ビニールハウスの撤去作業について(災害ボランティアさん向け)

台風15号の施設園芸への被害は大きく、特にビニールハウス等の破損、倒壊が顕著のようです。被害面積は千葉県だけで479ha(9月26日発表)と膨大で、ガラス温室と合わせると500haを超えています。これは千葉県全体の施設園芸面積の1/3に近い数値と思われます。被害を受けた施設での営農再開には、全壊の場合に施設撤去が必要となり、人手が必要です。災害ボランティアの方などが現地に入られ撤去作業を行われることもあると思いますが、ある程度の知識が必要ですので簡単にご紹介したいと思います。安全には十分注意されてください。

 

突風で倒壊した鉄骨温室(茨城県 写真提供:防災技術研究所 横山仁氏 今回の台風15号被害とは関係はありません)

 

 

撤去作業のゴール

 

営農再開には、まず施設を撤去し廃材を処理する必要があります。ビニールハウス(以下パイプハウス)の材料は大きく分けて、ビニール等の「被覆資材」、構造材となる「金属パイプ(以下パイプ)」、取付のための「金属部材(以下部材)」があります。各材料を分別し、結束するなどしてまとめ、廃棄先に搬出することがゴールです。被覆資材は専用のリサイクル施設があり、また金属類もリサイクル可能です。撤去作業のゴールは、各部材を搬出可能な状態に分別し、とりまとめるところまでとなります。

 

 

パイプハウスの構造

 

アーチパイプと呼ばれる曲げたパイプを地面に50cm前後の間隔で挿して固定しています。アーチパイプ同士を直管パイプで連結補強し、そのほかに様々な部材を取り付け、さらに被覆資材をかぶせて固定しています。そのほかに妻面のドア、側面の巻き上げパイプなどもあります。概要はこちらの図が参考になります。

 

 

撤去作業の手順概要

 

作業手順の概要は以下の通りです。

1.被覆資材の撤去:ビニールを固定している部材をはずし、ビニールを撤去し、折りたたむ。

2.部材の撤去:パイプ同士などを連結している部材をはずし、金属パイプのみの状態にする。

3.パイプの撤去:金属パイプを地面から抜く。

4.パイプの結束:搬出しやすいよう結束する。

 

ただしこれは通常の手順で、強風で激しく変形したパイプハウスの場合には、さらに次の作業が必要になります。

※パイプの切断:撤去や結束などがしやすいように工具で切断する。

※部材の切断:変形ではずすことが出来ない部材は、本体や周辺を切断する。

 

 

撤去作業に必要な工具類

 

作業を効率的に行うには工具類が必要です。

 

※工具類、特に電動工具を扱った経験のない方には利用はおすすめできません。ただし手作業では進まないものですので、経験者と一緒に作業をされることをおすすめします。

 

・ハンマー:部材には「くさび類」が多く、くさびを抜くにはハンマーが必要です。振り下ろすような大型のものではなく、トントンと叩ける大きさのものを使います。

・パワーカッター:パイプや部材を切断するための電動工具です。取り扱いには注意が必要です。

・ディスクグラインダー:同じく電動工具です。パワーカッターより小回りは聞きます。細かな金属片の飛散もあるので、保護メガネやグローブが必要になります。

・パイプカッター:パワーカッターやディスクグラインダーは高価で充電電源も必要ですが、手動のパイプカッターもあります。人数分用意するにはこちらが便利でしょう。

・インパクトドライバー:部材を固定には「テックスビス」と呼ばれるネジが使われており、これを外すにはインパクトドライバーと呼ばれる電動工具が必要です。

・6角レンチ:ボルトナットで固定する部材が一部にあります。

・パイプ抜き:地面に挿したアーチパイプを抜き取る工具です。

 

以上の工具類を使っての実際の撤去作業の手順は以下の通りです。

 

被覆資材の取り外し

被覆資材は金属レールにスプリングと呼ばれる部材で固定されています。代表的製品に東都興業のビニペットシリーズがありますが、レールに凸凹型のスプリングで被覆資材を固定する方式です。このスプリングをレールの端から手で外すことができます。

 

部材の取り外し(くさび)

パイプハウスの部材の種類は非常に多いのですが、くさびで固定するタイプのものからハンマーで外します。同じく東都興業のビニペットカチックスといった部材が多く使われていますが、くさび部分をハンマーで叩くことで外れます。

 

部材の取り外し(ボルトナット類、テックスビス類)

レンチやインパクトドライバーで取り外します。

 

パイプの切断

曲がったパイプや長尺のパイプを短く切っていきます。

 

アーチパイプの抜き取り

部材の取り外しを進め、アーチパイプのみの状態になったところで、地面からアーチパイプを抜き取ります。

 

 

注意事項

 

金属類を扱うため、ケガに注意して作業をする必要があります。切断作業は金属が刺さらないグローブ類(ゴム製、革製)を用いてください。軍手では危険です。また長袖、安全靴の着用をお勧めします。 以上です。

 

※追記

このブログを見られたハウス撤去作業のご経験者で千葉県にもボランティアで入られた方からのコメント概要です:「天井部分のジョイント(アーチパイプを連結する部材)を固定したままで、その下の部分の取りはずしを先に行った方が安全で速い」、「その他に番線を切断するカッター、地際のパイプを引き抜く際に使えるバールなどもあると良い」大変ありがとうございました。一般的な工具類も車に積み込んで行くのが良いと思います。

 

 

 

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by 土屋農業技術士事務所 所長 土屋 和

 

 

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加工・業務用野菜と冷凍野菜(VEDICAセミナーより)

昨日までアグリビジネスジャパン(ABJ:於東京ビッグサイト)の併設セミナーでは、VEDICA(野菜流通カット協議会)による「加工・業務用野菜の情報交換セミナー」が開催されました。加工・業務用野菜の需要が高まる中、それらを使用した冷凍野菜にスポットを当てたテーマで、冷凍野菜の生産者、実需者による貴重な講演を聞くことができました。冷凍野菜はエダマメやホウレンソウがポピュラーですが、そのほかにもコマツナや新規野菜についてのお話も伺えました。

 

VEDICA主催の「加工・業務用野菜の情報交換セミナー」の様子

 

冷凍野菜の位置づけ

 

冷凍野菜は野菜の需給と価格の変動に対し、-18℃以下の冷凍保存によるバッファーを持たせることができ、生産側と実需側にとってメリットのある商品と言えます。季節的に市場に野菜があふれ価格が低迷する時期であっても、冷凍保存によって出荷調整が可能となり、価格を安定化することができます。また生鮮野菜が不足する時期にあっても実需側は安定的に調達が可能となります。このセミナーの日本農業新聞の記事(2019年9月13日付け流通経済面)には、「日本冷凍食品協会によると、国産冷凍野菜の供給量はこの30年、年間8〜10万トンで推移し、流通量の多くを輸入品が占めている。」とあります。実際の冷凍野菜消費量は加工・業務用途を中心に確実に伸びているはずで、記事の内容は国産供給がそれに追いついていないことを示しています。

 

冷凍野菜の生産事例

 

セミナーでは、いくつかの加工・業務向けの野菜栽培の事例と、実際の冷凍野菜加工の事例が紹介されました。二つの事例((有)ワールドファーム、(株)ジェイエイフーズみやざき)があり、野菜栽培と冷凍野菜加工の双方を手掛けられております。ワールドファームでは全国に3拠点(茨城、鳥取、熊本)の工場を持ち、社員が栽培と加工の両方を受け持ち、双方の作業の繁閑のバランスを上手に調整されているとのことです。最終的には全国に100拠点の工場立地を目指し、すでにいくつかの工場を立上げ中とのことです。流通経費削減(一般の流通では包装資材と物流費で売り上げの3割程度に)のため農場と加工工場を隣接させ、鮮度も良い状態で工場に搬入できるよう拠点を配置する工夫をされています。100拠点という目標は壮大ですが、国産の冷凍野菜への実需に強いものがあるという証かと思われます。

 

ジェイエイフーズみやざきでは、施設園芸が盛んな宮崎県西都市に工場が立地しており、葉タバコ生産が盛んであった地域での加工・業務用野菜の生産を地域で広めています。葉タバコの元圃場でホウレンソウの栽培を生産者が行い、その収穫と運搬などを会社側が行うという分業体制が特徴でした。冷凍野菜工場は稼働率を高めるよう、常に原料野菜の供給が求められますが、それを生産者まかせとせず会社側が自ら取りに行くことで工場の安定稼働を担保しており、あわせて生産者の負担を軽減していると言えます。お話では先に工場を建設し、それにあわせた野菜生産を確立されたとのことでした。その手法を畜産で見られるインテグレーションとして紹介され、土壌分析や施肥指導、栽培指導、品質管理など生産、加工、販売までの一貫体系を構築できる体制を作り上げられていました。圃場側はGGAPを、工場側はFFSC22000などを取得されており、実需側との商談もスムースに進むとのことでした。圃場管理もマッピングされ営農指導のIT化も万全で、農水省のスマート農業実証プロジェクトにも採択をされているとのことでした。

 

冷凍野菜の未来

 

パネルディスカッションでVEDICAの木村会長が、国産冷凍野菜の現状と課題を総括されていました。まず冷凍野菜工場の全国分布には偏りがあって、工場ゼロの都道府県もあるとの指摘で、地域での栽培と加工を考えると更なる工場建設が求められるとのご見解でした。また品目的には、すでに単品のカット野菜で需要が拡大しているネギの冷凍化がさらに進むこと、産地が全国化しているニラについても冷凍化が期待されること、施設野菜、果菜類についてもABJ会場で展示のあったパプリカ(タカヒコアグロビジネス社ブース展示)のスライス冷凍品などが期待されることなど、いくつかのご提案がありました。果菜類の冷凍品のイメージは冷凍イチゴ以外あまりなかったのですが、まだまだ商品開拓の余地はありそうでした。またヨーロッパで菓子などに使われるイチゴの原料供給のほとんどは中国産冷凍イチゴとのことで、冷凍品をターゲットとした施設生産という展開も今後あるのかもしれません。

 

施設野菜の周年生産、周年供給と、価格変動の波の大きさには近年矛盾が生じていると感じられますが、冷凍野菜をそこに組み入れることで新たな展開もあるのかもしれません。冷凍野菜工場の設備投資は数十億円にのぼるケースもあって簡単に取り組めるものではありませんが、セミナーに参加し今後の可能性を感じた次第です。

 

 

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by 土屋農業技術士事務所 所長 土屋 和

 

 

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台風15号が千葉市上陸(9月9日)

コンパクトながら発達した台風15号(FAXAN)が9日の朝5時前に千葉市(中央区)に上陸しました。最大瞬間風速で57.5mという過去最大の強風を記録し、千葉県内にも今も大きな被害をもたらしています。

 

台風の進路

 

台風15号は暴風域はコンパクトながら中心気圧が関東地方接近前でも950〜960ヘクトパスカル程度と強く、時速も30キロ程度と足の速い特徴がありました。この時速であれば接近時間が短いため台風対策の時間は限られ、進路予想が大切になります。気象庁の当日予報では「神奈川県から静岡県に上陸の可能性」というアナウンスもあり、これは結果的に外した予報でありましたが、地図上で台風進路の右側に強風が吹き込むことを考えれば、それでも千葉県側は十分警戒する必要があったでしょう。

 

米軍の台風進路予想

 

台風15号FAXAIの進路予想(米軍合同台風警報センター)

 

気象庁の進路予想図には、進路は範囲として示されおり、決めうちの予想とはなっていません。それに対し米軍関連機関が公開している進路予想図には、進路は一本の曲線として示されています。9日の零時を回った時点での米軍関連の進路予想は東京湾から千葉県方面を示していました。この時点での千葉市(筆者は台風上陸の千葉市中央区在住)は強風や豪雨には至っていませんでしたが、自宅方面に向かっていることは明らかでした。

 

台風に対する危機管理

 

足の速い台風でしたので、間際にならないと実感がわかない面はあったと思いますが、強い勢力を保ち、実際に千葉市中央区に上陸時にも瞬間最大風速57.5mという過去最大の強風が生じました。また気象庁から風と雨に対する警報は、通常より高いレベルで発せられており、危機管理が必要な状況であったと思います。一般住民の住居への台風対策は雨戸締めや片づけなど限られていますが、停電に対しての光源と水や食料の備蓄は必須であり、合わせて通信手段の確保、貯水など、間際でもやるべきことはいろいろとあると思われます。

 

現時点でも非常に多くの世帯や施設で停電が続き、二次災害のリスクも大きくなっています。千葉県は九十九里など太平洋沿岸での台風による強風被害が多く、また最近では茨城県も含めた広域の塩害もありました。今回のような強力で東京湾からのコースでの上陸は初めてのケースではないかと思います。被害が広範に及び、また現時点でも多くの方たちが大変なご苦労をされていると思いますが、今後もこうした災害が多発するという前提で、危機管理を行政や組織のみならず、ひとりひとりが心がける必要があると感じています。まずは身を守ることから。

 

 

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by 土屋農業技術士事務所 所長 土屋 和

 

 

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千葉大学土葉会「スマート農業の最前線」とJAの役割

千葉大学園芸学部蔬菜園芸学研究室は、施設園芸と野菜生産、養液栽培研究での長い歴史がある研究室です。研究室の勉強会にも伝統ある土葉会という会があり、今年度の幹事長を拝命し運営のお手伝いをさせていただいています。

 

 

土葉会「スマート農業の最前線」

 

本日は土葉会の第327回例会が開催され、「スマート農業の最前線」と題し4名の方に下記のテーマでお話をいただきました。
 

「AGRIOSを導入した経営改善」

螳羹丱肇泪版星/螢侫 璽爛ーエス 代表取締役 井出 寿利 氏

 

「クラウド制御型 養液土耕 自動化支援システム ゼロアグリ」

螢襦璽肇譽奪・ネットワークス 取締役CTO 喜多 英司 氏

 

「施設園芸コンテンツ連携による経営一貫体系の実証について」

農研機構野菜花き研究部門 野菜生産システム研究領域 生産工学ユニット 上級研究員 磯崎 真英 氏

 

「次世代環境・生育センシング技術とICTを活用した栽培支援技術の開発及び利用技術の確立(スマート農業プロ」

千葉県農林総合研究センター 最重点プロジェクト研究室 室長 齊藤 俊一 氏

 

スマート農業最前線のテーマにふさわしく、ICTで現場改善や生産性向上をはかるアプリケーション、新技術や実証体系のご紹介で、今現在の動きが分かるご講演ばかりでした。その中で「施設園芸以外のスマート農業の話」をお願いしました千葉県の齊藤さんのご講演についてです。あえて施設園芸以外でお願いしたのは、他の3題が施設園芸に特化した内容であり、土葉会の会員の方々には施設関係以外の方も多くいらっしゃるため、バランスを取ることも考えたためです。しかし、千葉県のスマート農業研究は、施設園芸以外の分野でも面白い方向に進んでいることがお話を聞いて分かりました。

 

千葉県のスマート農業研究テーマ

 

千葉県では水田作における農業機械の自動化、水管理の自動化、ドローンや各種センサーを利用した計測、計測情報や各種データのマッピングなど、広く取り組まれています。これは全国的な傾向で、農林水産省のスマート農業プロジェクトでも水田作関係のテーマが多くみられています。千葉県では水田作の他に露地栽培でのスマート農業の取り組みが多く、齊藤さんからは「病害虫予測に基づいた防除支援システム「梨ナビ」の開発」の他、ラッカセイの生産安定化のためのメッシュ気候データやUAV(ドローン)での画像情報利用、サツマイモの貯蔵安定化のための生育、収量、貯蔵性予測などのご紹介がありました。

 

いずれも千葉県の主要園芸作物で、主に気象要因、気象変動から生産や貯蔵などに影響を受ける事象について、メカニズムの解明や分析予測手法の開発を県の研究機関でされています。スマート農業の観点からは研究成果(予測などのアルゴリズム)をクラウドサービスに移行することが課題で、ユーザー(農業生産者)に使いやすいよう、エクセルなどを利用したPC上での計算や予測から、スマホなどを利用した簡易な操作性やアクセス性を進めることが示されました。研究成果を普及させるにはスマホ利用やクラウド利用とアプリ開発が必須であり、民間の技術やサービスを活用することが不可欠となり、そのためのプロジェクトが始まっているとのことでした。今後に期待したいと思います。

 

スマート農業とJAの役割

 

齊藤さんにJAとの取り組みや関係について質問をしたところ、サツマイモの貯蔵安定化については全農(千葉県本部)からの要望課題ということでした。配布資料では民間との共同研究や競争的資金獲得によりアプリ開発やマップ化等の実証化と普及を進めるようなスケジュールも示されていました。サツマイモ貯蔵のテーマに関しては、生育状態の良くないサツマイモでは貯蔵中の腐敗が起こりやすいため、長期貯蔵に適するサツマイモを圃場で選定できるようドローン画像による草勢などの生育情報の取得と分析を行い、また気象情報や土壌情報の収集と生育、収量、貯蔵性の予測手法などを研究し、貯蔵性を考慮した出荷戦略や施肥設計への活用をはかることも示されていました。こうした研究開発が進み、開発されたシステムが導入された場合、非常に広範囲なデータ(気象、土壌、生育、出荷、貯蔵、販売等)が集積することが予想されます。

 

これらデータが課題を要望したJA側に集積された場合には、営農指導だけでなく販売までの一貫体系としてのスマート農業の取り組みが期待されますが、いわゆるビッグデータを取り扱うことになり、それなりのクラウド上でのデータ処理や分析のためのシステム開発や運用体制も必要になると思います。また開発期間や開発費用もそれなりのスケールになることが予想されますが、それらをJA側が上手に進めることができれば、サツマイモの長期貯蔵による出荷が進展し、貯蔵物の出荷価格が上昇していることから、生産者の収益向上が見込めることになるようです。

 

JAのASPへの変身について

 

かなり昔のことになりますが、平成17年に農林水産省農林水産技術会議主催による、21世紀の農林水産業を展望するシンポジウム「次世代の農林水産業を支える革新技術」が開催されました。そこでの三重大学の亀岡先生のご講演についての自分のメモには、「ロボットに合わせた圃場設計があるのでは?」 「植物工場に合った品種選択があるのでは?」 「植物にとっての体温計の情報は何か?」 「ISO22000、GAP対応で、JAはASPに変身できるか?」といった興味深いコメントが残されていました。この最後の「JAはASPに変身できるか?」というコメントが10年以上立った今でも自分の頭に残っております。

 

ASPというのはアプリケーションサービスプロバイダーのことで、インターネット上でソフトウエアのサービスを提供する事業者のことであり、近年ではSaaSなどとも言われるネット上でのサービス提供に関することになります。亀岡先生のご講演の当時はISO2200もGAPも一般化しておらず先見性の高いお話だったと思います。そこにさらにASPを乗せていたことは驚きなのですが、スマート農業の担い手として、産地の生産から販売まで一手に扱えるJAがASPに変身できれば、産地の活性化に有効なことは間違いないと思います。今後はそうした観点でJAの役割を考える必要もあるものと考えます。

 

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農業新聞記事より「耐暑性多収性の「単為結果性トマト」の育種」

2019年9月4日付の日本農業新聞1面に「トマト新世代 高温でも多収受粉要らず 筑波大など」として、トマトの新品種育成に関する記事が掲載されました。

 

 

育成された品種の特徴

 

筑波大学や千葉県のかずさDNA研究所などの研究チームが、高温でも受粉せずに着果する単為結果性で多収性のトマトを育成したというニュースです。一般にトマトの受粉は高温になると花粉の受粉能力が低下し、また受粉を行うマルハナバチなどの活動も低下し、花が咲いても着果しずらくなります。単為結果性とは受粉作業を行わなくとも着果する性質のことで、そのような性質を持ったトマトはすでにいくつか育成され、商業栽培でも使われていました。例えばルネサンス(サカタのタネ)などがありますが、大玉トマトにしては少し小ぶりの果実(100~150g程度)であり、多収性品種とは言えませんでした。サカタのタネからは、その後、大玉品種で単為結果性のパルトという品種も育成、販売されています。ニュースでは、これはルネサンスやパルトのような市販品種ではなく、この系統を使って交配を繰り返し、新たな大玉トマトやミニトマトの育成に利用できる、としています。つまり耐暑性で多収性の系統として、これからのトマト品種育成に活用できるということで、研究グループでは種苗会社と連携し新品種育成に活用する、とあります。

 

最近のトマト生産の課題と高温期の栽培

 

ここ数年のトマト生産の大きな課題として、4~6月のトマト出荷量が全国的に増加し、市場価格が低迷して、トマト生産者の収益を圧迫していることがあります。これには、企業参入によるトマトの大規模施設の増加、補助事業を利用したトマト産地での施設面積増加、環境制御技術の普及による単収の増加などが理由としてあげられています。どの理由も根拠として正しいと思いますが、もうひとつあげるとすれば、トマトの作型(播種、定植、収穫、撤去までの年間の栽培スケジュールのこと)が全国的に平準化され、特に4~6月の一時期に集中して出荷が進むことがあると考えます。この作型は長期1作型と呼ばれ、最近の大型施設、オランダ型の養液栽培施設などでは一般的なものです。また農業生産者の一般的な栽培でも、以前は夏秋栽培、抑制栽培、越冬栽培、半促成栽培、促成栽培など様々な作型がありましたら、これも周年栽培や雇用型農業の流れから作型が延長され、長期1作型にシフトする動きが目立つようになりました。結果的に全国どこに行っても、お盆から9月頃に定植を行い、秋が深まるころから収穫が始まり、春先に一挙に収量が増え、暑さが限界になるまで取り続けるような作型が一般的になりました。このモノカルチャー的とも言える作型の平準化が、春先のトマト価格低迷の大きな要因ではないかと、私は考えております。

 

またその結果、9月〜10月にかけてのトマトの収穫量が全国的に低下し、モノが足りない、価格が上昇する傾向となっています。これは定植時期も平準化したことで仕方がないことです。その中でトマトが市場に不足する時期を狙い、春先に定植をして高温期を越しながら9〜10月にも収穫を続ける新たな作型(夏越栽培)に挑戦する生産者も出現しています。高温期の栽培を行うため、ハウス内の温度低下のための仕組みも必要となり、遮光、細霧冷房、送風などの技術を組み合わせるなど、設備投資やノウハウも必要で、誰にでも可能なものとは言い難いと思います。

 

育成された品種への期待

 

既存の単為結果性品種が夏越栽培で多く使われているとは言い難く、単為結果性だけでは解決できない課題もあると思われます。一般に高温期には果実が早熟しやすく、その分、果実も小さめで収穫され収量も低下しやすくなります。また着果そのものが低下すれば果実数も少なくなり、収量も低下してしまいます。育成されて品種は多収性をうたっており、これらの課題が解決されることが期待されます。またこの系統を使って、食味の良いトマト、さらに多収性のトマト、大玉、中玉、ミニトマトなど様々なバリエーションの育成も期待されます。

 

一方で、夏期の猛暑が年々さらに進み、栽培環境も悪化しています。施設内での作業環境も厳しく、人が作業すること自体、難しい時期も長くなっています。また台風や豪雨などの自然災害が夏期に集中し発生するようになってきました。もうひとつの課題として高温期の果実の品質低下があります。これは熱帯夜の発生など夜温が上昇することで呼吸消耗がおこり、糖度など果実品質の低下が進むことがあります。こうしたことは施設内の温度環境を改善するか、熱帯夜が発生しない高冷地や沿岸地域での栽培にシフトするかなどの対策が必要になります。新たな品種への期待感は高いものがあると思いますが、万能ではないことにも注意が必要です。

 

 

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by 土屋農業技術士事務所 所長 土屋 和

 

 

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施設園芸生産者のスタディーグループ

国内の施設園芸のスタディーグループについての記事を先般書いてみました。施設園芸国であるオランダのスタディーグループについて触れられた論文があり、ご紹介します。論文名は「オランダの施設園芸における農業者育成の現状と特徴」、著者は農研機構で農業経営を研究されている山田伊澄さんです。オランダの施設園芸について、教育訓練や農業者育成の支援の仕組みについて現地での聞き取り調査を行なったもので、2014年4月に受理された論文です。論文によると、オランダでは農業者同士での情報交換、外部アドバイザーによる支援、研究機関での新技術情報など、様々な場面で知識の獲得をしているとのことです。スタディーグループについての箇所を引用します。

 

トマト生産者の現地検討会
トマト生産者の現地検討会

 

 

オランダのスタディーグループ

 

オランダでは,同レベルの農業者同士が自主的に集まって情報交換をし,互いの農場を互いに見て切磋琢磨する,スタディグループというものが存在する5).同じ品種や作物,特定の技術など農業者でスタディグループが形成されている.農業者同士は,競争相手であるが友人として信頼関係があり協力するという.こうしたスタディグループは,オランダの農業者育成における大きな特徴の一つである.

 

日本の施設園芸でのスタディーグループは、産地の中でのグループ化が前提にあると思います。オランダの場合は同レベルの農業者の自主的な集まりということですが、日本の場合は必ずしもそうとは言えないでしょう。オランダは経営規模も数ha〜数十ha単位と大きく、技術レベルや経営レベルに差があるとグループ活動に支障があるかもしれません。日本では産地のくくりの中で、多少レベルに差があってもグループを組織して情報交換から始めることになると思います。それは産地競争の中での産地維持という目的があり、脱落者を出さないような仕組みも求められるためです。オランダの場合は国内での競争もあるかもしれませんが、スペインや東欧など、EU域内外での競争が前提にあるため、さらに高いレベルを目指す必要があって同レベルの農業者の集まりでのグループ活動となっていることが想像できます。

 

 

山田さんの論文では、栽培面積27haの大規模経営を行う生産者のスタディーグループ活動を紹介しています。この生産者は家族経営の大玉トマト農場での生産部門を担当しています。農場経営は、単収が63t/10a、年間収量が1万7千t、販売単価が84円/kg、売上が14億円、経費が4200〜4800円/屐経常利益が1.4億円となっています。5年以上前の調査ですので、現状の経営状況に変化があるはずですが、生産や販売の規模がやはり日本とは桁が違います。また5年ごとに約10億円の設備投資や規模拡大を行うとあり、家族経営と言えども投資と拡大再生産を展開していることが伺えます。

 

 

この大規模経営の生産担当者が属しているスタディーグループは2つあって、両者とも毎週、数名の生産者が集まり環境制御、施肥、病害虫防除などの情報交換、意見交換をするとあります。さらに月1回、お互いの労働面やコスト面のデータについて議論をし、販売面で競争相手であっても技術や知識面では協力をするとあります。

 

 

スタディーグループと外部のアドバイザー

 

スタディーグループの活動の他に、知識や情報の獲得手段としてアドバイザーの支援があげられ、IPM(病害虫)、栽培(作物)、エネルギー、法律関係のアドバイザーがいるとのこと。ここでのアドバイザーとは、日本ではコンサルタントと呼ばれる専門家のことで、大規模施設園芸に関わる各分野の専門家になります。アドバイザーの料金は論文では触れられていませんが、グループ単位でアドバイスを受け、料金の支払いも分担して行う例も実際にはあると聞いています。その場合はそれなりの額のアドバイザー料ということになるのでしょう。

 

 

論文ではスタディーグループ活動とアドバイザーによる支援は分けて記述されていますので、この生産者は単独でアドバイザーに業務を依頼していると思われます。IPMのアドバイザーについては毎週ハウスでの病害虫発生の確認を行い、2〜4週に一度のミーティングを行うとあります。また栽培のアドバイザーも2〜4週に一度の訪問とミーティングを行うとあります。農場特有のアドバイスを受けるためには、このような形態が必要になるでしょうが、グループでのアドバイスを受ける場合にはグループの農場巡回への動向によるアドバイス、各農場のデータを共有するミーティングへの参加などが考えられます。

 

 

スタディーグループのデータ共有

 

オランダでは環境制御装置のメーカーが異なってもクラウド上でデータを共有する仕組みもあるそうで、スタディーグループ活動も、そこに入るアドバイザーもクラウドデータの活用を行っていると思われます。各種データの共有と比較検討そのものが簡便に行える環境がある、ということになります。日本でも高知県が環境制御装置や環境測定装置に蓄積されたデータをメーカーの違いを超え収集する仕組みを最近採用しており、県単位でのスタディーグループ活動に取り組み始めたと言えるかもしれません。メーカーや装置の機種の違いがグループ活動の壁になるようでは技術の向上は望めず、この先のマイナス要素になるかもしれません。クラウド経由でそうした壁を取り払うことが日本でも有効になるのではと思われます。

 

 

日本とオランダの施設園芸は経営規模や生産性、生産コストや販売単価、さらに気象条件に隔たりがあり、オランダの仕組みや技術を取り入れてもそうした隔たりに起因する問題が発生することもあります。スタディーグループについても活動目的として全体の底上げをするのか、さらに高みを目指すのか、情報の共有範囲や対外発信をどこまで行うのかなど、取り決めるべきことは多いと思います。またスタディーグループだけでなく、品種育成、技術開発、マーケッティングなどを共同で行うより機能的な組織もオランダでは多くみられます。

 

 

日本でこれに当たる施設園芸のグループは、カゴメの農事業の各菜園や、高糖度トマト生産出荷を行う静岡県のサンファーマーズなどがあげられます。こうしたグループは構成農場でのスタディーグループの機能を内包しており、データ共有の仕組みも進んでいるものと思われます。一方で日本の個別経営の現場ではデータの収集と見える化による栽培技術向上の流れが定着してきたと思われます。次のステップに進むためには、スタディーグループのようなグループ内でのデータ共有や、グループ活動での相互学習と切磋琢磨が求められると考えられます。さらに先のステップには、品種選定や育成、技術開発やマーケッティングなどの共同化があるのかもしれません。

 

 

引用文献:山田伊澄、「オランダの施設園芸における農業者育成の現状と特徴」、農林業問題研究(194)

 

 

 

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by 土屋農業技術士事務所 所長 土屋 和

 

 

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本日の農業新聞より「収穫ロボットレンタル」

2019年8月20日付け日本農業新聞JA面の連載記事「ラボが生む革新 連携企業の挑戦」として、収穫ロボットメーカーのinaho(いなほ)の記事が掲載されています。アスパラガスの収穫ロボット開発で最近よく名前を伺う企業で、4月12日のブログでも取り上げたこともあります。記事の内容は4月12日のブログと同様に収穫ロボットをレンタルすることがあり、さらに料金体系の紹介が新たに加わっています。

 

収穫ロボットレンタルの料金体系

 

「ロボットは収穫時にアスパラガスの重量を計測。市場取引価格を参考に、収穫量に応じて想定販売額の15%を利用料とする。」と具体的な内容が明らかになりました。この15%という料率が高いか安いかという議論はあると思いますが、収穫作業の比率が高いアスパラガス栽培の省力化(現時点の自動収穫率は80%とのことです)を目指し、いよいよビジネス展開が始まることになりそうです。

 

同社がレンタルにしたのは、「カメラやセンサーが年々良くなるので、最新のものを常に使ってもらいたいから。高齢者が何百万円もする機械を買うのも非現実的だ」としています。日進月歩の世界であることが、レンタルサービスでのビジネスへ向かわせた背景と言えるでしょう。

 

同社は、「メンテナンスを担う営業所も拡大する。まず佐賀県内で増やし、九州や関東、四国などアスパラガスの生産量の多い地区で展開する予定」としています。また、「メンテナンスなどに対応するため、車で30分程度で行ける範囲で貸し出したい。そのため、営業拠点が多く必要になる」としています。このような最初のステップをクリアできれば今後は営業拠点も増やすことになり、本格展開に進んでいけるのかもしれません。

 

画像認識による収穫ロボットの用途展開

 

収穫ロボットのメカニズムについては記事では簡単に触れられており、「カメラとセンサーを使い、収穫できるアスパラガスを画像認識で判別。カッター付きのアームで収穫する」とあります。自走式のロボットが畝間走行をしながら地面から伸びたアスパラガスの眼をカメラやセンサーでスキャンし、形状から収穫適期を判断するのでしょう。このプロセスでは走行途中にある芽をくまなくスキャンしているでしょうから、圃場全体の生育状況の判断と収穫予測など、次の展開も見えてくるでしょう。レンタルと言っても高価な機械なのでしょうから、多用途への展開もあわせて考えていくべきと思います。

 

 

ホームページ「農業・施設園芸・植物工場の未来」もご覧ください

 

by 土屋農業技術士事務所 所長 土屋 和

 

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環境制御の設定の自動化・省力化の流れ

複合環境制御、統合環境制御といった環境制御技術の導入が生産現場では進んでいます。メーカー各社も製品開発を積極的に行い、展示会にまいりますと様々な製品展示がされています。ヘクタール規模の大規模施設ではオランダなど海外メーカーの独壇場でしたが、最近では国産メーカーの対応製品もみられます。

制御機能や対応規模の面で進化をしている環境制御機器ですが、その一方で高価な機器をどのように使いこなすかが問われています。規模によりますが、本体とセンサー類を組み合わせた価格帯は100数十万円〜300万円程度と幅広く、制御機能は地上部環境(温湿度、飽差、CO2濃度)を対象に、各種機器(暖房機、ヒートポンプ、天窓、側窓、カーテン、CO2発生装置等)を制御するものが多くあります。それらの制御ではかなり多くの制御設定(目標値や補正値などの数値入力)が必要になっています。

 

 

ハウスの環境制御は様々な制御設定を元に行われます

 

制御設定での問題点

小規模や単機能の環境制御装置では起こらなかったことが、大規模化や複合機能化により顕在化しています。例えば制御項目の増加に伴う設定作業の煩雑化があります。これは制御点数が増えることで起こるもので、また最近の流れとして制御時間帯を細かく分割し時間帯ごとに設定を行うことがあり、時間帯の分だけ設定作業が掛け算で増えていきます。

さらに現場でのやっかいなこととして、天候の変化、変動に対応した設定の変更作業があります。これは日射量や外気温などの外部環境が大きく変化する場合、それに追随して制御設定を調整する作業です。気象が不安定な日などPCや機器の前に長い時間張り付いて天候をみながら設定を調整をする場合もあって、省力的と言い難い状況かもしれません。

 

制御設定の自動化の流れ

最近は制御設定の作業そのものを自動化、もしくは半自動化する製品も開発されています。知られた製品として、環境制御分野の専門家で元静岡大学農学部助教授の狩野敦先生が開発したDM-ONEがあります。特徴的な製品であり、メーカーの株式会社ダブルエムのサイトの説明を引用します。

 

 

(1)三つの制御コンセプト

一般の環境制御では、環境値(例:気温)が設定値(例:暖房設定温度,換気設定温度)を踏み越えない限り何も行いません。この場合の「設定値」とは温度範囲を決定しているにすぎず、気温が暖房設定温度〜換気設定温度の範囲に保たれていれば「正しく制御された」状態と言えます。

DM-ONEの制御では、まず、最適であると考えられる環境値(気温)が算出されます。予め換気や暖房のために入力しておく設定値はありません。DM-ONE内部の植物モデルが現在の環境値(日射、CO2濃度等)において最も純光合成が大きくなる気温を自動的に算出します。この「最適値」を目標温度として制御を行います。

次に、DM-ONEは、ある温度範囲を維持するのではなく、常に「最適」な温度を実現するために換気や暖房を制御しつづけます。一般の制御のように「設定」された値からずれた場合のみ機器制御を行うということはしません。

三つ目に、DM-ONEの制御対象は、可能な限り物理値(気温,相対湿度など)ではなく、栽培植物の生理機能値(光合成や蒸散)となっています。制御は気温や水蒸気密度の制御を通して行うが、その目的は純光合成速度や蒸散速度の制御です。

 

 

環境制御の考え方が独自であり、植物の生育モデルをもとに、現在の環境(日射量、CO2濃度など)での純光合成速度が大きくなる気温をもとめ、それを最適値として目標の温度として制御するということです。そもそも設定を行わない仕組みで、設定作業から解放されると言えるでしょう。

もう1社の製品をご紹介します。施設園芸が大変盛んな高知県のメーカーであるICHIKAWA(有限会社イチカワ)の統合環境制御システム、アネシスQ2600です。高知県との共同開発により生まれた製品で、この製品カタログの表紙には、次の特徴が書かれています。

 

 

・作物にとって最適な環境を維持して光合成を促進

・温度と湿度をバランスよくコントロールして病気を抑制

・天候やハウス内環境が変化するたびに設定を変える手間を省く

 

 

三つ目のフレーズに、「設定を変える手間を省く」とあり、様々な機能が実装されています。同社資料によると例えば天窓の開閉について、外気温の変化に応じて補正する機能があり、風向風速に応じて天窓開度を制限する機能(これは他社製品にもあるかもしれません)もあり、天気(曇り度合という指標を用いているようです)に応じて温度設定を変える機能もあります。いずれも補正機能で、人間が補正する代わりに制御装置が環境の変化にもとづいて自動的に補正する機能です。オランダ製の環境制御装置にも同様な補正機能は装備されていると思いますが、やはり設定が必要です。この製品の開発には地元の篤農家の意見も取り入れられているそうで、補正値の設定についても篤農家の意見が反映されているのかも知れません。

 

 

以上の2つはコンセプトはまったく異なるものの、制御設定を自動化するよう工夫された製品と言えます。施設園芸の専業メーカーが開発している製品とは一味違うものですが、こうした新たな流れも起きています。

 

制御設定のプリセット化での対応

制御設定の値は、最近の製品ではデータセットとして扱うようになっており、保存や読み込みも可能な機種もあるようです。これは季節の変化や生育状況に応じて適切なデータセットを読み込んで、設定作業を簡略化するものです。データセットそのものはノウハウと言え、篤農家のノウハウとして活用をはかるといった趣旨もスマート農業の世界では耳にするようになりました。それには知財としての扱いなど制度の整備が必要となるでしょう。一方で、その土地、そのハウスで活用できるデータセットを整理し、プリセットして簡単に扱うような製品の開発も起り始めています。完全にセット化すると融通は効かなくなるため、前述のような補正機能も組み合わせてフレキシブルな仕組みも取られているようです。

 

 

プリセット化しデータセットを選択することで、専門的な知識が無くとも現場の環境制御の管理の自動化(制御の自動化ではありません)がかなり進むのではないかと思われます。ただし植物の生育状況に応じた改善などは出来ないため、管理の自動化・省力化と生産性の向上には一定のトレードオフがあると言えるでしょう。

 

 

スマート農業と高度環境制御技術の進展の流れは強いものがあると思います。それを実際に使いこなすには経験やノウハウの蓄積も必要かと思います。ご紹介したような自動化・省力化の流れは、スマート農業の新たな動きとして注目してまいりたいと思います。

 

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by 土屋農業技術士事務所 所長 土屋 和

 

 

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最低賃金の上昇と施設園芸・植物工場経営

7月31日に厚生労働省より「令和元年度地域別最低賃金額改定の目安について」として報道発表がありました。これは同日開催された第54回中央最低賃金審議会による厚生労働大臣への答申によるもので、今年度の目安が示した引上げ額の全国加重平均は27円(昨年度は26円)となり、昭和53年度に目安制度が始まって以降で最高額とのことです。また全都道府県で20円を超える目安額となっており、引上げ率に換算すると3.09%(昨年度は3.07%)となっています。  今後は目安額にもとづき地方最低賃金審議会で地域別最低賃金審議が行われ、都道府県での最低賃金額が改訂されていく流れとなります。

最低賃金(地域別最低賃金 全国加重平均額) 、労働政策研究・研修機構(JILPT)より

 

この動きが施設園芸、植物工場の経営に与えるインパクトについて考えてみました。続きはこちら

 

 

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施設園芸生産者のスタディグループ

施設園芸の端境期、作替時期に当たる8月はイベントシーズンでもあり、昨日今日と千葉県旭市でも施設園芸の大規模なセミナーが開催中です。千葉県での開催にもかかわらず全国からの参加者も多く、また講演者も施設園芸の盛んな高知県や宮崎県の方もおり、全国的なイベントになっていました。その中で宮崎県のキュウリ生産者の方が「スタディグループ」活動について紹介され、興味深い内容でしたので、お伝えします。

 

キュウリ生産者のスタディグループ

 

オランダの施設園芸生産者の間で広まったと言われるスタディグループは、生産者間で勉強会や現地検討会を開催し、現場を見つつ様々なデータを出し合って比較し、良い結果のケースなどを参考にグループの底上げをはかる活動とのことです。まさに学ぶ場、学ぶグループと言えますが、学ぶだけでなく実際の栽培や経営に反映させる仕組みと言えるでしょう。オランダの施設園芸ではデータ比較のためのプラットフォームも整備され、異なるメーカーの環境制御機器のデータでも同一のクラウド環境で比較可能という話も聞いたことがあります。あくまでグループ内でのデータ比較であると思いますが、オランダ施設園芸の発展基盤のひとつであることは間違いないと思います。身近な仲間の栽培状況や管理データを参考に改善をいち早く進めることができるためです。

 

宮崎県のキュウリ生産者の方は、こうしたオランダの施設園芸の動きを紹介され、仲間を募って数年前にスタディーグループを立上げられたそうです。同一の環境測定機器を使うことを条件にデータの比較をしやすくし、また日々の収量の提示、開花やその後の収穫までの追跡調査と着花段数や葉長などの生育調査も行われています。キュウリの各節に着花し果実として収穫されるまでのプロセスを追いながら、収穫までの歩留まりや期間などを環境測定データと見比べて、収量アップの方策を検討されてきたものと思います。そのために定期的な勉強会と現地検討会も開催し、毎年収量アップを重ねられたとのことです。また生産者が日常の営農活動をこなしながらデータの整理には手が回らない中、県職員(普及指導員)や農協職員(営農指導員)による支援が大変役にたったとのことでした。その際にスタディグループのデータを県や農協にも提供する条件で支援を受けたとのことで、公益性のある活動にもなっています。

 

スタディーグループ活動の推進に必要な要素

 

これには2つの要素があると思います。ひとつは前述の普及指導員や営農指導員による支援です。データを基礎に進める活動であり、調査方法や集計方法の教示、集計作業そのものへの支援、データの見方や改善への助言、勉強会のファシリテータ役など、様々なことがあると思います。データの扱いに慣れていない生産者がゼロから活動を立ち上げる場合、こうした支援は不可欠でしょう。また支援を進める側にも、それなりの知識や経験は必要ですが、生産者と一緒に考え共に学ぶ姿勢も大切でしょう。

 

もうひとつの要素として、クラウド環境の利用があります。最近は様々な環境が安価で提供されており、このキュウリ生産者のスタディグループは無料で利用できるGoogleのスプレッドシートを使ってお互いのデータを参照するよう仕組み作りをされていました。スタンドアロンの環境ではデータの取り込みや集計に手間がかかるばかりでしょうが、クラウド環境があれば日常的なデータ集計や比較も、会合等でのデータの検討もスムーズに行えるはずです。なお、同じ宮崎県内では、出荷予測や販売促進も含めた高糖度トマト生産グループのクラウドデータ活用の仕組み作りも進められています。また最近では、各社から様々な環境測定機器が発売(乱立とも言えます)される中、異なるメーカー、機器のデータも扱える生産者グループ向けのクラウドシステムも開発され、活用が期待されます。ようやくオランダ並みの環境に近づいてきたと言えます。

 

施設園芸、スマート農業の主役は誰か?脇役は?

 

スマート農業のブームが言われていますが、その本質は「データにもとづく農業」による生産性や収益性の向上に尽きると思います。便利な機器やサービスが数多く出回る中で、いかにそれらを使いこなし、増収と投資回収、増益に結び付けることが出来るかが、生産者側にも求められるでしょう。その際の主役はメーカーやベンダーではなく、あくまで生産者と言えます。宮崎県のスタディグループのようにデータの取得と活用を勉強会の中で進め、試行錯誤もあると思いますが、毎年改善を積み重ねることで増収と増益に結び付けることは、生産者自身の意識と能力によります。主役はあくまで生産者です。

 

その際に脇役となる支援者も重要であり、データの取り方、見方、活用の仕方についてリードできる知識と経験を持った指導者の育成が、これからのスマート農業の推進には不可欠になるでしょう。環境制御やCO2施用、養液栽培など個別の要素技術についての研修の場は従来も多くあったと思いますが、データの取得から管理、活用といった大きな枠組みでの研修や人材育成の仕組みは現時点でも少ないように思います。主役を盛り立てるための脇役作りにも、目を向ける時期かと思います。

 

施設園芸新技術セミナー機器資材展in千葉の開催の様子

 

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by 土屋農業技術士事務所 所長 土屋 和

 

 

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