歩みを振り返っています。

 

大学受験

 

進学校から国立大学を受験するも、志望校(農学系)には落ちる。私学は合格したが、学費のこともあり浪人を決断した。試験範囲を網羅できていないのが失敗の要因とわかっていたので、教科書レベルからやり直す。当時は地元に予備校は無く、都内に毎日通うのも大変なため、予備校単科コース(現国、生物、化学)通学と通信添削(Z会の英語、現国、数学)で対策することに。

農学系で生物と化学は直接関係する学科であったが、大学に入ってからは農学の中でも物理が重要であることがわかった。そのことを知っていたら理科の選択科目を変更していたかもしれない。受験科目ひとつで、その後の人生を左右することもある。

 

大学(教養課程)

 

大教室での大授業は予備校で経験済みだったが、代返やエスケープが日常茶飯事なのに驚く。勉強をしに来ているはずなのに、いったい大学はどうなっているのか?という素朴な疑問を持つ。フランス語で脱落したため、ついに自分もエスケープを始めてしまった。語学は継続が大切なのに、自ら放棄したことに悔やむ。

 

大学(専門課程)

 

農場実習で初めて栽培に触れる。果樹の剪定、野菜の定植から収穫、鉢花の手入れなど、どれもどうやったら良いのかまったくわからない。同級に農家出身、農業高校出身者がかなりおり、彼らにとっては何のことはなかったはず。逆に農業高校出身者は教養時代から英語には苦労していた。ゼミの英文輪読会も大変であったろう。3年次からナシやブドウ栽培の研究をしていた果樹研究室に入る。植物ホルモンに関する研究が盛んだったが、教授に割り当てられたのはナシのハウス栽培のテーマだった。ここで施設園芸に初めて触れた。たぶん現在につながるきっかけの一つだった。

 

農学原論という講義

 

専門課程の講義は蔬菜や果樹の栽培系と、農業気象やハウス環境制御などの物理系に大きく別れていたが、やはり受験で物理を選択しなかったことが響いた。試験でも最低限の点数しかとれず悔やまれた。そうした中で、「農学原論」という少人数のゼミ形式の講義があった。三原善秋先生という退官間際の教官で、江戸時代の農学者(安東昌益など)の教えを現代に当てはめての講義であった。他の講義とはまったく毛色の違う内容だったが、江戸時代のことをまさか専門課程で学ぶとは思わず、得をした気分であった。

 

コンピュータとの出会い

 

専門課程の実習にコンピュータの科目があった。当時は日立の大型機の端末が置かれ、大型機本体は遠く離れた本学の計算機センターにあった。パンチカード式のプログラミングがTSS端末に変わる時期であった。コンピュータ利用研究会(通称:端末研)が学部内で開催され、マニュアルを読み統計パッケージソフトの使い方を研究し、卒論や修論に使うものが多かったが、自分にはあまり役には立たなかった。別の研究室ではコンピュータを使ったハウスの環境計測や制御の研究をやっていた。同じ農学系なのにやっていることは全く違うのに愕然とした。しかし研究室のメンバーは畑の脇の小屋に寝泊まりし、徹マンをしていた。夜中から明け方の温度計測というのが名目のようだ。

 

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結局、そちらの研究室に出入りし、当時のNECのPC8001や、アップルコンピュータのapple兇覆匹某┐蕕擦討發蕕ΑF辰apple兇砲詫諭垢淵哀薀侫ックデバイスが接続され、日立の大型機とはまったく違う環境で、これも驚いた。葉面積の計測、表計算でのデータ集計、basicのプログラミング、ペンプロッターでのグラフ作成など、ナシのハウス栽培試験の卒論もこちらの研究室で作業を進めた。この研究室が農学原論の講義をされた三原善秋先生が創設された園芸環境工学研究室であった。栽培系ではない、純粋な工学系の研究室で自分とは縁のない分野と思っていたが、二人の教官との縁があった。

 

大学院進学

 

まわりが就職活動に熱心な時期に、自分はコンピュータで遊んでいた。結局、その研究室の助教授(古在豊樹先生、後の千葉大学長)に声を掛けられ、大学院に進学した。面接試験で隣の研究室の助教授(伊東正先生、後の千葉大副学長)にはコテンパンに質問責めにあったが、あとになって高校の大先輩ということがわかった。この二人の先生には社会人になってからも縁が続いた。

 

大学院で所属した研究室の35周年記念マグカップ

 

 

修士論文

 

修士論文は、果樹研究室との関係で、ブドウの剪定方法をCAI(Computer Aided Instruction:コンピュータ支援学習)で行うプログラミングであった。当時の最新機器であったPC9801シリーズのグラフィック機能をフルに使い、ブドウの成長や剪定後の様子などを何パターンか用意してシミュレーションするものであった。プログラミンそのものは没頭すれば難しいものではなかった。アルゴリズムも実際に剪定を実習でしていたのでイメージはできた。しかしプログラミングについて修士論文にすることは、また別の難しさがあった。研究室の先輩や後輩には、同様に様々なアプリケーションを開発し論文化していた学生も多く、参考にさせてもらった。

 

研究室特有の人材

 

しかしとんでもない後輩もいて、卒論でハウスの環境制御用コンピュータを基盤レベルから自作し、修論では植物の病害診断などに用いるエキスパートシステムを、これも言語レベルから開発した星岳彦さん(後の東海大学開発工学部教授、現近畿大学生物理工学部教授)だ。星先生には社会人になってからも折をみて最新技術などのレクチャーを受ける機会を得た。また研究室の先輩には、農林省の農業環境技術研究所や東北農業試験場で温室環境分野で活躍された岡田益巳博士、農業工学研究所で同じく温室環境分野で活躍された佐瀬勘紀博士が数年先輩におられた。今も大変お世話になっている東海大学名誉教授の林真紀夫博士も大先輩である。

 

東京大学との交流

 

研究室は、東大で同様な研究を行う研究室との交流があり、定期的にソフトボールの試合なども行っていた。東大の同学年の後藤英司さん(後の千葉大同研究室の教授)や、一学年上の本條毅さん(後の千葉大学の緑化環境システム研究室の教授)、数年上に仁科広重さん(後の愛媛大学副学長)とも良く一緒に楽しんだ。また東大の教授であった高倉直先生(後の福岡国際大学長)には長くお付き合いいただき、最近は沖縄県農業研究センターに赴任されてからも、沖縄の施設園芸をご紹介いただいている。

 

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研究室と現在の自分

 

 

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高度環境制御技術とは?

植物工場の定義に、高度環境制御技術という用語が出てまいります。以前は複合環境制御という用語が一般的に使われ、最近では統合環境制御や総合環境制御という用語も使われています。字面からも微妙に意味が違うように思えます。時代をさかのぼってみたいと思います。

 

制御盤から複合環境制御盤へ

温室内の環境制御機器は、暖房機、カーテン装置、天窓や側窓などの換気装置、循環扇や換気扇、CO2発生装置、細霧冷房装置など多岐にわたります。おのおのの機器の動作は、専用のコントローラやサーモスタット装置で行われていました。単純なオンオフ設定からタイマー設定、センサーの信号にもとづく目標値の設定など、次第に制御内容が強化されてきました。しかし、装置の数だけ制御盤や制御装置が必要となり、それだけでもスペースをかなり取ることになります。また操作や設定の作業も煩雑になります。

 

複合環境制御装置は、上記の各制御盤や制御装置の機能を一体化したものと言えます。複合環境制御装置にはインプットに当たるセンサーからの信号が送られ、内部で演算や判断を行い、アウトプットに当たる各制御機器の動作をコントロールします。その際に複数の機器を制御することから、複合環境制御装置と呼ばれるようになりました。

 

複合環境制御装置は、昭和から平成にかけての製品であり、昭和には複数の専業メーカーが製品開発や販売を行っていました。しかし市場もさほど広がりをみせず、多くのメーカーは廃業や撤退をし、生き残ったのはごく一部でした。

 

国産の複合環境制御装置

 

生き残ったメーカーの製品の機能をみますと、単に複数の機器の動作を制御しているだけでなく、例えば日射量と温度、タイマーと温度など、複数の要因から判断を行うアルゴリズムを搭載しており、ある程度の複雑な制御を行うことができるものでした。また動作自体も、天窓であれば少しづつ開閉して急激な外気の侵入を防ぐような工夫もあり、カーテンであれば同様に少しだけ隙間を開けて少量の換気を促すような機能もありました。機器操作の自動化の段階から、温室内の環境(温度や湿度)を適正に保つ、安定化する方向に向かっていたと思います。価格は数十万円から百万円程度でした。

 

オランダの統合環境制御装置の登場

平成の中期になると大規模施設園芸が徐々に国内に建設されるようになりました。そこでは大面積での制御点数が増加し、国産の従来型の複合環境制御装置では手に余る状況となっていました。必然的に、すでに大規模施設園芸が普及していたオランダの製品が使われるようになり、大規模施設園芸とセットで語られる時代が到来しました。Privaが、その代表例です。

 

Privaのような統合環境制御装置の特徴は、センサーの入力点数と制御用の出力点数が多く大面積の施設に対応していたことです。また、温湯配管による暖房や、潅水装置、液肥混入機、培養液殺菌装置などの大規模で複雑な系統にも対応したものでした。さらに内部の制御アルゴリズムも様々な設定や補正機能を持ち、設定項目が何百もあるという複雑なものでした。これは現在も変わっていません。導入し使いこなすためには、メーカーやコンサルタントの支援を受ける必要もありました。システムの価格も1000万円台となるものでした。

 

国産の統合環境制御装置の登場

平成時代の後期になると、オランダの製品ほどの大規模施設や温湯配管、養液栽培の系統までは対応をしていないものの、ある程度の面積と複雑なアルゴリズム、PCや携帯端末との接続機能やデータ閲覧機能などを持った国産のシステムが登場しました。これらも統合環境制御装置と呼ばれており、価格は数百万円台のものが多いようです。環境の見える化が言われ始め、また様々な環境制御のテクニックが導入されるようになって、それらに対応した制御装置が求められるようになったものと思われます。メーカー数も多く、施設園芸の製品の中では激戦であると思います。

 

 

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高度環境制御技術への移行と課題

 

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高度環境制御装置と養液栽培施設の導入面積

農水省の「園芸用施設の設置等の状況(H28)」は、施設園芸の面積や栽培品目、付帯設備の導入状況などを調べるための必須資料です。都道府県ごとの調査をまとめたもので、項目数も多岐にわたっています。施設園芸の付帯設備の中で、高度環境制御装置と養液栽培施設に注目して調査結果を都道府県単位で再考してみたいと思います。

 

施設園芸面積と加温設備、高度環境制御装置、養液栽培施設の導入面積

 

施設園芸面積と加温設備、高度環境制御装置、養液栽培施設の導入面積 (農林水産省:園芸用施設の設置等の状況(H28)をもとに作成)

 

グラフは施設設置面積の上位都道府県を左から並べたものです。施設園芸の盛んな都道府県がどこかは一目となります。また加温設備、高度環境制御装置、養液栽培施設の面積も都道府県ごとに加えています。施設設置面積に対し加温設備の導入比率の高い都道府県(宮崎、愛知、栃木、静岡など ※高知の加温設備面積の値は低すぎるようです)も一目となります。

 

宮崎県はほとんどが加温設備が入っており、同じ九州の熊本県では半分程度となっています。熊本県にはまだまだ無加温の施設が多いことになりますが、宮崎県の施設園芸はきゅうり、ピーマンを始めとする越冬栽培の比重が高いとも言えます。もちろん熊本県は施設設置面積も加温設備の導入面積も全国ではトップとなり、大産地を形成しています。

 

また愛知県、栃木県、静岡県といった施設園芸産地県でも加温設備の割合が高く、いずれもトマトやメロンなどの越冬栽培を中心に産地形成がされてきたと想像します。その次のグループが福岡、佐賀、長崎の九州勢、群馬、千葉の関東勢となり、トマトやキュウリを中心とした越冬栽培の産地がある県であります。また宮城県も半分程度に加温設備が導入されており、夏秋栽培と越冬栽培が同程度の面積であると言えます。宮城県は近年、大規模施設が数多く導入されており、加温設備の導入比率も上昇傾向にあると思われます。

 

高度環境制御装置、養液栽培施設の導入面積

 

同じデータから、高度環境制御装置と養液栽培施設の導入面積だけを取り出し、上位の都道府県だけを抜き出してグラフ化をしてみました。

 

高度環境制御装置、養液栽培施設の導入面積 (農林水産省:園芸用施設の設置等の状況(H28)をもとに作成)

 

このグラフでは、双方の装置設備の導入状況に異なる傾向が各都道府県で見られます。養液栽培施設面積>高度環境制御装置面積のところと、その逆のところに二分されています。養液栽培施設面積の比率が高い都道府県は、そもそも養液栽培が盛んなところで、愛知県のトマト、宮城県のトマトやパプリカ、香川県のイチゴ、大分県のトマトやイチゴ、静岡県のトマトなどです。そうした県は養液栽培の導入が先行し、後になってから高度環境制御装置の導入が進んだものと思われます。これは近年の動向に合致していると思われます。本来であれば双方の装置施設が導入されて相乗効果を上げていくべきなのでしょうが、タイムラグが実際にはあると思われます。

 

養液栽培施設面積の低い都道府県は、福島県、福岡県、熊本県、群馬県などで、養液栽培はそこそこ取り組んでいるところ、ほとんど取り組まれていないところと言えるでしょう。

 

このグラフを俯瞰してみると、施設設備の導入面積から見ると愛知県と宮城県が全国をリードしているように思えます。また養液栽培の歴史の方が高度環境制御技術の歴史よりも古いと言えるため、全体的には養液栽培施設の面積割合が高くなっていると思われます。

 

この先の装置設備導入の伸びしろがどの程度あるかは、なかなか読み取れませんが、養液栽培が先行して導入されている都道府県には高度環境制御装置の導入の余地があるように個人的には思えます。また土耕栽培が盛んな都道府県もあるため、養液栽培化が急速に進むかというと、そうでもないのではと思います。各都道府県の主要品目や作型などを思い浮かべながら読み取ると面白いグラフであると思います。

 

 

 

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農業・施設園芸への企業参入

昨日(4月29日)の日本農業新聞アグリビジネス面に、農業参入企業に対し行ったアンケートの結果を記事にまとめられていました。農業参入の理由として、新規事業の展開、地域貢献、本業の付加価値化などをあげる企業が多い、という記事内容でしたが、解説として農地法改正による農地リース方式による参入自由化があげられていました。

 

農地法改正での農地リース自由化と企業参入

 

資料:農林水産省経営局調べ(平成29年12月末現在)

 

10年前の2009年の農地法改正によって、農地リース(借地)が自由化され、一般法人が農地を借りることができるようになりました。その法人数は2017年末で3030法人になり、改正前の9.7倍とのことです(農水省資料からの解説記事)。3030法人のうち約4割が野菜栽培となり最多とのことで、その一部は施設園芸を行う法人となります。法人の内訳は、農水省の資料:一般企業の農業参入状況(平成29年12月末)に掲載されており、食品関連産業からが21%(632法人)、建設業からが11%(335法人)、NPO法人からが9%(263法人)、その他(サービス業他)からが23%(684法人)などとなっています。

 

いずれの法人も農地リース自由化前には農地の貸借は自由に行えず、農業参入や施設園芸参入での農地利用には制約があり、この自由化によって企業参入が容易になった訳です。実際の農地貸借には、地権者との交渉、とりわけ複数地権者に対する合意形成が必要で、手間と時間を要することが多いのが実態です。これは地権者数が多いほど大変な手続きとなり、企業参入では地元の協力が重要になってきます。農業新聞の記事にある企業の農業参入の理由の2番目には地域貢献とあり、これも当然の理由と言えるでしょう。

 

施設園芸分野への企業参入と成否

 

農水省の資料には施設園芸分野への参入状況の記載は残念ながらありません。しかし全体の4割の1,246法人のうちの一部は施設園芸であり、相当数が該当するものと思われます。特に最近の数ha規模の大規模施設園芸では、そのほとんどが企業参入であり、農業新聞の記事の農業参入理由のトップである新規事業展開(約70%の企業があげる)を中心に事業化を進めていると思われます。例として全国10箇所で大規模施設園芸を行っている次世代施設園芸拠点の事業主体は、すべて株式会社や有限会社です。また大規模施設園芸が集積する山梨県北杜市にも株式会社による参入が多数あります。この背景に農地リースの自由化があることは間違いありません。

 

また解説記事には、技術習得や人材確保といった課題から撤退する企業が多い、と軽く触れられています。撤退理由には様々な要因があるはずで、この2点だけで判断すべきでは無いと思われます。やはり事業計画段階で、技術習得や人材確保も含め、栽培施設の妥当性や生産コストの試算、販路確保などを含めた実現可能な経営計画の策定が求められるでしょう。

 

記事の約半分では最近の企業参入の事例として、大手不動産会社と農業ベンチャーが共同で出資した農業法人の経営を紹介しています。千葉市でハウス2棟(計43a)での高糖度ミニトマトの栽培を行うとあり、課題は安定生産と販路確保とあります。またミニトマトを糖度別に販売し、小売価格は一般的な商品の2,3倍でスーパーを中心に販売するとあります。スーパーで販売される野菜の高額商品は高糖度トマトやイチゴなど一部に限られており、そこでの販路開拓は確かに課題と思われます。また安定生産が課題とあるのは具体的には不明ですが、高温期や寡日照期などの安定生産を指しているのかもしれません。こうした課題を織り込んで立ち上げてから数年かけ経営を軌道に乗せることが、企業参入での成否につながるものと考えられます。

 

企業参入による施設園芸の未来

 

おそらく施設園芸への企業参入は途切れないものと想像します。新規事業の創出や展開は、どの業界、どの企業に置いても常に課題であり、その候補には農業分野や施設園芸・植物工場分野が今後も必ずあげられると思われます。記事の解説として企業の農業参入に詳しい岡山大学の大仲准教授のコメントがあり、今後の企業参入増加に対し農業現場での企業とJAなどとの共生の必要性を示されています。これは人材確保などでの競合発生を懸念されてのことですが、その他にも販売や物流での共同化、現場からの技術的な支援、企業経営のノウハウの提供など、様々な共生の関係が考えられます。単純な企業参入から地元を巻き込み協調をはかる共生関係は確かに未来への道筋に思えます。

 

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土耕栽培と養液栽培の未来

養液栽培面積の増加

 

養液栽培の面積は年々増加していますが、最近の平成28年の農水省調査では、施設栽培面積43,220haに対し養液栽培面積2,003haで約4.6%でした。平成19年の同調査では、施設栽培面積50,608haに対し養液栽培面積1,375haで約2.7%でした。この9年間で施設栽培面積はマイナス7,388haと約14.6%減少し、養液栽培面積はプラス628haと約45.7%増加しています。

 

 

 

一方で施設栽培面積から養液栽培面積を差し引いた土耕栽培面積は、平成19年には49,223ha、平成28年には41,217haとなり、マイナス8,006haと約26.3%の減少となります。この数字だけ見ると土耕栽培の減少率に対し、養液栽培の増加率が非常に高く見えますが、いまだに施設栽培面積の95%以上は土耕栽培となり、日本の施設園芸の中核を占めていると言えるでしょう。


品目別の養液栽培面積

次に品目別に見てまいります。グラフは年次、作物別の養液栽培面積(単位:ha)です。この中で養液栽培の多くを占めるのがトマトといちごです。当初よりトマトの比率は多く、その後も安定的に伸びてきたと言えます。また、いちごの伸びも安定しています。次に多い「その他」の内訳は明らかではありませんが、ほうれんそう、ベビーリーフなどの葉菜や、パプリカなどの果菜が該当していると思われます。

 

品目別の養液栽培実面積推移(単位:ha) 資料:農林水産省 園芸用施設の設置状況等(H28)


農林水産省 園芸用施設の設置状況等(H28)によると、平成28年にはトマトの栽培延面積約7,083haに対し養液栽培実面積は約720haとなっており、いちごでは栽培延面積約3,856haに対し養液栽培実面積は約661haとなり、他の野菜よりも比率は高いと思われます。その背景として、トマトの大規模施設ではほとんどが養液栽培(固形培地耕)を導入していること、いちごでは省力化や観光農園用に高設栽培が普及していること、などがあげられます。

それにしてもですが、トマトでもいちごでも施設栽培の大半は土耕栽培であり、オランダのように養液栽培が中心の施設園芸とは様相が異なっています。

養液栽培と土耕栽培の未来

先ほどのグラフの傾向を見る限りでは、今後も養液栽培面積の増加が見込めるかもしれません。施設の大規模化と養液栽培の導入には高い関係があり、企業参入や農業法人の経営拡大にともなったそうした傾向は今後も続くことが考えられます。

 

しかし、中小規模の個人経営農家の場合、大規模施設への設備投資のみならず、養液栽培への設備投資にどれだけ積極的になれるかは、未知数な部分もあると思います。導入に対する費用対効果がまず気になる部分であり、導入によって経営の損益分岐点が上昇する分を収量増や売上増でカバーする必要がありますが、トマトのように市場価格が低下傾向にある品目では投資にはどうしても及び腰になるかと思います。キュウリやイチゴであれば単価が安定しているため投資の計算もしやすいかもしれません。実績のあるイチゴ養液栽培の面積増、養液栽培の実績がまだ少ないキュウリ栽培の動向など、注視すべきことになると思われます。

 

養液栽培の動向を中心に考えておりますが、養液栽培と比較した場合に土耕栽培にも様々なメリットがあります、例えば・・

・設備投資が少なく、損益分岐点が低い

・栽培ベンチやベッドが無い分、空間容積を有効に使える

・土壌からハウス内への水蒸気やCO2の供給がある(マルチ展張による低減はある)

・土壌消毒期間を長くとるため、休養期間も長い

・脱着式レールを敷設することで、高所作業車も養液栽培と同様に利用できるようになった

ということがあると思います。

 

一方で、デメリットとして

・作替え時の土壌消毒や堆肥投入が必要で、栽培期間も短くなり、労力も余分にかかる

・土質や土壌の均一性により、保水性や排水性が異なり、調整が必要

・養液栽培に比べれば根圏の容積は大きいが、少量多頻度潅水を行わないと水分率の変化が起こりやすい

・土壌病害のリスクがある

・初期の土壌改良が必要な場合がある

・大規模栽培では、堆肥投入作業や土壌消毒作業の負担が大きい

 

以上のような両面があり、ケースバイケースで判断が必要なところもあると思います。最終的には投資を伴うことなので、収量や売上、作業労力や投入資材などの経済性と、栽培技術の難易度などを総合的に評価する必要があるでしょう。いずれも絶対ではなく、未来に向けて残ることは間違いないと思います。また環境負荷の問題も含めた総合的な評価が必要な時代になっていると考えます。

 

 

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施設園芸、植物工場、スマート農業の違いは?

今さらですが、植物工場には太陽光型植物工場と人工光型植物工場があります。その定義をおさらいしてみます。

 

農商工連携ワーキンググループでの検討

 

2009年から農林水産省と経済産業省が共同で開催した「農商工連携研究会植物工場ワーキンググループ」での検討で、次のような定義が行われています。

パプリカハウス(オランダ)

 

「植物工場は、施設内で植物の生育環境(光、温度、湿度、二酸化炭素濃度、養分、水分など)を制御して栽培を行う施設園芸のうち、環境及び生育のモニタリングを基礎として、高度な環境制御と生育予測を行うことにより、野菜などの植物の周年・計画生産が可能な栽培施設である。この概念にあてはまる栽培施設として、大きく分けると、閉鎖環境で太陽光を使わずに環境を制御して周年・計画生産を行う『完全人工光型』と、温室などの半閉鎖環境で太陽光の利用を基本として、雨天・曇天時の補光や夏季の高温抑制技術などにより周年・計画生産を行う『太陽光利用型』の2類型がある(後略)。」

 

これを読むと明らかなように、植物工場は施設園芸の一種と定義されています。さらに施設園芸の中で、以下の3条件に合うものを植物工場と言っています。

・施設内で植物の生育環境(光、温度、湿度、二酸化炭素濃度、養分、水分など)を制御して栽培を行う施設園芸であり、
・それらのうちで、環境及び生育のモニタリングを基礎として、高度な環境制御と生育予測を行うことにより、
・野菜などの植物の周年・計画生産が可能な栽培施設。

 

植物のモニタリングと生育予測

 

10年前の定義ですが、現在での通用するものと思います。生育環境の高度な環境制御は、施設園芸全体の数%で行われていると言われます。また生育のモニタリングや生育予測については、さらにそれらの一部で行われている、もしくは取り組まれ始めていると考えられます。10年前に生育予測について言及していたことは、かなり先を見ていたと言えるでしょう。簡単な収量予測であれば、前年や平年の実績と現状を比較し、さらに着果数などをモニタリングして精度を高める手法が現在は取られています。

 

このワーキンググループで言う生育予測は、施設内環境と同様に、植物の生育そのものをダイレクトにモニタリングするようなことを言っていると、文脈からは読み取れると思います。それについては、一部で実用化は進んでおりますが、広く現場で取り入れられているわけではないでしょう。

 

施設園芸と植物工場、スマート農業へ

 

この点にこだわれば、施設園芸と植物工場の違いにフォーカスできるかと思います。より精度の高い生育予測によって、計画生産や計画出荷の精度を高めることで、植物工場での野菜などの生産技術に到達できる、という考えになります。技術志向的なコンセプトに感じられますが、現在、盛んに取り組まれているスマート農業へのステップアップとも捉えられます。

 

5年前の農水省のスマート農業の将来像に関する報告では、スマート農業を「ロボット技術、ICTを活用して、超省力、高品質生産を実現する新たな農業」としています。さらにその一分野として「作物の能力を最大限に発揮」があり、そのことを「センシング技術や過去のデータに基づくきめ細やかな栽培<精密農業>により、作物のポテンシャルを最大限に引き出す多収・高品質を実現」と説明しています。

 

「作物のポテンシャルを最大限に引き出す」という言葉が盛り込まれ、より高い生産性を目指すのがスマート農業と言えそうです。そのプロセスでは植物の生育モニタリングや生育予測も要素技術として活用されるはずです。またスマート農業では、技術志向のところはあるものの、作物のポテンシャルに言及しているように、植物にフォーカスを当てた技術を更に指向しているように感じとられます。

以上のように、施設園芸〜植物工場〜スマート農業の流れを追っていくと、未来の農業へのステップがイメージできそうです。

 

 

 

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国産野菜の生産と植物工場の未来

国産野菜の需要と植物工場の未来

植物工場について、マスコミではブーム的に取り上げられることが多く、撤退や倒産があると、さも植物工場全体がダメという論調がありました。ブームがあったのかどうかも定かではありませんし、この先もブームは訪れないと思います。

生鮮野菜を生産する太陽光型や人工光型の植物工場が存在しているのは、国産の生鮮野菜に対するニーズによるもので、もし輸入の野菜で良いという国民の意識が大勢ならば、わざわざ手間をかけ国内で植物工場で野菜生産をする必要はないと思います。国産の野菜を生産する農家数が急激に減る中で、それを補完するための植物工場や、参入企業はこれからも一定数で増えていくと思います。

絶対需要と市場内競合

国産野菜に絶対的な需要が存在するなら、それに向けたビジネス化の流れが止まることは無いと思います。しかし、同じ方向、同じような生産や販売を指向する参入者が増えてしまうと、お互いの競合が発生して折角のパイを食い潰してしまう恐れもあります。ここ数年のトマト生産の増加と価格低下が典型例と思いますが、数量の増加以上に市場価格の低下は大きくなるため、影響はかなり大きいと思います。やはり、ほどほどが肝心であって、競合しない程度の生産販売に注意する必要があるでしょう。

今後の品目展開

高度環境制御を行う太陽光型植物工場や人工光型植物工場では、それに適した栽培品目は今のところ限られていると思います。太陽光型ではトマトが主流であり、数はまだ少ないもののパプリカやイチゴの例があります。また全農がゆめファームのプロジェクトとして高知県でナス、佐賀県でキュウリの大規模栽培を開始、もしくは計画しています。葉菜ではサラダ菜などのレタス類、村上農園を中心としたスプラウト類がありますが、一般の施設園芸に比べると品目が限定されています。しかし特に果菜類はいずれも施設園芸の中心品目であり、トマトとパプリカ以外は生産者や栽培面積の減少が顕著なことから、植物工場による生産の補完は意味あることと考えられます。

 

レタス類栽培を統合環境制御により行う太陽光型植物工場(ひむか野菜光房・宮崎県)


人工光型植物工場では、相変わらずでありますが、リーフレタスやサラダ菜などのレタス類が中心であり、これにハーブ類やベビーリーフが少数ながら続いています。あまり強い光を必要としないレタス類の栽培が人工光型での品目の中心となっています。また、新顔としてイチゴの栽培も数例ですがみられます。詳細の情報はまったくわかりませんが、周年出荷のため四季なり品種を用い、長期間引っ張るような作型で安定供給をはかる仕組みではないかと想像します。

一般の施設園芸と植物工場の棲み分け

太陽光型植物工場は1ha以上の規模で、高度環境制御と養液栽培での生産を行う施設として、最近は定義がされています。個人経営の農業生産者で1ha規模の施設を建設した例は早々なかったと思います。これは数億円の建設費と、補助事業が組まれたとしても補助残の調達が大変であることなど、資金面の問題が大きいと思われます。またまとまった用地を取得するには複数の地権者の同意が必要であり、それを個人が調整して進めることにも困難が伴うことがあります。

このようなことから太陽光型植物工場は一般には企業参入による取り組みと考えられてきました。個人経営の生産者では、数10a規模の施設を順次増設して全体でha単位となる経営を行う場合が見られます。しかし数10a単位の施設に比べha単位の施設では、作業面の効率性向上、部材点数削減などによる施設コストの低減、温湿度などの栽培環境の安定化などのメリットもあり、今後は大規模施設での経営に意欲を示す生産者も、特に若手を中心に増えるはずです。

今後は植物工場が企業だけのもの、という意識にとらわれることなく、特にネックとなる施設コストや資金調達、用地確保の問題の解決に望みながら、国産の野菜生産と施設園芸の維持発展を考えていくべきではないでしょうか。

 

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植物工場の動向について

毎年4月には、勤務先で植物工場についての実態調査を公開しています。太陽光型や人工光型の植物工場の箇所数や、経営収支状況とその分析、都道府県別リストなどが掲載されています。同様な調査は他には無く、また経年で実施しているため、マスコミからの問い合わせ、記事掲載も多いものです。日本農業新聞でも毎年、紹介記事が掲載されています(今年はまだのようです)。以下に個人的見解、雑感となりますが、コメントを記します。
 


植物工場の収支状況

おおまかにですが、黒字、赤字、収支均衡という設問でアンケートを行っており、調査報告ではそれらの回答と、設置年数、規模、雇用者数などとの集計も行っています。「植物工場の半数が赤字」といった記事を良く見かけますが、年数を経て施設の償却が進めば収支も改善され、その傾向は調査結果にも出ています。また新規参入の場合は、特に初年度や2年目は生産が安定せず目標の出荷や売上に達しない場合もあると思われ、それも赤字発生の要因になっているはずです。初期投資額が大きいほど黒字化は長期化する傾向かと思いますが、資材費の高騰や自動化省力化の設備投資のなどにより、この傾向は続いていると思います。

植物工場への新規参入

植物工場の分野がマスコミの取材対象になっているのが自分としては不思議に思うところがあります。植物工場も一般の農業や施設園芸分野の一つであるはずで、特別なことでは無いと思っているためです。しかしマスコミ側とすればニュースバリューがあるから取材をされている訳でしょうし、植物工場情報に一定の需要があるためと考えられます。

おそらく多くの日本企業では、本業が安定化、もしくは低落傾向にあって、新規事業を常に模索しなければならない状況にあると思います。その際の対象にアグリ事業や植物工場事業が必ずといって良いほど取り上げられるものと想像をします。かれこれ10年ほど、そうしたことが続き、その間に新規参入と成功、撤退が繰り返されたことで、この分野に関心を持たれる一定の層が形成されたのでは、と考えられます。参入企業は製造業や食品産業、建設業など幅広く、また最近では融資や出資をする金融業の関心も高まっていると思います。

植物工場は特別か?

確かにLED照明でのレタス栽培などは、一般の農業と比較すれば極度に設備化や制御化が進んだ先端的な農業に見えるかもしれません。また、数ヘクタール規模の大規模なハウスでのトマト栽培も、一般の施設園芸に比べれば別世界に見えると思います。その分の投資額も増え、同じトマトやレタスを作っている露地農家や施設園芸農家との競争で不利にならないよう、栽培品目や品質で特徴を出すことが植物工場経営のポイントのように言われて来ました。

しかし、植物に期待される能力と収量(最近はポテンシャル収量と呼ばれることが多い)を実現するよう、環境を調節し、水分や肥料を適切に与えるという栽培の基本は、一般の農業でも植物工場でも変わらないと思います。一般の農業と異なる点として、巨額の投資を回収するための経営能力や、大量生産による収穫物の販売能力、大勢の作業者などを管理する組織運営能力などがあると思います。しかし、これらの能力は製造業や流通業などの企業経営では当たり前のように行われていることで、取りたてて植物工場向けに考慮しなければならないことでは無いでしょう。

以上のような雑感ですが、マスコミの問い合わせ受けたり、記事を拝見するたびに思っております。そうした間にも現場の改善もどんどん進んでおり、植物工場の経営なんて簡単です、といえる時代が来ることを期待している訳です。

 

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半農半Xという生き方と施設園芸

京都府綾部市の塩見直紀さん(半農半X研究所 代表)が提唱する「半農半X」という言葉が誕生したのは、1993〜94年頃。すでに四半世紀が立ちました。「半農半X」とは、持続可能な農ある小さな暮らしをベースに、天与の才(X=天職、生きがいなど)を世に活かす生き方、であるそうです。
 

 

塩見直紀、半農半Xという生き方 (ソニーマガジンズ)


地球環境問題と半農半X

 塩見さんは、半農半Xの背景として、地球環境問題と天職問題の二つをあげています。温暖化や気象変動など地球環境問題の顕在化は、持続的な生産活動や生活に大きな疑問を投げかけています。また天職問題とは塩見さんの造語ですが、自分の使命は何で、人生をどう生きるかということ、だそうです。人は個性を発揮できる時代になったが、実際にどう生きるか、かえって個性を失う時代で、世界も方向性を失っている、生きる意味を失う人も多い、だんだん生きづらくなっている、という背景を上げています。

 そして、環境を維持しながら自分の使命をもとに働き続ける方法として、小さくてもどこでも耕すこと、育てること、生き物に触れることの実践を上げています。そして人間が一番をいう心を捨て、自然に対する感性を取り戻すことから始め、そうした場所を自分で作り、謙虚に、かつ創造的に生きることを目指す、という新たな生き方の提案をされています。

 

半農半Xの考えは、塩見さんの書籍が台湾や中国で翻訳、出版されることで共感を呼び、特に中国での反響が大きかったそうです。また、半X半ICTなどを掲げて若者の移住や職場の提供をはかる自治体も出現するなど、生き方や考え方から政策レベルにまで変わりつつある、というのが最近の動きとして見られるそうです。

施設園芸の生態系での仕事

 施設園芸を仕事としている農家や農業法人の皆様は、毎日のように植物の発芽から成長、開花や結実などに触れ、その過程をいかにスムーズに進めるか、いろいろな工夫や苦労をされていると思います。また、トマトならトマトだけ、イチゴならイチゴだけ、というモノカルチャー化が進む施設園芸ですが、一方で化学農薬から生物農薬、天敵の利用へのシフトがかなり進んでいます。

 天敵は購入資材として利用されてきましたが、バンカープランツを利用しハウス内で天敵を保護しながらの利用も一部で進んでいます。さらに土着天敵という地域に生息する生物を天敵利用する方法も研究や実践が進んでいます。また、ルーペで拡大しなければ見えないような天敵生物や害虫の行動や増殖を観察し、植物と天敵にプラスとなるような管理を進めることになります。これは施設園芸の生産現場で、小さな生態系と一緒になり活動する仕事にも思えます。

 天敵利用にとどまらず、植物の生育のケアをしながら施設園芸の現場で働く人たちは、生命とかなり密接に関わる環境にあると言えます。それを日々意識しているかどうかは別ですが、半農半Xとはまた一味違う生命と共存する仕事、植物のDNAの働きを良くするようハウス環境や潅水などを制御する仕事、さらに生き物の命をいただくことで成り立つ仕事が、施設園芸であると思います。「植物の声を聞く」という篤農家的なことはほとんど聞かなくなりましたが、広大なハウスに何万本もの植物が生育しているとしても、植物の日々の変化や様子を伺いながら、環境や虫たちの動きも見つつ、自分らも一緒に生きているということも大切にしたいものです。



 (参考記事:日本農業新聞 2018年10月14日付 オピニオン欄 塩見直紀、半農半Xの今)

 

 

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