加工・業務用野菜とサプライチェーン


加工・業務用野菜という、やや業界用語的なジャンルがあります。外食や中食など、食の外部化が進む中で、それら の用途を担う野菜のことで、スーパーや直売所で購入した自家消費用野菜に対するジャンルでもあります。この加工・業務用野菜の需要が、2兆円強の国産野菜出荷額の半分を超えて久しいのですが、ここに対応した野菜生産が今求められています。 
 
加工・業務用野菜を扱うところとして、弁当や総菜、サンドイッチ、給食など様々な加工食品を作る食品製造業者があります。また野菜をカットやミックス、パッキングして、これらの業者に納める加工業者も存在します。いずれの業者も大量の野菜を原料として仕入れ、特定の売り先に供給しています。ここでのキーワードは野菜の安定供給であり、定時、定量、定質の3定、さらに定価格が加わった4定があります。 

 

サラダ野菜の加工場

 
一方で、野菜の生産者や出荷組合、農協などは、これらの業者に対し、一定の契約のもとで野菜の出荷、販売を行っていきますが、そこには生産側と需要側の様々なミスマッチが存在しています。生産側からすると、3定や4定を求められても、気象変動や自然災害に対処しての計画通り、契約通りの出荷は大変難しい面があります。 
 
業者側からすると逆であって、安定供給先を本当に確保できるか、通年で切れ目無く品質が一定の野菜が供給されるのか、という不安があります。また、業務用途ということでの大量購入の反面、価格面は抑えられるため、双方の値決めが難しい側面も見られる。 
 
実際にはこうした取引を、契約を介し成立させることはかなり難しく、業者側も様々な種類の野菜が必要となるため、中間業者とよばれる専門業者が両者の間に立って、安定供給や物流、商流の形成に寄与しています。 
 
流通の仲介という卸売機能にとどまらず、中間業者は野菜の1次加工や鮮度保持やバッファーのための貯蔵を担い、また生産者や産地に対し生産計画や実施状況の管理を行い安定供給の支援を行うところもあります。さらに自ら農業法人を設立して、生産業務にも領域を拡大する動きまででています。
 
以上のように、加工・業務野菜においては、生産、物流、貯蔵、加工、製品化までの一連の流れがあり、一般製造業におけるサプライチェーンに対し、フードサプライチェーンとして捉えられるものです。このフードサプライチェーンでは中間業者によるQCDの調整機能が重要であり、ICTによる流通と一体化した生産管理や品質管理、鮮度管理の取り組みも行われています。一見地味な加工・業務用野菜の世界が、実は今の農業の流れの最先端を担っているのかもしれません。 
 
参考文献:加工・業務用野菜をめぐる現状(2013)、農林水産省 
 

AIと農業

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農業はバラツキの産業と言われています。規格化された工業製品に比べ、農産物は一つ一つが異なっており、それをいかに揃えて育てるかに苦労があります。また収穫の後工程として、選果や選別、調整があり、多くの労力や機械を投入し、規格別に分けたり、揃えたりという作業を行います。その結果、スーパーなどの店頭には野菜や果物が、色、形、重さがぴったりとまでは行かないまでも、整然と同じようなものが並んでいます。

 

韓国のスーパー店頭
韓国のスーパー店頭

 

こうした収穫後の後工程には、箱詰めや包装もあり、さらに輸送車による出荷まで冷蔵庫などに保管する工程もあります。バラツキがある収穫物を基準に従って選別し、規格ごとに揃えて包装して適時に出荷することで、商品としての価値が生まれます。収穫物をそのまま出荷しても客先は引き取ってくれません。客先が要求する規格を実現することで価値が生まれ、また規格を提案することで新しい価値が作られる場合もあります。規格から漏れたものも廃棄せず、別の規格で安く販売したり、どうしても売れないものはジュースやジャムなどに加工する場合もあります。

 

前工程に当たる栽培で、きちんとした農産物を作ることが大前提なのですが、売上を生むのはむしろ後工程になります。ここでの歩留まりや作業の優劣によって、商品の付加価値が大きく変わることもあります。本題のAIと農業ですが、AIがこの付加価値の向上に寄与しつつあります。

 

一例として、ミカンやトマトなどの果実の選果機があります。選果作業を機械化する選果機はライン化されており、ラインに載せた果実を計測し、重量、形状、糖度などに分別するものです。いずれもカメラや各種センターでの非破壊計測を用い、果実一つ一つについてソフトウエアでの分析とハードウエアでの選別を行います。この過程で、計測値×果実数の膨大なデータが発生し、PCを搭載した選果機はビッグデータの固まりとなります。例えば1ha規模のトマト温室では、一日当たり1t程度の出荷があり、トマト果実が平均150gとすると1日に6666個の選果が行われます。これは年間で260万個程度の果実数になり、また平均20gのミニトマトではさらに多くの果実数となります。

 

選果機での選果の瞬間

 

カメラやセンサーで計測した値に基づいた選果では、求められる規格に対してある程度の誤差が発生します。誤差によって小さ目の規格に選果された場合はクレームの原因になるかもしれません。大き目の規格に選果されるとロスとなります。ここでAIの出番となるのですが、計測値と選果結果について過去のビッグデータを学習させ、機械側の選果基準の調整を行います。数を重ねるほど学習効果が現れ、選果の誤差も縮小され、より正確な選果が行われることで付加価値の向上が期待されます。こうしたAI利用は、開発段階のものもあれば、すでに現場実装されたものもあります。農業でのばらつきを逆手にとって付加価値を生むようなAI利用は、まだまだ色々な可能性がありそうです。

 

超大規模植物工場の出現

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大規模な人工光型植物工場のニュースが多く聞かれます。最近まで、日産1万株クラスの生産量を持つ植物工場が、大規模の一つの目安でした。これはリーフレタス1株を平均80gで出荷するとして、800kg相当になります。こうした規模の植物工場の運営が黒字化するまでには何年か必要と言われています。これは初期の様々なトラブルを解決しながら、生産と販売がうまくかみ合いフル稼働で利益を生み出すまで、それなりの時間と試行錯誤が必要であるためでしょう。

 

この規模の植物工場で働く人は、社員数名とパート従業員が15〜20名程度で、社員は工場長、副工場長、総務などの役割で営業兼務というのが一般的でしょう。実際に植物工場を運営するのは設備や機械類ではなく、レタス類などの種をまき、苗を育て、定植や植え替え、収穫をして、選別調整後に出荷を行う人間です。さらに清掃や消毒、営業やクレーム対応、パートさんの募集や面接、毎日のシフト作りや調整、と植物工場に限らない人間の業務も色々とあります。

 

 

ところが最近は日産2万〜4万株、さらに7万株といった生産能力を持つ工場建設のニュースが聞かれるようになりました。いずれも大企業と、実際に植物工場の開発や運営に携わっている企業との提携によるものです。技術導入と資本力により市場をいち早く獲得して優位性を確立する戦略と見られます。日産1万株でも十分に大規模で立ち上げる苦労も大きいと思うのですが、最早そうではない、スケールメリットが得られる更なる大規模化(以下、超大規模化)がこの世界にも訪れようとしてます。果たしてこれらの超大規模化は成功するのでしょうか?

 

ニュースの情報によれば、これら超大規模植物工場では、自動化と省力化を進めようとしています。すでに既存のいくつかの植物工場では、移植機械で苗を定植パネルに挿しこむ工程を自動化しています。ただし工程の一部を機械化しているだけで、工場の製造ラインのように様々な機械やロボットが整然と動き回るような自動化はされていません。機械作業の前後の工程を人間が補助するような半自動化というべきかもしれません。

 

自動化のレベルを上げると、機械やロボットの性能向上、設備のメンテナンス、設備投資などが新たに負担となります。また一部の工程だけ自動化しても全体の効率が上がるものでもありません。残った手作業の工程に対し多くの従業員が参加して一斉に仕事を進める必要があります。超大規模化により生じる新たな問題も数多くあることが予想されます。

 

超大規模植物工場の事業者は、すでにこのようなことは織り込んで事業計画や生産計画を立てていることでしょう。それを計画通り実現できるかどうかは、機械設備の性能に依る部分と、現場従業員の管理能力や作業能力、さらにトラブルへの対応力など、人間的要素も多いはずです。超大規模植物工場がどのような成功をもたらすか、大変興味が湧く話題です。

季節の前進と農業生産

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今年の桜の開花は例年より早く、春の訪れも前倒しでした。連休中も夏日が続きました。また連休後も梅雨のような天候が続いて、季節が前進化している様子です。

 

東京の今年4月の平均気温は17.0℃でした。1981年から2010年までの4月の平均気温が13.9℃ですから、+3.1℃も上昇しています(気象庁のデータより)。また今年3月の平均気温も今年は11.5℃で、1981年から2010年までの8.7℃に対して+2.8℃の上昇でした。

 

これだけの気温の上昇があると植物の生育も前倒しとなり、価格にも影響がでています。一例としてレタスの価格があります。日本農業新聞(5月9日付け)では、5月上旬の相場価格は過去5年平均の2割安であり、高冷地の長野産が前進化して茨城産と重なり出回りが潤沢化したためとしています。今年のレタスは3月後半から潤沢に出荷がされ安値続きで、5月には長野産も重なり荷動きも鈍くなっているようです。

 

レタスの価格は昨年の夏からの曇天や長雨の影響で年明けまで高騰していましたが、それがウソのような状況になっています。それだけ天候の変動が激しくなっており、その影響を農業が直接受けてしまう構図が明確になっています。この先は平地のレタスが早く切りあがって、価格は持ち直すのかもしれませんが、これも天候次第でしょう。

 

沖縄県南城市のレタス畑

 

以上は天候とレタス生産と価格についてのスポット的な見方ですが、日本の農業生産をマクロ的に見れば、産地の北上という傾向が浮かび上がります。例えば柑橘類の栽培は温暖な静岡県や愛知県、和歌山県、愛媛県などが産地でしたが、現在は関東地方や南東北まで広がっています。これは気温上昇により栽培地域が北へ拡大している例です。

 

露地栽培(一部ハウス栽培)の柑橘類に対し、施設園芸による果菜類でも同様な傾向が見られます。日射量が豊富な東北太平洋岸で、トマトを中心としたハウス栽培が増加しています。施設園芸が盛んな地域は、九州、四国、東海、関東地方に分布していましたが、ここでも栽培地域が北へと拡大しています。

 

今後もこうした傾向は続くと考えられますが、北上に伴って日照時間の制約もあるため、作物による北限も生じるでしょう。新たな農業生産を考える場合には、まず作物に適した気象条件と適地を検討する必要があると思います。労働力や物流網の確保といった重要な地域条件もありますが、自然相手の農業では気象条件の把握と評価がより重要になるでしょう。年々厳しくなる猛暑や寒波、極端に短くなった春と秋、頻発する豪雨や台風の被害、こうした悪条件を回避しながら、その作物にあった地域の選定を考える必要があるでしょう。

種子法廃止と農業の未来

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種子法廃止と日本農業の未来 
 
日本には主要農作物種子法(種子法)という法律があり、コメ、ムギ、ダイズの主要穀物について、国や県による主導で、優良な品種を育成し、奨励品種としてきました。またこれらの穀物の種子を都道府県単位で維持し供給してきました。コメであれば、種籾(たねもみ)と呼ばれる種子です。 
 
この種子法が、29年度の国会での種子法廃止法案の成立によって廃止されました。農業関係者や一部のマスコミでは、この廃止が国産穀物の育種や種子供給に悪影響を及ぼすことや、国や都道府県が持つ遺伝資源が外資に渡って独占されることへの危惧が叫ばれていました。しかし、種子法が今まで果たしてきた役割は、一般にはほとんど知られていないと思います。 
 
種子法は根拠法であり、種子法にもとづいて都道府県は、穀物の育種や採種、原種や原々種と呼ばれるオリジナルの種子の保存などの事業を行っています。また、実際にコメの種籾やダイズの種子を地域で育成、採種、販売することには、多くのプロセスがかかわっています。 

 

車窓からの風景


例えば、種取りをする作物の栽培中には、何度か圃場審査があって、生育状態を細かな基準に従って計測を行い、 合否が下されます。また収穫後には、種子は等級や品質、発芽率なども厳しい基準で選別が行われ、DNA識別までされることもあります。一方で、種子作物の生産者は、病害虫防除や異品種の混入防止、細密な収穫後の調整など、通 常より多くの神経を使って栽培をしなければなりません。 
 
この審査や検査は、都道府県の職員や、委嘱された専門家が行っていますが、ここでの人件費や各種経費は都道府県の負担によるものです。また直接、現場での審査や検査に携わらない職員(行政職、技術職)の人件費や、育種、技術開発に関する費用も多大なものがあります。 
 
都道府県としては、地域の気象条件や地理的条件などに適した品種を育成、維持、配布し、地域農業や関連産業 を振興するという目的があって、こうした事業を推進してきましたが、その背景というか大元の根拠法として種子法 が長年存在していたわけです。種子法のおかげで、コメの主産地では独自の競争力のある高品質の品種が 育成、普及しており、最近の「きらきらネーム」のコメ品種の興隆も、その成果とも言えます。 
 
国内では自家採種がほとんどであったものが、1952 年制定の種子法によって、都道府県による穀物の種子配布 事業が推進され、農家も種取りから解放されて、栽培に集中できるようになったともいえるのです。 
 
以上のような種子法の役割は、今回の種子廃止法案によって終わってしまいました。もちろん根拠法が無くなった らといって、今まで実施されていた様々な事業や取組がすぐに無くなるわけではありません。すでに独自の条例で対策を進めている自治体も現れています。しかし行政の世界では、 毎年予算を獲得して事業を継続してきたため、根拠法の廃止の影響はじわじわと出てくる可能性も考えられます。 なぜこのような事態となったか、また主要穀物の育種や種子の流通がこの先どうなっていくかは、またの機会に触れてみたいと思います。 
 
参考文献:水稲の採種栽培 第3版(2016)、千葉県・千葉県農林水産技術会議