世界都市農業サミットin練馬

世界都市農業サミットが練馬区などの主催で開催され、世界の都市農業の報告がされるという貴重な場で、うち生産販売分科会に参加しました。一言で都市農業と言っても様々な形があり、それぞれの課題解決の手段としても取り組まれていましたので、その一部をお伝えしたいと思います。
 

 



練馬での都市農業の報告

 渡戸さんという1.3haで年間30種の野菜、うち江戸東京野菜の10種を栽培、庭先販売中心に行う生産者からの報告がありました。出荷形態が他にも市場出荷、JA直売所、レストラン飲食店向けと多様なのが都市農業の特徴であること、物流費低減や鮮度などのメリットと、品揃えのための多品目栽培で農閑期がないデメリットなどがあること、しかし消費者にとっても多様な販売形態があることが都市農業の特徴であることを言われました。また他に都市農業の価値として、加工による付加価値向上、農業の魅力の発信、農業のコミュニティーの構築、災害時に農地でできることなどをあげられました。

 特に加工についてはレストランや菓子店などのつながりが強く、そうしたプロを通じて地元野菜の情報発信や利用がされている事例も報告されていました。しかしスーパーなどでの地元産野菜の販売は実態としてまだまだとの意見もありました。また2015年に都市農業を振興する法律が制定されてから、都市に農地を残す政策が動きだして、練馬には200ha以上の農地があるとのことで、特に都心の農業経営では後継者のいる割合も8割程度と高く、若い生産者が多いのも特徴でした。

 京都の生産者も仲間の一人として登壇され、京野菜の生産から個別訪問販売(行商による顧客を200件)の紹介もありました。この先、東京と京都の生産者の連携があるかどうかですが、販売面での取り組みもいろいろな形で出てくるとの印象でした。またこれから先、遠隔地の農業と都市農業の連携も何か出てこないものかと思った次第です。


ニューヨークのCSA(地域支援型農業)の報告

 NYからNPO活動による60エーカーの有機栽培農園でのCSA(Customer Supported Agriculture)の取り組み報告がありました。CSAは農家を支援する会員が会費を先払いし、販売先を確定して生産を行う形態の農業のことです。会員25名からスタート、3年目で100名になり、また職場向けのCSAを作り、職場に収穫物を送り受け取る仕組みを作ったとのことです。野菜以外にも蜂蜜、果物、家畜にも取り組み、様々なイベントやオフィスに加工品を持ってまわるなどの活動も進め、農家によるオフィス訪問、農場への招待、持ち寄りパーティーなどの企画の紹介もありました。こうした活動の背景にはオンライン販売などとの競合があるそうです。

 メンバーにニュースレターを送り、ユニークな野菜への紹介とレシピを教えているとのこと。データも大切にし、CSAシーズン後にアンケートを送り、半数が初めてのメンバー、また半分以上が女性(20-30台半ば)で、レシピを得られること、新鮮なこと、オフィス配達の利便性が良いとのことを会員が評価しているとのことでした。

 つぎに、子供たちに健康で独立した食習慣を教え、特に若い頃から教えることの重要ということで、ファーストフード中心の生活を改め、料理の基本を教え、種まきから収穫、調理までを体験させ、またコミュニティー作りも教えることで、次の世代にも農業や食について伝えることができるとのことでした。このNPO活動はビジネスとしても成り立つよう工夫されていますが、子供の食生活改善というミッションのための活動をCSAを絡ませながら行っていることが特徴でした。そして食を中心に生活の基礎、健康の基本、経済の基礎が回っていることも強調されていました。


ロンドン市の食料政策と農地拡大の報告

 ロンドン市の大ロンドン庁食糧政策係長の方から、900万人のロンドン市人口のうち300万人の貧困層に食料を届けるための都市農業政策の報告がありました。
 ロンドンの100マイル周囲での様々な流通経路を考えるに当たって、ロンドン周囲に保全されたグリーンベルト地帯があってこれを食料生産に用い、貧困層に食料を届ける流通経路の構築を始めたとのことです。

 「ロンドン食料戦略」を2年掛けて策定し、capital growthと呼ばれる生産拠点(農場)を 3000箇所を目標に設置し、20万人以上がその活動に関与し、うち20%が学生であるとのこと(スケールがかなり大きいプログラムです)、また若者の参加で犯罪率減少、プログラムを通じたコミュニティーの形成も進んでいるとのことです。拠点設置のためには土地所有者の特定から始める必要があったとのことで、ボックススキームというプロジェクトも進め、季節によって様々なボックス野菜を買える仕組みを設け、一般市民以外にも農家とシェフの契約なども進めて、50種類の契約野菜をレストランに配送し、メニューに生産者名を記載してPRも行い、農場スタッフにはボランティアを活用しているとのことでした。

 北西ロンドン地区では、拠点農場以外にも自宅庭で農産物生産する地元民がボックスに野菜を入れる仕組みがあり、また貧困地域にファームガーデンを作り栽培を行う仕組みもあるとのこと。さらに効果があったのは卸売りのための物流倉庫を建設し、ロンドン郊外農地から一箇所にアクセスできる物流網も構築したこととのことでした。これだけ聞くと大きなビジネスを行政が行っているように思えますが、郊外に生産拠点を広めることで、環境面に配慮した生産を高め、おいしく栄養価の高い野菜を配布できる仕組みを構築したと言われていました。

 グリーンベルトでの農地拡大の取り組みの日本への応用はどうか?との会場からの質問に対し、大ロンドン庁の係長の方は、「練馬では農地の保全に成功していると思うし、それを長期的な観点でさらに成功するよう取り組む必要がある。土地の所有者の特定が重要。」と行政マンらしい回答をされていました。


ジャカルタの街中水耕葉菜栽培の報告

 ジャカルタの主婦の方から、狭い土地(住宅地)で政府と協力し「緑の路地プロジェクト」を始めたことの報告がありました。壁面を使った野菜栽培(屋外設置での4段式水耕栽培、レタスや空心菜などの葉菜の月1回収穫)を壁や柵にパイプを張り巡らし培養液を流して行っていること、自宅用の野菜生産と販売のための野菜生産を兼ね、夕方に主婦が作業を行っていること、バザーでの販売や、市民向け教育活動、チンゲンサイ加工品、パクチー栽培。緑豆のジュース加工など、広大な土地が不要な都市農業を報告されました。

 画像を見る限り、下町の塀そのものが、水耕栽培のパイプになって、樹木のかわりに葉菜類が栽培されている様子で、見たことのない世界でしたが、ジャカルタの主婦の創意工夫が感じられ、大変おもしろい報告でした。


都市農業の多面的機能

 他にもいくつかの報告がありましたが、どれも経済活動だけではなく、地産地消、食料安定供給、食育、農商工連携といった農林水産省の施策をすべて飲み込んでいるような活動内容であり、都市農業の様々な多面的機能を発揮しているものでした。食は生活や教育、経済活動の基本であり、生産者はそうしたアクティビストにもなりうるという印象を受けたサミットでした。規模だけでは無い農業の強さも感じられ、またそれらを支える関係者の活動にもスポットが当てられたと思います。

 

練馬区が中心に運営されたサミットでは同時並行で3つの分科会があり、私が参加した分科会では日英韓とインドネシア語の同時通訳(韓国語とインドネシア語の同時通訳までされていました)もあるなど、かなり入念に準備されていたようです。関係の皆様のご努力にも感謝申し上げます。


世界都市農業サミット

https://www.city.nerima.tokyo.jp/kankomoyoshi/nogyo/summit.html


 

ホームページ「農業・施設園芸・植物工場の未来」もご覧ください

 

by 土屋農業技術士事務所 所長 土屋 和

 

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