農業新聞記事より「耐暑性多収性の「単為結果性トマト」の育種」

2019年9月4日付の日本農業新聞1面に「トマト新世代 高温でも多収受粉要らず 筑波大など」として、トマトの新品種育成に関する記事が掲載されました。

 

 

育成された品種の特徴

 

筑波大学や千葉県のかずさDNA研究所などの研究チームが、高温でも受粉せずに着果する単為結果性で多収性のトマトを育成したというニュースです。一般にトマトの受粉は高温になると花粉の受粉能力が低下し、また受粉を行うマルハナバチなどの活動も低下し、花が咲いても着果しずらくなります。単為結果性とは受粉作業を行わなくとも着果する性質のことで、そのような性質を持ったトマトはすでにいくつか育成され、商業栽培でも使われていました。例えばルネサンス(サカタのタネ)などがありますが、大玉トマトにしては少し小ぶりの果実(100~150g程度)であり、多収性品種とは言えませんでした。サカタのタネからは、その後、大玉品種で単為結果性のパルトという品種も育成、販売されています。ニュースでは、これはルネサンスやパルトのような市販品種ではなく、この系統を使って交配を繰り返し、新たな大玉トマトやミニトマトの育成に利用できる、としています。つまり耐暑性で多収性の系統として、これからのトマト品種育成に活用できるということで、研究グループでは種苗会社と連携し新品種育成に活用する、とあります。

 

最近のトマト生産の課題と高温期の栽培

 

ここ数年のトマト生産の大きな課題として、4~6月のトマト出荷量が全国的に増加し、市場価格が低迷して、トマト生産者の収益を圧迫していることがあります。これには、企業参入によるトマトの大規模施設の増加、補助事業を利用したトマト産地での施設面積増加、環境制御技術の普及による単収の増加などが理由としてあげられています。どの理由も根拠として正しいと思いますが、もうひとつあげるとすれば、トマトの作型(播種、定植、収穫、撤去までの年間の栽培スケジュールのこと)が全国的に平準化され、特に4~6月の一時期に集中して出荷が進むことがあると考えます。この作型は長期1作型と呼ばれ、最近の大型施設、オランダ型の養液栽培施設などでは一般的なものです。また農業生産者の一般的な栽培でも、以前は夏秋栽培、抑制栽培、越冬栽培、半促成栽培、促成栽培など様々な作型がありましたら、これも周年栽培や雇用型農業の流れから作型が延長され、長期1作型にシフトする動きが目立つようになりました。結果的に全国どこに行っても、お盆から9月頃に定植を行い、秋が深まるころから収穫が始まり、春先に一挙に収量が増え、暑さが限界になるまで取り続けるような作型が一般的になりました。このモノカルチャー的とも言える作型の平準化が、春先のトマト価格低迷の大きな要因ではないかと、私は考えております。

 

またその結果、9月〜10月にかけてのトマトの収穫量が全国的に低下し、モノが足りない、価格が上昇する傾向となっています。これは定植時期も平準化したことで仕方がないことです。その中でトマトが市場に不足する時期を狙い、春先に定植をして高温期を越しながら9〜10月にも収穫を続ける新たな作型(夏越栽培)に挑戦する生産者も出現しています。高温期の栽培を行うため、ハウス内の温度低下のための仕組みも必要となり、遮光、細霧冷房、送風などの技術を組み合わせるなど、設備投資やノウハウも必要で、誰にでも可能なものとは言い難いと思います。

 

育成された品種への期待

 

既存の単為結果性品種が夏越栽培で多く使われているとは言い難く、単為結果性だけでは解決できない課題もあると思われます。一般に高温期には果実が早熟しやすく、その分、果実も小さめで収穫され収量も低下しやすくなります。また着果そのものが低下すれば果実数も少なくなり、収量も低下してしまいます。育成されて品種は多収性をうたっており、これらの課題が解決されることが期待されます。またこの系統を使って、食味の良いトマト、さらに多収性のトマト、大玉、中玉、ミニトマトなど様々なバリエーションの育成も期待されます。

 

一方で、夏期の猛暑が年々さらに進み、栽培環境も悪化しています。施設内での作業環境も厳しく、人が作業すること自体、難しい時期も長くなっています。また台風や豪雨などの自然災害が夏期に集中し発生するようになってきました。もうひとつの課題として高温期の果実の品質低下があります。これは熱帯夜の発生など夜温が上昇することで呼吸消耗がおこり、糖度など果実品質の低下が進むことがあります。こうしたことは施設内の温度環境を改善するか、熱帯夜が発生しない高冷地や沿岸地域での栽培にシフトするかなどの対策が必要になります。新たな品種への期待感は高いものがあると思いますが、万能ではないことにも注意が必要です。

 

 

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by 土屋農業技術士事務所 所長 土屋 和

 

 

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施設園芸生産者のスタディーグループ

国内の施設園芸のスタディーグループについての記事を先般書いてみました。施設園芸国であるオランダのスタディーグループについて触れられた論文があり、ご紹介します。論文名は「オランダの施設園芸における農業者育成の現状と特徴」、著者は農研機構で農業経営を研究されている山田伊澄さんです。オランダの施設園芸について、教育訓練や農業者育成の支援の仕組みについて現地での聞き取り調査を行なったもので、2014年4月に受理された論文です。論文によると、オランダでは農業者同士での情報交換、外部アドバイザーによる支援、研究機関での新技術情報など、様々な場面で知識の獲得をしているとのことです。スタディーグループについての箇所を引用します。

 

トマト生産者の現地検討会
トマト生産者の現地検討会

 

 

オランダのスタディーグループ

 

オランダでは,同レベルの農業者同士が自主的に集まって情報交換をし,互いの農場を互いに見て切磋琢磨する,スタディグループというものが存在する5).同じ品種や作物,特定の技術など農業者でスタディグループが形成されている.農業者同士は,競争相手であるが友人として信頼関係があり協力するという.こうしたスタディグループは,オランダの農業者育成における大きな特徴の一つである.

 

日本の施設園芸でのスタディーグループは、産地の中でのグループ化が前提にあると思います。オランダの場合は同レベルの農業者の自主的な集まりということですが、日本の場合は必ずしもそうとは言えないでしょう。オランダは経営規模も数ha〜数十ha単位と大きく、技術レベルや経営レベルに差があるとグループ活動に支障があるかもしれません。日本では産地のくくりの中で、多少レベルに差があってもグループを組織して情報交換から始めることになると思います。それは産地競争の中での産地維持という目的があり、脱落者を出さないような仕組みも求められるためです。オランダの場合は国内での競争もあるかもしれませんが、スペインや東欧など、EU域内外での競争が前提にあるため、さらに高いレベルを目指す必要があって同レベルの農業者の集まりでのグループ活動となっていることが想像できます。

 

 

山田さんの論文では、栽培面積27haの大規模経営を行う生産者のスタディーグループ活動を紹介しています。この生産者は家族経営の大玉トマト農場での生産部門を担当しています。農場経営は、単収が63t/10a、年間収量が1万7千t、販売単価が84円/kg、売上が14億円、経費が4200〜4800円/屐経常利益が1.4億円となっています。5年以上前の調査ですので、現状の経営状況に変化があるはずですが、生産や販売の規模がやはり日本とは桁が違います。また5年ごとに約10億円の設備投資や規模拡大を行うとあり、家族経営と言えども投資と拡大再生産を展開していることが伺えます。

 

 

この大規模経営の生産担当者が属しているスタディーグループは2つあって、両者とも毎週、数名の生産者が集まり環境制御、施肥、病害虫防除などの情報交換、意見交換をするとあります。さらに月1回、お互いの労働面やコスト面のデータについて議論をし、販売面で競争相手であっても技術や知識面では協力をするとあります。

 

 

スタディーグループと外部のアドバイザー

 

スタディーグループの活動の他に、知識や情報の獲得手段としてアドバイザーの支援があげられ、IPM(病害虫)、栽培(作物)、エネルギー、法律関係のアドバイザーがいるとのこと。ここでのアドバイザーとは、日本ではコンサルタントと呼ばれる専門家のことで、大規模施設園芸に関わる各分野の専門家になります。アドバイザーの料金は論文では触れられていませんが、グループ単位でアドバイスを受け、料金の支払いも分担して行う例も実際にはあると聞いています。その場合はそれなりの額のアドバイザー料ということになるのでしょう。

 

 

論文ではスタディーグループ活動とアドバイザーによる支援は分けて記述されていますので、この生産者は単独でアドバイザーに業務を依頼していると思われます。IPMのアドバイザーについては毎週ハウスでの病害虫発生の確認を行い、2〜4週に一度のミーティングを行うとあります。また栽培のアドバイザーも2〜4週に一度の訪問とミーティングを行うとあります。農場特有のアドバイスを受けるためには、このような形態が必要になるでしょうが、グループでのアドバイスを受ける場合にはグループの農場巡回への動向によるアドバイス、各農場のデータを共有するミーティングへの参加などが考えられます。

 

 

スタディーグループのデータ共有

 

オランダでは環境制御装置のメーカーが異なってもクラウド上でデータを共有する仕組みもあるそうで、スタディーグループ活動も、そこに入るアドバイザーもクラウドデータの活用を行っていると思われます。各種データの共有と比較検討そのものが簡便に行える環境がある、ということになります。日本でも高知県が環境制御装置や環境測定装置に蓄積されたデータをメーカーの違いを超え収集する仕組みを最近採用しており、県単位でのスタディーグループ活動に取り組み始めたと言えるかもしれません。メーカーや装置の機種の違いがグループ活動の壁になるようでは技術の向上は望めず、この先のマイナス要素になるかもしれません。クラウド経由でそうした壁を取り払うことが日本でも有効になるのではと思われます。

 

 

日本とオランダの施設園芸は経営規模や生産性、生産コストや販売単価、さらに気象条件に隔たりがあり、オランダの仕組みや技術を取り入れてもそうした隔たりに起因する問題が発生することもあります。スタディーグループについても活動目的として全体の底上げをするのか、さらに高みを目指すのか、情報の共有範囲や対外発信をどこまで行うのかなど、取り決めるべきことは多いと思います。またスタディーグループだけでなく、品種育成、技術開発、マーケッティングなどを共同で行うより機能的な組織もオランダでは多くみられます。

 

 

日本でこれに当たる施設園芸のグループは、カゴメの農事業の各菜園や、高糖度トマト生産出荷を行う静岡県のサンファーマーズなどがあげられます。こうしたグループは構成農場でのスタディーグループの機能を内包しており、データ共有の仕組みも進んでいるものと思われます。一方で日本の個別経営の現場ではデータの収集と見える化による栽培技術向上の流れが定着してきたと思われます。次のステップに進むためには、スタディーグループのようなグループ内でのデータ共有や、グループ活動での相互学習と切磋琢磨が求められると考えられます。さらに先のステップには、品種選定や育成、技術開発やマーケッティングなどの共同化があるのかもしれません。

 

 

引用文献:山田伊澄、「オランダの施設園芸における農業者育成の現状と特徴」、農林業問題研究(194)

 

 

 

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by 土屋農業技術士事務所 所長 土屋 和

 

 

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本日の農業新聞より「収穫ロボットレンタル」

2019年8月20日付け日本農業新聞JA面の連載記事「ラボが生む革新 連携企業の挑戦」として、収穫ロボットメーカーのinaho(いなほ)の記事が掲載されています。アスパラガスの収穫ロボット開発で最近よく名前を伺う企業で、4月12日のブログでも取り上げたこともあります。記事の内容は4月12日のブログと同様に収穫ロボットをレンタルすることがあり、さらに料金体系の紹介が新たに加わっています。

 

収穫ロボットレンタルの料金体系

 

「ロボットは収穫時にアスパラガスの重量を計測。市場取引価格を参考に、収穫量に応じて想定販売額の15%を利用料とする。」と具体的な内容が明らかになりました。この15%という料率が高いか安いかという議論はあると思いますが、収穫作業の比率が高いアスパラガス栽培の省力化(現時点の自動収穫率は80%とのことです)を目指し、いよいよビジネス展開が始まることになりそうです。

 

同社がレンタルにしたのは、「カメラやセンサーが年々良くなるので、最新のものを常に使ってもらいたいから。高齢者が何百万円もする機械を買うのも非現実的だ」としています。日進月歩の世界であることが、レンタルサービスでのビジネスへ向かわせた背景と言えるでしょう。

 

同社は、「メンテナンスを担う営業所も拡大する。まず佐賀県内で増やし、九州や関東、四国などアスパラガスの生産量の多い地区で展開する予定」としています。また、「メンテナンスなどに対応するため、車で30分程度で行ける範囲で貸し出したい。そのため、営業拠点が多く必要になる」としています。このような最初のステップをクリアできれば今後は営業拠点も増やすことになり、本格展開に進んでいけるのかもしれません。

 

画像認識による収穫ロボットの用途展開

 

収穫ロボットのメカニズムについては記事では簡単に触れられており、「カメラとセンサーを使い、収穫できるアスパラガスを画像認識で判別。カッター付きのアームで収穫する」とあります。自走式のロボットが畝間走行をしながら地面から伸びたアスパラガスの眼をカメラやセンサーでスキャンし、形状から収穫適期を判断するのでしょう。このプロセスでは走行途中にある芽をくまなくスキャンしているでしょうから、圃場全体の生育状況の判断と収穫予測など、次の展開も見えてくるでしょう。レンタルと言っても高価な機械なのでしょうから、多用途への展開もあわせて考えていくべきと思います。

 

 

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by 土屋農業技術士事務所 所長 土屋 和

 

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環境制御の設定の自動化・省力化の流れ

複合環境制御、統合環境制御といった環境制御技術の導入が生産現場では進んでいます。メーカー各社も製品開発を積極的に行い、展示会にまいりますと様々な製品展示がされています。ヘクタール規模の大規模施設ではオランダなど海外メーカーの独壇場でしたが、最近では国産メーカーの対応製品もみられます。

制御機能や対応規模の面で進化をしている環境制御機器ですが、その一方で高価な機器をどのように使いこなすかが問われています。規模によりますが、本体とセンサー類を組み合わせた価格帯は100数十万円〜300万円程度と幅広く、制御機能は地上部環境(温湿度、飽差、CO2濃度)を対象に、各種機器(暖房機、ヒートポンプ、天窓、側窓、カーテン、CO2発生装置等)を制御するものが多くあります。それらの制御ではかなり多くの制御設定(目標値や補正値などの数値入力)が必要になっています。

 

 

ハウスの環境制御は様々な制御設定を元に行われます

 

制御設定での問題点

小規模や単機能の環境制御装置では起こらなかったことが、大規模化や複合機能化により顕在化しています。例えば制御項目の増加に伴う設定作業の煩雑化があります。これは制御点数が増えることで起こるもので、また最近の流れとして制御時間帯を細かく分割し時間帯ごとに設定を行うことがあり、時間帯の分だけ設定作業が掛け算で増えていきます。

さらに現場でのやっかいなこととして、天候の変化、変動に対応した設定の変更作業があります。これは日射量や外気温などの外部環境が大きく変化する場合、それに追随して制御設定を調整する作業です。気象が不安定な日などPCや機器の前に長い時間張り付いて天候をみながら設定を調整をする場合もあって、省力的と言い難い状況かもしれません。

 

制御設定の自動化の流れ

最近は制御設定の作業そのものを自動化、もしくは半自動化する製品も開発されています。知られた製品として、環境制御分野の専門家で元静岡大学農学部助教授の狩野敦先生が開発したDM-ONEがあります。特徴的な製品であり、メーカーの株式会社ダブルエムのサイトの説明を引用します。

 

 

(1)三つの制御コンセプト

一般の環境制御では、環境値(例:気温)が設定値(例:暖房設定温度,換気設定温度)を踏み越えない限り何も行いません。この場合の「設定値」とは温度範囲を決定しているにすぎず、気温が暖房設定温度〜換気設定温度の範囲に保たれていれば「正しく制御された」状態と言えます。

DM-ONEの制御では、まず、最適であると考えられる環境値(気温)が算出されます。予め換気や暖房のために入力しておく設定値はありません。DM-ONE内部の植物モデルが現在の環境値(日射、CO2濃度等)において最も純光合成が大きくなる気温を自動的に算出します。この「最適値」を目標温度として制御を行います。

次に、DM-ONEは、ある温度範囲を維持するのではなく、常に「最適」な温度を実現するために換気や暖房を制御しつづけます。一般の制御のように「設定」された値からずれた場合のみ機器制御を行うということはしません。

三つ目に、DM-ONEの制御対象は、可能な限り物理値(気温,相対湿度など)ではなく、栽培植物の生理機能値(光合成や蒸散)となっています。制御は気温や水蒸気密度の制御を通して行うが、その目的は純光合成速度や蒸散速度の制御です。

 

 

環境制御の考え方が独自であり、植物の生育モデルをもとに、現在の環境(日射量、CO2濃度など)での純光合成速度が大きくなる気温をもとめ、それを最適値として目標の温度として制御するということです。そもそも設定を行わない仕組みで、設定作業から解放されると言えるでしょう。

もう1社の製品をご紹介します。施設園芸が大変盛んな高知県のメーカーであるICHIKAWA(有限会社イチカワ)の統合環境制御システム、アネシスQ2600です。高知県との共同開発により生まれた製品で、この製品カタログの表紙には、次の特徴が書かれています。

 

 

・作物にとって最適な環境を維持して光合成を促進

・温度と湿度をバランスよくコントロールして病気を抑制

・天候やハウス内環境が変化するたびに設定を変える手間を省く

 

 

三つ目のフレーズに、「設定を変える手間を省く」とあり、様々な機能が実装されています。同社資料によると例えば天窓の開閉について、外気温の変化に応じて補正する機能があり、風向風速に応じて天窓開度を制限する機能(これは他社製品にもあるかもしれません)もあり、天気(曇り度合という指標を用いているようです)に応じて温度設定を変える機能もあります。いずれも補正機能で、人間が補正する代わりに制御装置が環境の変化にもとづいて自動的に補正する機能です。オランダ製の環境制御装置にも同様な補正機能は装備されていると思いますが、やはり設定が必要です。この製品の開発には地元の篤農家の意見も取り入れられているそうで、補正値の設定についても篤農家の意見が反映されているのかも知れません。

 

 

以上の2つはコンセプトはまったく異なるものの、制御設定を自動化するよう工夫された製品と言えます。施設園芸の専業メーカーが開発している製品とは一味違うものですが、こうした新たな流れも起きています。

 

制御設定のプリセット化での対応

制御設定の値は、最近の製品ではデータセットとして扱うようになっており、保存や読み込みも可能な機種もあるようです。これは季節の変化や生育状況に応じて適切なデータセットを読み込んで、設定作業を簡略化するものです。データセットそのものはノウハウと言え、篤農家のノウハウとして活用をはかるといった趣旨もスマート農業の世界では耳にするようになりました。それには知財としての扱いなど制度の整備が必要となるでしょう。一方で、その土地、そのハウスで活用できるデータセットを整理し、プリセットして簡単に扱うような製品の開発も起り始めています。完全にセット化すると融通は効かなくなるため、前述のような補正機能も組み合わせてフレキシブルな仕組みも取られているようです。

 

 

プリセット化しデータセットを選択することで、専門的な知識が無くとも現場の環境制御の管理の自動化(制御の自動化ではありません)がかなり進むのではないかと思われます。ただし植物の生育状況に応じた改善などは出来ないため、管理の自動化・省力化と生産性の向上には一定のトレードオフがあると言えるでしょう。

 

 

スマート農業と高度環境制御技術の進展の流れは強いものがあると思います。それを実際に使いこなすには経験やノウハウの蓄積も必要かと思います。ご紹介したような自動化・省力化の流れは、スマート農業の新たな動きとして注目してまいりたいと思います。

 

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by 土屋農業技術士事務所 所長 土屋 和

 

 

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最低賃金の上昇と施設園芸・植物工場経営

7月31日に厚生労働省より「令和元年度地域別最低賃金額改定の目安について」として報道発表がありました。これは同日開催された第54回中央最低賃金審議会による厚生労働大臣への答申によるもので、今年度の目安が示した引上げ額の全国加重平均は27円(昨年度は26円)となり、昭和53年度に目安制度が始まって以降で最高額とのことです。また全都道府県で20円を超える目安額となっており、引上げ率に換算すると3.09%(昨年度は3.07%)となっています。  今後は目安額にもとづき地方最低賃金審議会で地域別最低賃金審議が行われ、都道府県での最低賃金額が改訂されていく流れとなります。

最低賃金(地域別最低賃金 全国加重平均額) 、労働政策研究・研修機構(JILPT)より

 

この動きが施設園芸、植物工場の経営に与えるインパクトについて考えてみました。続きはこちら

 

 

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施設園芸生産者のスタディグループ

施設園芸の端境期、作替時期に当たる8月はイベントシーズンでもあり、昨日今日と千葉県旭市でも施設園芸の大規模なセミナーが開催中です。千葉県での開催にもかかわらず全国からの参加者も多く、また講演者も施設園芸の盛んな高知県や宮崎県の方もおり、全国的なイベントになっていました。その中で宮崎県のキュウリ生産者の方が「スタディグループ」活動について紹介され、興味深い内容でしたので、お伝えします。

 

キュウリ生産者のスタディグループ

 

オランダの施設園芸生産者の間で広まったと言われるスタディグループは、生産者間で勉強会や現地検討会を開催し、現場を見つつ様々なデータを出し合って比較し、良い結果のケースなどを参考にグループの底上げをはかる活動とのことです。まさに学ぶ場、学ぶグループと言えますが、学ぶだけでなく実際の栽培や経営に反映させる仕組みと言えるでしょう。オランダの施設園芸ではデータ比較のためのプラットフォームも整備され、異なるメーカーの環境制御機器のデータでも同一のクラウド環境で比較可能という話も聞いたことがあります。あくまでグループ内でのデータ比較であると思いますが、オランダ施設園芸の発展基盤のひとつであることは間違いないと思います。身近な仲間の栽培状況や管理データを参考に改善をいち早く進めることができるためです。

 

宮崎県のキュウリ生産者の方は、こうしたオランダの施設園芸の動きを紹介され、仲間を募って数年前にスタディーグループを立上げられたそうです。同一の環境測定機器を使うことを条件にデータの比較をしやすくし、また日々の収量の提示、開花やその後の収穫までの追跡調査と着花段数や葉長などの生育調査も行われています。キュウリの各節に着花し果実として収穫されるまでのプロセスを追いながら、収穫までの歩留まりや期間などを環境測定データと見比べて、収量アップの方策を検討されてきたものと思います。そのために定期的な勉強会と現地検討会も開催し、毎年収量アップを重ねられたとのことです。また生産者が日常の営農活動をこなしながらデータの整理には手が回らない中、県職員(普及指導員)や農協職員(営農指導員)による支援が大変役にたったとのことでした。その際にスタディグループのデータを県や農協にも提供する条件で支援を受けたとのことで、公益性のある活動にもなっています。

 

スタディーグループ活動の推進に必要な要素

 

これには2つの要素があると思います。ひとつは前述の普及指導員や営農指導員による支援です。データを基礎に進める活動であり、調査方法や集計方法の教示、集計作業そのものへの支援、データの見方や改善への助言、勉強会のファシリテータ役など、様々なことがあると思います。データの扱いに慣れていない生産者がゼロから活動を立ち上げる場合、こうした支援は不可欠でしょう。また支援を進める側にも、それなりの知識や経験は必要ですが、生産者と一緒に考え共に学ぶ姿勢も大切でしょう。

 

もうひとつの要素として、クラウド環境の利用があります。最近は様々な環境が安価で提供されており、このキュウリ生産者のスタディグループは無料で利用できるGoogleのスプレッドシートを使ってお互いのデータを参照するよう仕組み作りをされていました。スタンドアロンの環境ではデータの取り込みや集計に手間がかかるばかりでしょうが、クラウド環境があれば日常的なデータ集計や比較も、会合等でのデータの検討もスムーズに行えるはずです。なお、同じ宮崎県内では、出荷予測や販売促進も含めた高糖度トマト生産グループのクラウドデータ活用の仕組み作りも進められています。また最近では、各社から様々な環境測定機器が発売(乱立とも言えます)される中、異なるメーカー、機器のデータも扱える生産者グループ向けのクラウドシステムも開発され、活用が期待されます。ようやくオランダ並みの環境に近づいてきたと言えます。

 

施設園芸、スマート農業の主役は誰か?脇役は?

 

スマート農業のブームが言われていますが、その本質は「データにもとづく農業」による生産性や収益性の向上に尽きると思います。便利な機器やサービスが数多く出回る中で、いかにそれらを使いこなし、増収と投資回収、増益に結び付けることが出来るかが、生産者側にも求められるでしょう。その際の主役はメーカーやベンダーではなく、あくまで生産者と言えます。宮崎県のスタディグループのようにデータの取得と活用を勉強会の中で進め、試行錯誤もあると思いますが、毎年改善を積み重ねることで増収と増益に結び付けることは、生産者自身の意識と能力によります。主役はあくまで生産者です。

 

その際に脇役となる支援者も重要であり、データの取り方、見方、活用の仕方についてリードできる知識と経験を持った指導者の育成が、これからのスマート農業の推進には不可欠になるでしょう。環境制御やCO2施用、養液栽培など個別の要素技術についての研修の場は従来も多くあったと思いますが、データの取得から管理、活用といった大きな枠組みでの研修や人材育成の仕組みは現時点でも少ないように思います。主役を盛り立てるための脇役作りにも、目を向ける時期かと思います。

 

施設園芸新技術セミナー機器資材展in千葉の開催の様子

 

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by 土屋農業技術士事務所 所長 土屋 和

 

 

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技術士2次試験受験指導の講師と動画

技術系の国家資格である技術士の試験は、1次試験と2次試験があり、それぞれ年に1回行われ、技術士資格を得るまでに最低でも2年が必要です。また技術士には、農業から原子力まで一般部門と呼ばれる専門別の様々な部門がありますが、もう一つ別な部門として総合技術監理部門というものが後から設置され、一般部門の合格者(または一般部門との併願)が受験することができます。私は平成19年に一般部門(農業部門)を、平成24年に総合技術監理部門の技術士2次試験を受験し、両方とも何とか合格をしました。現在は両部門の受験指導を、受験指導のサイトを通じ行っています。また、それとは別に総合技術監理部門の試験合格のメソッドを伝えるサイトを立上げ、少しずつ記事をアップし始めました。

 

技術士の2次試験は、受験申込書の提出から合格発表まで1年近くの長丁場で、その途中に7月の筆記試験と10月以降の口頭試験があり、おのおのの試験に向けて様々な準備が必要となります。その準備事項を整理、細分化して合格メソッドとして伝えることを目的としたサイトになります。さらに細分化した内容として筆記試験本番当日にやるべきことをプロジェクトマネジメントとしてまとめてみました。12分間の動画としてまとめております。自分でビデオに撮った動画をYOUTUBEにアップしたものです。お聞き苦しい箇所が沢山あって、まだまだなのですが、文章で読むよりも話で伝えた方がポイントなどの理解が進むのではないかと思い、あえて動画にしてみた次第です。別に技術士試験の学習に限らず、農業技術やIT系の技術など、動画で伝えることでよりリアルに、またシンプルに伝えることが出来るのでは?と感じています。受験に関係の無い方も、よろしければ試しにご覧になられてください。

 

 

 

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by 土屋農業技術士事務所 所長 土屋 和

 

 

安藤敏夫先生(千葉大学)の今

学生時代の専門課程で講義を受けた先生方は、比較的世代が近いこともあって、当時から親密にさせていただいていました。助手や助教授だった先生方は、その後、教授や学部長、副学長や学長などになられた方も多く、現在はほとんどが退官され第二の人生を歩まれている方も多くいらっしゃいます。それでも母校の千葉大学の退官は65歳と遅く、第二の人生をスタートするには少し遅い時期かもしれません。東京農業大学など他の農学系大学で教鞭をとられる先生が多いのですが、ご紹介する安藤敏夫先生は非常にユニークな第二の人生を歩まれています。

 

安藤先生は花卉園芸学研究室の教授を長くつとめられた後、千葉県野田市で農場を開設されました。私はおうかがいしたことはないのですが、国道16号線から近い場所に土地を取得され、ハウスなど70aも経営されている立派な花き生産者になられたとのことです。農場名は、ガーデンそよかぜです。そこではシェードガーデン用のササスゲの生産と出荷をされている他、キキョウの育種と生産もされています。

 

2019年8月4日付け日本農業新聞首都圏版に、安藤先生の今についての記事が掲載されました。記事によると、可憐なキキョウを東京オリンピックの時期に合わせ開花するよう、育種をされているとのこと。これは流通している五月雨キキョウという品種の開花時期が6月〜7月中旬であり、オリンピック開催時期の7月24日〜8月9日に合わせるため、在来種のキキョウを集めて開花時期が7月20日頃になるものを選抜したそうです。すでに昨年から出荷を始めており、東京オリンピックに向け日本の花であるキキョウをアピールしたいというお考えのようです。

 

安藤先生とは直接のお付き合いは今までもなかったのですが、自分の学生時代には当時導入が始まったパーソナルコンピュータを使った花きのデータベースの開発を行われたり、大型計算機での多変量解析による花きの系統分類をされたり、新しいことにいつもチャレンジをされていた先生という印象が今でもあります。第二の人生を東京オリンピックで文字通り開花されようとしている安藤敏夫先生(千葉大学名誉教授)の今について、ご紹介させていただきました。

 

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韓国の施設園芸と外国人労働者の今

日本と韓国の外交関係、経済関係に暗雲が立ち込めています。農業や施設園芸の分野でも農産物や種子、資材等の輸出入で両国のつながりは深く、これから様々な影響が発生するのかもしれません。流動的な状況で論評は控えたいと思いますが、改めて韓国の施設園芸の特徴である外国人労働者雇用について、日本と比較しながら振り返りたいと思います。

 

韓国での外国人労働者の雇用政策

 

韓国は日本と同様に移民政策を取っていません。しかし3K現場などでは労働力不足があり、外国人労働力の受け入れについて政府を通じて行っています。韓国労働研究院 研究員 キム・キソン氏の「韓国における外国人労働者の雇用法制及びその課題」(2012)では、韓国の外国人労働者の雇用法制における原則をあげていますので、引用します。

 

その 1 、単純労務分野への限定を原則とする。外国人雇用法が適用される在留資格は、非専門就業(E-9)と訪問就業(H-2)とし、主に未熟練外国人労働力を対象とする。

 

その 2 、国内労働市場の補完を原則とする。これは外国人労働力の導入が国内労働市場に 否定的な影響を及ぼしてはならないということで、国内で不足する労働力は、高齢者や女性等、国内の遊休労働力の活用を優先し、外国人労働力は補充的に活用すべきことを意味する。 この原則に従い外国人雇用法では、外国人労働者の雇用許可を得ようとする使用者に、「内国人の求人努力」を必須要件として規定している。

 

その 3 、外国人定住化防止の原則である。これは、単純労務を提供する外国人労働力が韓国社会に長期滞在することによって発生する国内労働市場の混乱の問題のみならず、結婚、 出産、子供の教育等社会的費用の増大を防止するための就業期間の短期循環を意味する。こ の原則に従い外国人雇用法では、就業期間の最長期間を制限し、出国後 6 カ月が過ぎないと再入国及び再就業ができないこととしている。

 

最後に、内外国人の均等待遇の原則である。これは合法的に就業した外国人労働者に対する不当な差別を禁止すると同時に、国内の労働関係法を同等に適用することを意味する。この原則により、外国人雇用法では差別禁止に関する規定を明確に規定し、外国人労働者は必 ず雇用契約を結ぶこととしており、既存の産業研修生制度とは異なりこの法律に沿って就業する外国人労働者を労働者として認めている。

 

 

これらの原則に従い、農業、施設園芸分野でも単純労働を対象として、補充的(国内雇用が集まらない場合の外国人雇用)に非定住での雇用(最大3年+延長1年1月、家族の呼び寄せは無し)を進めています。韓国政府機関がビザを発給し、施設園芸事業者が直接雇用をする形です。そして研修制度ではなく外国人を労働者として認め、国内の労働関係法を適用して差別をしないこととしています。2012年の時点では、産業全体での導入規模は57000人、うち農畜産業では4500人でした。

 

 

 

※引用文献:「第12回日韓ワークショップ報告書 外国人労働者問題:日韓比較」(2012)、独立行政法人労働政策研究・研修機構、3-20 https://www.jil.go.jp/foreign/report/2012/pdf/2012_1001.pdf

 

 

韓国の施設園芸での外国人雇用の実態

 

2018/12/8付けの私のブログ記事「日韓の外国人受け入れ制度と施設園芸」で、以下のことに触れました。

 

韓国は国策で外国人労働者の受入れに舵を切り、国がその管理と窓口業務をやっており、専門の政府組織を持っています。外国人は渡航費のみの負担で韓国に来て、国が受け入れて「雇用許可制度」の仕組みで、一定基準を満たした受け入れ先企業への就職が可能になっています。また3回までの転職が可能であり、受入れ企業間の競争条件が担保されて低賃金や劣悪な労働条件を回避するような仕組みになっているようです。

 

韓国のこの制度は、韓国人労働者の雇用を奪わない様な制度設計がされているようです。例えば、永住権は認めないが期限後の再入国は可能として、労働需要の答えながら人数の管理をすること、人気のない企業に対して優先的に外国人を回すこと、業種ごとに不足する労働者数を推計して、その数だけの外国人を受け入れることなどです。

 

参考文献)高安雄一「韓国の「外国人労働者の受け入れ制度」が大成功した理由…韓国人の失業者増えず」、Business Journal 2018.5.30

 

 

日本の外国人技能実習制度と比べると、最初から労働者として位置づけをしており、入国後の就業教育などを経て労働者として受け入れいる点が大きく異なっています。また事業者が直接雇用をする形であり、雇用人数も政府がコントロールしている点も、韓国の制度の特徴であると思います。日本の制度に比べると、非常にすっきりしたものという印象です。

 

 

韓国施設園芸での不法滞在外国人労働者の増加

 

7月28日付け日本農業新聞総合面に金哲洙記者の記事「外国人雇用 韓国の今」として、

 

韓国は不法滞在者を減らし、企業のコスト削減につなげるために、外国人労働者制度を導入した。しかし、制度開始から15年、不法滞在者が減るどころか、むしろ近年は増えている。外国人労働者の賃金が上昇し、農家経営を圧迫するケースも出ている。

 

とあります。そして、最低賃金基準以上の支払い義務が雇用側にあり、年々賃金が上昇する中で正規の外国人労働者を雇えなくなる農業経営者が増え、不法滞在の外国人を安く雇うケースが増えているという記事内容でした。不法滞在での労働報酬でも自国での給与の何倍も韓国では稼げるため、不法滞在者が増えているということのようです。

 

記事には2019年の韓国の最低賃金基準での時給が8350ウォンとあり、日本国内の低いレベルの都道府県の賃金と同程度のようです。これより低い賃金であっても不法滞在の外国人が韓国の施設園芸で働いていることになります。冒頭のような制度が整備されていたとしても、実態はその通りには行っていない、ということになると思います。外国人労働者に依存する状況で、コスト面で見合わなくなると、農業経営そのものが危機に陥いり、不法滞在者にさらに依存する状況になって来たものと言えるでしょう。

 

韓国のパプリカ温室での外国人労働者

 

日本の施設園芸でも、外国人技能実習生に依存した産地も見られますが、国内全般では全面的に依存した形にはまだなっていないと思います。また最低賃金レベルでの雇用でもコストが合わないとなると、経営そのものの問題であり、不法滞在者に依存することは避けるべき事態であると思います。人手不足の中で外国人に頼らざるを得ない場面も、日本でも今後は増えてくると思います。しかし全面的に頼るとなると、韓国のような事態も含め様々なリスクが生じることも念頭に入れる必要があるでしょう。

 

 

ホームページ「農業・施設園芸・植物工場の未来」もご覧ください

 

by 土屋農業技術士事務所 所長 土屋 和

 

JUGEMテーマ:農業

収量向上から収益向上へ

収穫工程までのICT利用と収量向上

 

農業の生産・出荷工程は、農場における収穫までの工程と、選果、貯蔵、出荷などの収穫後の工程に2分できます。施設園芸でも、センシング、モニタリングや環境制御などのICT利用の場面は、施設内での栽培〜収穫の工程で多くみられました。ここでのICT利用ではもっぱら生産性の向上に主眼がおかれています。施設生産性(=単収)、労働生産性、エネルギー生産性などで、投入資源や投入金額に対しての収量や品質をどれだけ高められるかがポイントになります。

 

ICT導入効果は多くの施設で見られ、近年のトマト栽培やキュウリ栽培での単収向上に反映されていると思います。特に環境制御技術が未導入の場合には、導入前後で1割〜2割程度の増収例もあって、その効果が注目されてきました。

 

収量向上と収益向上は比例しない?

 

最近のトマトなどの相場の低迷は、長期にわたる好天や全国的な増産の影響で、市場にトマトがあふれたことが要因と言われています。つまり単に増収をしただけでは、それに見合う収益が得られないことが多いと言えるでしょう。対策のひとつに、生産性の向上による生産コストの低減があげられますが、これには限度があります。収量向上には一定量の資源(エネルギーや労働力、肥料、農薬など)の投入が必要なためです。

 

ではICT利用などで向上した収量に見合う収益を得るにはどうしたらよいか?、現在の施設園芸業界が直面している大きな課題のように思います。長らく農業界では、作ることと売ることが別のことのように扱われて、プロダクトアウトの考えが主流であったと思います。最近ではマーケットインの考えで需要や受注に応じた生産を行う農業法人も、葉菜類や苗の施設栽培で多くみられます。

 

しかし長期栽培で気象など外部要因の影響を受けやすい果菜類の施設栽培では、ほとんどの現場が見込み生産を行っており、収穫できたものを需要先に当て込んで出荷販売しているのが実態と言えるでしょう。この当て込みを需要にマッチさせ、販売単価を確保しながら収益を向上させるかが、今後の施設園芸の成功のポイントのように思います。

 

安定供給による販売単価の確保

 

生鮮販売先や加工業務用途先といった実需者との取引を行う場合には、ある程度の見込み数量で取り決めをし、直近の生産状況によって修正をはかっていると思います。品質や納品数が安定した取引を望むこうした実需者としては、リスク回避のため様々なルートを確保したり、納品トラブル発生時には新たな対応を迫られることも多いと思います。こうした対応は手間とコストに跳ね返るため、実需者側は同一の仕入れ先から安定した納品を望む傾向があります。そのため年間を通じた安定供給を前提として、相場の影響を受けないような販売単価で契約取引を進める例もあると聞きます。

 

このことは言うは簡単ですが、高温期間や低日照期間、また台風や大雨などの気象災害のリスクの中で、周年での安定供給を行うことはICT利用であっても完璧には難しいと言えるでしょう。特に夏場の暑さ対策をどうするかで、秋以降の収穫量に影響が出るため、高温対策技術の優劣や気象環境による地域差が出やすいのが実情です。また高温に対し「冷やす」技術の導入には、設備や電力などのコストが発生することも多く、ICT利用が収益に直結するとは必ずしも言えないと思われます。

 

収穫以降でのICT利用

 

以上のように収穫までのICT利用は、通年の収量を向上することが可能であるものの、年間の安定供給のレベルには必ずしも達しておらず、実需者との取引を優位に進めるには物足りない部分があると思われます。そのため、今後は選果や調整、梱包、出荷といった収穫以降の工程におけるICT利用も良く検討し、実需に対応した計画的な取引や販売単価の向上に向けた活用を考えるべきと思います。

 

こうした考えは、スマート農業の分野ではあまり取り組まれていないように思われます。生産から出荷、消費までのフードバリューチェーンの構築といったお題目を聞くことは多いのですが、実際に構築された例というのは施設園芸においては聞き及びません。その一方で、現場の工夫の中で、収穫以降のICT利用が進んでいるようです。

 

葉菜栽培での生産〜収穫〜在庫〜出荷のリンク

 

一例として葉菜栽培での生産と出荷を結びつける取り組みがあります。レタス類などの施設栽培(養液栽培)では、栽培期間が数週間程度と短期であり、需要に応じた計画生産が可能です。そのため営業から上がる受注を元に作付計画を立案し、播種日や播種数を決定して栽培計画に落とし込む形になります。実際は栽培計画通りに収穫が進まないこともあるため、早取りや遅取りを行ったり、短期間ですが在庫を持ち出荷調整を行う必要もあります。このような生産〜収穫〜在庫〜出荷の流れを全体でコントロールすることで、実需先への安定供給や生産や在庫面でのロスの低減が図れます。そのためのICT利用による計画生産や在庫調整が先進的な経営体では見られます。

 

沖縄県のスーパー店頭の葉菜類

 

この手法をさらに進めると、生産施設の空き状況などを見ながら、実需先への出荷提案もある程度可能になると思います。待ちの営業から提案営業への転換となり、生産ラインの確保をしながら安定供給を進めるといった製販一体化を進められると思います。

 

果菜栽培での収量予測から販売提案への流れ

 

一方で果菜類の栽培は長期栽培が多く、葉菜類の栽培のように播種日から計画化された出荷のような手法は難しいと思います。しかし圃場には収穫前の果実が着果していれば、それらをカウントし、過去のデータや今後の気象予測などを踏まえ、収穫時期や収穫量の予測がある程度は可能です。この面のICT化や予測技術の開発は多方面で進められておりますが、現場的には調査区画での果実数のカウントを基盤とし、そこからの収穫到達日数を踏まえた予測が多く取られています。

 

このような予測手法は実需者への安定供給面でも役に立つと思われます。特に栽培規模が大きい施設であれば、出荷ロットも大きく、大口の実需者との取引も容易となるため、そこでの予測にもとづく販売提案があれば、担当者(バイヤー)の負担を軽減できることになります。さらに果実の大きさ(2L、L、M、S)や梱包形態(箱詰め、パック詰め)などの情報が付与されれば、より取引は進むものと思われます。

 

収穫までの工程では収量を上げることはできますが、売り上げを立てることはできません。需要に応じた形状や梱包形態に選果調整をして適期に出荷納品することで売り上げが立ち、またより積極的に販売提案をすることで売り上げを先取りすることも可能かと思います。

 

収量向上はやはり重要

 

以上のように収量向上に見合うよう、販売先と販売単価、売り上げを確保し、収益に結びつけるよう収穫以降を含めたICTの利用の考え方について記しました。そうしたICT利用は、生産が安定して収量が十分確保され、複数の販売先への供給能力が見込める場合に発揮されると考えます。少ない収量では様々な提案はおろか、安定供給そのものが担保されず、また生産コストそのものも上昇する場合が多いためです。施設園芸の基本は生産性向上であり、基本は単収の向上であると思います。そのうえで生産コストの低減と収益の向上をどのように図るかを、ICT利用、スマート農業の活用を含め検討する時代に来ていると思います。

 

 

 

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by 土屋農業技術士事務所 所長 土屋 和

 

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