AIと農業(その2)生産場面で進むAI利用

JUGEMテーマ:農業

 

前回(だいぶ前ですが)、農業はバラツキの産業で、そこでの選別のプロセスにAIは有効に使えるかもしれない、という意見を述べました。

 

その後に、ある会合で農業とAIについてのお話をする機会があり、このような図で説明をいたしました。

 

施設園芸・植物工場での生産~販売工程とAI利用(クリックで拡大)

 

施設園芸での、いくつかの実用化例や開発事例をピックアップして並べたところ、育苗から出荷販売の各プロセスでAI利用はそれなりに進んでいることがわかりました。新たに画像計測を行って得られる画像データを利用してAIによる学習を行うもの、通常のプロセスから発生するデータを利用してAIによる学習を行うものに大別されます。以下にそれらの概要を説明します。

 

 

1.画像計測によるデータの利用

 

【育苗】

トマトやキュウリの接ぎ木育苗で、台木と穂木の成育程度が適合していないと、接ぎ木後の活着(接ぎ木面が癒合し、その後の成育がスムーズに行くこと)に影響がでやすい。生産現場では従業員の目視による選別を行っているが、労力負担や生産量の律速要因となる問題がある。AIを用い大量の苗画像データより苗の形状や成長の程度を学習させる。学習を繰り返し、選別の精度を高め、接ぎ木の活着率向上に活かす(苗生産業での開発事例)。

 

【病害虫診断】

葉が大きく、病害の診断が比較的容易なキュウリについて、病害発生状況を撮影した画像と病害名をAIに学習させ、診断システムを開発した。3ケタ程度のサンプルで学習をさせた後、無病の葉と10数種類の病害の葉について実際に診断をさせたところ、精度は80%であった。(大学と研究機関による開発事例)。

 

【収量予測】

トマトの果実を移動式の装置に取り付けたカメラで撮影し、果実数や着色具合が撮影された画像と、別途計測したハウス環境データなどから収穫に適した果実数や収穫日などをAIを用い繰り返し学習し、収穫日や収量の予測を行う(ICT企業による開発事例)。

 

 

2.プロセスから発生するデータの利用

 

【水分制御、培養液制御】

養液土耕装置において、環境データにもとづいた潅水や肥料配合の指令を行うが、自分の意図に沿わない動作をした場合、農家が装置メーカーに連絡しAIの調整を適時行っている。AIは過去の制御やモニター値からの学習により、制御の方法や設定内容を判別する機能がある。あらかじめ定められた範囲での制御を行うが、細かな設定はAIによる判断が生かされている(ICT企業による実用化例)。

 

 

実用化例と開発事例が混在していますが、学習精度が上がれば実用化レベルに近づくものも今後でてくるものと思います。画像計測データによる学習はAIの得意分野です。またプロセスデータから自動学習させる機能については、農家の指示による調整で段々と精度が上がってくるもので、調整がうまくされれば農家には手放せないシステムになるのかもしれません。

 

 

以上は、生産工程におけるAI利用例ですが、そのあとの販売工程においては、農業分野での利用例にはまだ遭遇しておりません。しかし顧客の販売履歴を学習させ顧客の好みを抽出してターゲットを明確にしたDM発信をするなど、小売業でのAI利用はかなり実用化がされています。そうした例は農業へも販売データの蓄積により応用がされる可能性もあると思われます。

 

以上の事例はここ1年ほどに明らかになってきたものです。農業や施設園芸での生産から販売までの多くのプロセスにAIが導入される日はそう遠くないものと考えております。

 

 

ホームページ「農業・施設園芸・植物工場の未来」もご覧ください。

 

 

 

 

施設園芸 植物工場展 2018 GPECの見方

「施設園芸 植物工場展 2018 GPEC」が今週、東京ビッグサイトで開催されました。2年に一度のイベントであり、2日間で4万人以上の来場がありました。各社の出展ブースでは、商品展示というよりも、ひとつのパッケージとして商品の利用場面やICT サービスまで広範な提案を行うものが多く見られました。

 

施設園芸・工場展 GPEC(クリックして拡大)

 

1.商品やサービスのパッケージ化とサプライチェーン

 

商品やサービスをパッケージ化するためには何らかの軸が必要になります。例えばトマトを栽培し販売するという軸で考える場合には、播種育苗から収穫、選果出荷までの一連の流れがあります。製造業の世界ではサプライチェーンマネジメントという観点で、物の流れや情報の流れを全体的に整理し最適化する考えが主流です。農業や施設園芸でのサプライチェーンマネジメントを一貫してできる事業者はそう多くはないと思われます。また今回の展示会では、パッケージ化といっても生産段階を対象としたものがほとんどで、出口を見据えた提案は生産販売や加工流通にかかわっている一部の展示ブースであっただけでした。 この点では、まだまだ発展や改良の余地はあると思われます。

 

2.積み上げ型経営からのサプライチェーンマネジメントへの転換

 

今までの農業経営や施設園芸経営では積み上げ型のものが主流でした。これは規模が小さいため、ひたすら作り、その分の出荷をすれば経営として成り立っていたためだと思われます。

しかし経営規模が大きくなると、作ったものをどのように販売するか、余さず売り切るか、またそこから利益を確保して次の投資に生かすことまでも考える必要がでてきます。

従来の農業経営者の他、農業資材の提供者、技術情報の提供や指導を行う公的機関や研究機関なども、同様に積み上げ型の思考であったことが考えられます。

今後は、規模拡大の流れから、そうした思考が通用しなくなることは明らかです。販売の出口から逆算して物事を組み立て、考える必要が出てきます。そして利益重視型の経営、また利益を確保するための生産の仕組みと施設の設計、こうした考え方がどうしても必要になってくると思います。そしてそれらをまとめあげるのが、サプライチェーンマネジメントの考えになるでしょう。

 

3.展示会のあり方と今後の課題

 

今回の展示会では 、様々な新商品や新しいサービスの紹介がありました。また開発途上であってもユーザー側の反応を確かめるような展示も多くみられました。GPECのような大規模な展示会にはメーカーやディーラー、農業関係機関などの業界関係者の方々も多数参加をされます。こうした方にとっては情報収集や取引の絶好の機会であり、展示会の意義も大きいものがあると思います。

しかし生産する側にとって新しいものがすべてではありません。出展ブースには数は少ないので すが農産物を生産販売するユーザー側の方々もおられ、立ち会った限りでも出展者との交流(売り込み)も多くみられました特にパッケージとしての提案は、そこそこの導入費用がかかるため、費用対効果や投資回収についてユーザー側は値踏みをしています。ユーザー側はなるべく簡素化し導入費用を抑えようとしますし、出展者は付加価値を乗せ販売をしようとしますが、最終的な導入の判断はユーザー側が利益を確保できるかどうかになるはずです。ここでもサプライチェーンマネジメントの観点で見る必要があるでしょう。

こうした直接のやりとりが見られるのことも、大規模な展示会の存在意義のひとつではないかと思います。2年に1度の展示会であり、ユーザーと出展者が良い意味での探り合いを深め、業界の発展に結びつけることが重要ではないかと考えます。

 

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ものづくり改善ネットワークと農業、施設園芸

JUGEMテーマ:農業

 

東京大学ものづくり経営研究センターセンター長の藤本隆宏先生が理事長をつとめる「(一社)ものづくり改善ネットワーク」が、農業分野も含めた勉強会を始めたので、さっそく参加をしてまいりました。

 

開かれたものづくり研究会」として開催され、農業をはじめ、サービス業、医療、観光などに、製造業で培われた「ものづくりの良い流れ作り」を展開していこうと、トライアルで始められたものです。このネットワークには、トヨタ系を始め、製造業の現場の改善のプロフェッショナルが集まり、さらに長期研修で改善のためのインストラクターを育成するなど、人材育成に力を入れている組織です。

 

会費1000円で、藤本先生の話を聞けるというのもあって参加しましたが、先生の話はスケールが大きく(10兆円単位くらいで産業を見ている)、国と産業、産業と技術の流れを俯瞰するポジションで、論考をされていました。中国の電気自動車や電池産業がこれから伸びたとしても日本の自動車産業が一斉にそれにシフトすることはあり得ない話で、今の電池の技術レベルがいくら上がったとしても限界があり、内燃機関の車やハイブリッド車は残るもので、日本の製造業の優位はまだまだ続く、ということでした。

 

この日はサービス業や医療現場での「よい流れ」がサブテーマになり、藤本先生から事例紹介がされました。「よい流れ」とは、設計情報の製造ライン(サービス業ではサービスの現場:フロントエンド、バックエンド)へのスムースな転写による品質や生産性の確保、というように理解をしています。サービス業の「よい流れ」の例として、関東のスーパーのフロントエンド(店頭)でのベテランパート従業員(奥様方です)たちが、その日の売れ筋商品を自分らで考え(設計)、時間帯ごとに客層に合わせて売り場商品を並べ替え(転写)、異なった客層にマッチする売り場作りを滞りなく行っている(良い流れ)ことを紹介されました。

 

他にも、京都の芸者、舞子さんのサービスの流れ(全体を俯瞰して、お客の階層、特性ごとにスタッフを配置して、場の流れをもりあげる)などの紹介もあり、話の飛躍度がどんどん上がっていました。

 

さて、農業にいつ話が着地するのかは、まだわかりませんが、冒頭で藤本先生は「この数年でどの業界も人手不足が突然深刻になって、労働生産性の向上のことは共通テーマになっている」とズバリ話されました。また、参加者の1/3程度が霞が関の各省の現職官僚の方々で、白書を実際に執筆されている方も何名かおられ、そうした観点で参加をしていることは想像できました。

 

製造業での「よい流れ」を、農業を始め各産業に展開するには、それにたけた人材(設計者)と、実際に確実かつ効率的に実行(転写)できる人材の両方が必要になると思います。人手不足が解消する見込みは今後もまず無いという前提で、農業の生産性向上(主に労働生産性)のポイントを見出して設計すること、それを実施するための教育とスキルアップ、標準化などがますます重要になることを強く感じた研究会でした。

 

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7月5日に研修講師を行いました(大阪府立大学植物工場研究センター 指導者育成研修)

悪天候の中でしたが、大阪府立大学植物工場の指導者育成研修2018「No.1 植物工場を始める前に」の講師を仰せつかり、大勢の方が関西を中心に、また全国から参加をされました。

 

私が担当したのは、「施設・設備の計画」という講義で、これから植物工場を始める際に、何を検討し何を計画していくか、の概要をお話しいたしました。話の流れは、以下のようでした。

 

​  植物工場を始める前に(クリックして拡大)  ​
植物工場を始める前に(クリックして拡大)

 

 

Step1. 前提条件

目指すところ、やりたいことなど(前提条件)を実現するため、施設と設備の計画を立てる必要がある。

具体的な目的、目標を定め、それを生産計画や販売計画、さらに事業計画に落とし込んでいく。

そうした計画を実現するために、施設や設備を準備することになる。

 

Step2.制約条件

前提条件を実現する際には、様々な制約条件がある。それらを事前に調査し、洗い出して、計画の絞り込みを行う。

また、リスク管理として、将来発生しそうなリスク要因の洗い出しも行っておく。

制約要因としては、土地、気象、給排水、周辺環境、アクセス、雇用環境、法令や規制などがある。

 

Step3.要求仕様

絞り込まれた計画を要求仕様として具体化する。

施設や設備のエリア(温室、環境制御、給排水、搬送、選果、貯蔵など)別に項目出しを行う。

発注者として要求する機能や性能を整理し、固まったところでエリア別に見積をとりながら、機能性と経済性のバランスを検討していく。

 

ざっと、こんな流れでの講義でした。

資料は40ページほどで多く、1枚には長い時間をさけませんでしたが、内容が内容だけに広く薄い説明になってしまったと思います。

 

質疑は活発で、異分野からの参入企業の方、コンサルタントの方、実際に植物生産と販売を行われている事業者の方などから質問をいただきました。その主な内容をご紹介します。

 

Q1:大規模施設園芸を始める際に、要求仕様の策定で共通する課題は何か?

>大規模になると設備の寸法や容量について、求めるものと実際のものの差が小さいと思っても、影響が大きく出ることがあります。ケースバイケースですが、実際の事例をよく調べ、適正なものかを確認して仕様を確定する必要があります。

 

Q2:建設業からの参入例の話があったが、異業種から入った場合、野菜の栽培のことなどわからないことが多いがどうしたらよいか?

>わからない分野は、その道の専門家や実践している企業と組む必要があります。あるいは、そうしたところへ事前に研修に行き、技術を身に着ける方法もあります。栽培の他、販売も重要ですので、事前に販路や販売方法の検討も必要になります。

 

Q3:人工光型植物工場を農地に立てる場合、農地転用が必要で煩雑である。一層のことハウスを農地に建てて、その中に植物工場を設置することも考えているがどうだろうか?

>農地法の改正で、栽培施設内に通路などのコンクリート打設が農地転用なしで認められるようになりました。おっしゃるケースが該当するかどうかは分かりませんが、規制緩和は進んでいます。

 

このような質疑がありましたが、関西の参加者の方々は、割とフランクに悩みや問題をお話になられる印象を持ちました。植物工場研究センターの増田センター長、大山先生、下釜さん、大変お世話になりました!

 

 

 

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超高齢化社会と施設園芸

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昨日のNHKスペシャルでは、高齢者が訪問介護や保育園の運転手として働く現場のレポートがありました。車での移動送迎が必要な地方の現場では、人手不足から70歳代のシルバー人材の活用が求められています。一方で、視力や認知力、記憶力などの衰えから限界ぎりぎりまで働くシルバーたち、それを見守る周囲の人たちのリアルな姿もありました。

このような現場の様子は、農業や施設園芸でも同様に見られます。特に収穫などの機械化が進んでいない施設園芸では、作業を行う人材集めに苦しんでいる経営体が多いのが現状です。若いママさんたちのパートタイム雇用とシルバー層雇用の二本立てが普通になっており、さらに外国人技能実習生の活用も見られます。労働力の確保が経営の最優先課題となっている経営体も多いことでしょう。

まずは人集めからですが、教育や戦力化も必須であります。また年齢も経験も多様な働き手が共存する職場で、能力に応じた働き方を個別に考えることも必要になっています。若いパートさんとシルバー層を同列に扱い期待することには無理が生じることも多いと思われます。同じ時間内にこなせる作業量や、作業負荷にも差が生じることは否めません。

 

 

温室内での高所作業


そうしたことで、若者中心の外国人技能実習生への期待も施設園芸では高まっていますが、番組では日本が今後も実習生を集められるかについて疑問を呈していました。労働力として即戦力で外国人を受け入れている台湾の例を示し、現地の言葉を習得していなくとも、とにかく労働力不足を解消するためにベトナムから受け入れている様子がありました。

日本の技能実習生制度では、技術習得が基本であり日本語の習得も必須となっています。そのための習得費用や時間的な負担も受け入れ側に生じています。それは実習生側への負担ともなり、日本での技能実習を希望せず、労働力として受け入れてくれる韓国や台湾、さらにルーマニアなどへのベトナム人出稼ぎ例もありました。

番組では超高齢化社会へ突入する日本が、移民制度や外国人労働力の活用に積極的ではない中で、今後どのように社会を維持していくか、世界が固唾をのんで見守っている、としていました。つまり、このままでは日本は社会制度や産業を維持できないと、世界は見ているということでもあると思います

このことは、地方で雇用労働力不足に常に直面している施設園芸にも、そのまま当てはまるでしょう。最近の重要なテーマである自動化や省力化、AIやIoTとロボットの活用と、シルバー人材や外国人技能実習生の活用は、施設園芸では表裏一体の課題なのであると考えられますハイテク一辺倒では解決できない難問に、我々は立ち向かう必要があります。社会保障、福祉、移民などの社会制度面の改革や変化に、農業や施設園芸にどのように適応させるかが問われています。

一方で、あまり聞かなくなった作業環境の快適化について、作業効率を高め、作業者の健康や安全性を確保するような基本的な取り組みも、労働生産性の向上のためにも改めて着目する必要があるのでは、と私は考えています。

加工・業務用野菜とサプライチェーン


加工・業務用野菜という、やや業界用語的なジャンルがあります。外食や中食など、食の外部化が進む中で、それら の用途を担う野菜のことで、スーパーや直売所で購入した自家消費用野菜に対するジャンルでもあります。この加工・業務用野菜の需要が、2兆円強の国産野菜出荷額の半分を超えて久しいのですが、ここに対応した野菜生産が今求められています。 
 
加工・業務用野菜を扱うところとして、弁当や総菜、サンドイッチ、給食など様々な加工食品を作る食品製造業者があります。また野菜をカットやミックス、パッキングして、これらの業者に納める加工業者も存在します。いずれの業者も大量の野菜を原料として仕入れ、特定の売り先に供給しています。ここでのキーワードは野菜の安定供給であり、定時、定量、定質の3定、さらに定価格が加わった4定があります。 

 

サラダ野菜の加工場

 
一方で、野菜の生産者や出荷組合、農協などは、これらの業者に対し、一定の契約のもとで野菜の出荷、販売を行っていきますが、そこには生産側と需要側の様々なミスマッチが存在しています。生産側からすると、3定や4定を求められても、気象変動や自然災害に対処しての計画通り、契約通りの出荷は大変難しい面があります。 
 
業者側からすると逆であって、安定供給先を本当に確保できるか、通年で切れ目無く品質が一定の野菜が供給されるのか、という不安があります。また、業務用途ということでの大量購入の反面、価格面は抑えられるため、双方の値決めが難しい側面も見られる。 
 
実際にはこうした取引を、契約を介し成立させることはかなり難しく、業者側も様々な種類の野菜が必要となるため、中間業者とよばれる専門業者が両者の間に立って、安定供給や物流、商流の形成に寄与しています。 
 
流通の仲介という卸売機能にとどまらず、中間業者は野菜の1次加工や鮮度保持やバッファーのための貯蔵を担い、また生産者や産地に対し生産計画や実施状況の管理を行い安定供給の支援を行うところもあります。さらに自ら農業法人を設立して、生産業務にも領域を拡大する動きまででています。
 
以上のように、加工・業務野菜においては、生産、物流、貯蔵、加工、製品化までの一連の流れがあり、一般製造業におけるサプライチェーンに対し、フードサプライチェーンとして捉えられるものです。このフードサプライチェーンでは中間業者によるQCDの調整機能が重要であり、ICTによる流通と一体化した生産管理や品質管理、鮮度管理の取り組みも行われています。一見地味な加工・業務用野菜の世界が、実は今の農業の流れの最先端を担っているのかもしれません。 
 
参考文献:加工・業務用野菜をめぐる現状(2013)、農林水産省 
 

AIと農業

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農業はバラツキの産業と言われています。規格化された工業製品に比べ、農産物は一つ一つが異なっており、それをいかに揃えて育てるかに苦労があります。また収穫の後工程として、選果や選別、調整があり、多くの労力や機械を投入し、規格別に分けたり、揃えたりという作業を行います。その結果、スーパーなどの店頭には野菜や果物が、色、形、重さがぴったりとまでは行かないまでも、整然と同じようなものが並んでいます。

 

韓国のスーパー店頭
韓国のスーパー店頭

 

こうした収穫後の後工程には、箱詰めや包装もあり、さらに輸送車による出荷まで冷蔵庫などに保管する工程もあります。バラツキがある収穫物を基準に従って選別し、規格ごとに揃えて包装して適時に出荷することで、商品としての価値が生まれます。収穫物をそのまま出荷しても客先は引き取ってくれません。客先が要求する規格を実現することで価値が生まれ、また規格を提案することで新しい価値が作られる場合もあります。規格から漏れたものも廃棄せず、別の規格で安く販売したり、どうしても売れないものはジュースやジャムなどに加工する場合もあります。

 

前工程に当たる栽培で、きちんとした農産物を作ることが大前提なのですが、売上を生むのはむしろ後工程になります。ここでの歩留まりや作業の優劣によって、商品の付加価値が大きく変わることもあります。本題のAIと農業ですが、AIがこの付加価値の向上に寄与しつつあります。

 

一例として、ミカンやトマトなどの果実の選果機があります。選果作業を機械化する選果機はライン化されており、ラインに載せた果実を計測し、重量、形状、糖度などに分別するものです。いずれもカメラや各種センターでの非破壊計測を用い、果実一つ一つについてソフトウエアでの分析とハードウエアでの選別を行います。この過程で、計測値×果実数の膨大なデータが発生し、PCを搭載した選果機はビッグデータの固まりとなります。例えば1ha規模のトマト温室では、一日当たり1t程度の出荷があり、トマト果実が平均150gとすると1日に6666個の選果が行われます。これは年間で260万個程度の果実数になり、また平均20gのミニトマトではさらに多くの果実数となります。

 

選果機での選果の瞬間

 

カメラやセンサーで計測した値に基づいた選果では、求められる規格に対してある程度の誤差が発生します。誤差によって小さ目の規格に選果された場合はクレームの原因になるかもしれません。大き目の規格に選果されるとロスとなります。ここでAIの出番となるのですが、計測値と選果結果について過去のビッグデータを学習させ、機械側の選果基準の調整を行います。数を重ねるほど学習効果が現れ、選果の誤差も縮小され、より正確な選果が行われることで付加価値の向上が期待されます。こうしたAI利用は、開発段階のものもあれば、すでに現場実装されたものもあります。農業でのばらつきを逆手にとって付加価値を生むようなAI利用は、まだまだ色々な可能性がありそうです。

 

超大規模植物工場の出現

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大規模な人工光型植物工場のニュースが多く聞かれます。最近まで、日産1万株クラスの生産量を持つ植物工場が、大規模の一つの目安でした。これはリーフレタス1株を平均80gで出荷するとして、800kg相当になります。こうした規模の植物工場の運営が黒字化するまでには何年か必要と言われています。これは初期の様々なトラブルを解決しながら、生産と販売がうまくかみ合いフル稼働で利益を生み出すまで、それなりの時間と試行錯誤が必要であるためでしょう。

 

この規模の植物工場で働く人は、社員数名とパート従業員が15〜20名程度で、社員は工場長、副工場長、総務などの役割で営業兼務というのが一般的でしょう。実際に植物工場を運営するのは設備や機械類ではなく、レタス類などの種をまき、苗を育て、定植や植え替え、収穫をして、選別調整後に出荷を行う人間です。さらに清掃や消毒、営業やクレーム対応、パートさんの募集や面接、毎日のシフト作りや調整、と植物工場に限らない人間の業務も色々とあります。

 

 

ところが最近は日産2万〜4万株、さらに7万株といった生産能力を持つ工場建設のニュースが聞かれるようになりました。いずれも大企業と、実際に植物工場の開発や運営に携わっている企業との提携によるものです。技術導入と資本力により市場をいち早く獲得して優位性を確立する戦略と見られます。日産1万株でも十分に大規模で立ち上げる苦労も大きいと思うのですが、最早そうではない、スケールメリットが得られる更なる大規模化(以下、超大規模化)がこの世界にも訪れようとしてます。果たしてこれらの超大規模化は成功するのでしょうか?

 

ニュースの情報によれば、これら超大規模植物工場では、自動化と省力化を進めようとしています。すでに既存のいくつかの植物工場では、移植機械で苗を定植パネルに挿しこむ工程を自動化しています。ただし工程の一部を機械化しているだけで、工場の製造ラインのように様々な機械やロボットが整然と動き回るような自動化はされていません。機械作業の前後の工程を人間が補助するような半自動化というべきかもしれません。

 

自動化のレベルを上げると、機械やロボットの性能向上、設備のメンテナンス、設備投資などが新たに負担となります。また一部の工程だけ自動化しても全体の効率が上がるものでもありません。残った手作業の工程に対し多くの従業員が参加して一斉に仕事を進める必要があります。超大規模化により生じる新たな問題も数多くあることが予想されます。

 

超大規模植物工場の事業者は、すでにこのようなことは織り込んで事業計画や生産計画を立てていることでしょう。それを計画通り実現できるかどうかは、機械設備の性能に依る部分と、現場従業員の管理能力や作業能力、さらにトラブルへの対応力など、人間的要素も多いはずです。超大規模植物工場がどのような成功をもたらすか、大変興味が湧く話題です。

季節の前進と農業生産

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今年の桜の開花は例年より早く、春の訪れも前倒しでした。連休中も夏日が続きました。また連休後も梅雨のような天候が続いて、季節が前進化している様子です。

 

東京の今年4月の平均気温は17.0℃でした。1981年から2010年までの4月の平均気温が13.9℃ですから、+3.1℃も上昇しています(気象庁のデータより)。また今年3月の平均気温も今年は11.5℃で、1981年から2010年までの8.7℃に対して+2.8℃の上昇でした。

 

これだけの気温の上昇があると植物の生育も前倒しとなり、価格にも影響がでています。一例としてレタスの価格があります。日本農業新聞(5月9日付け)では、5月上旬の相場価格は過去5年平均の2割安であり、高冷地の長野産が前進化して茨城産と重なり出回りが潤沢化したためとしています。今年のレタスは3月後半から潤沢に出荷がされ安値続きで、5月には長野産も重なり荷動きも鈍くなっているようです。

 

レタスの価格は昨年の夏からの曇天や長雨の影響で年明けまで高騰していましたが、それがウソのような状況になっています。それだけ天候の変動が激しくなっており、その影響を農業が直接受けてしまう構図が明確になっています。この先は平地のレタスが早く切りあがって、価格は持ち直すのかもしれませんが、これも天候次第でしょう。

 

沖縄県南城市のレタス畑

 

以上は天候とレタス生産と価格についてのスポット的な見方ですが、日本の農業生産をマクロ的に見れば、産地の北上という傾向が浮かび上がります。例えば柑橘類の栽培は温暖な静岡県や愛知県、和歌山県、愛媛県などが産地でしたが、現在は関東地方や南東北まで広がっています。これは気温上昇により栽培地域が北へ拡大している例です。

 

露地栽培(一部ハウス栽培)の柑橘類に対し、施設園芸による果菜類でも同様な傾向が見られます。日射量が豊富な東北太平洋岸で、トマトを中心としたハウス栽培が増加しています。施設園芸が盛んな地域は、九州、四国、東海、関東地方に分布していましたが、ここでも栽培地域が北へと拡大しています。

 

今後もこうした傾向は続くと考えられますが、北上に伴って日照時間の制約もあるため、作物による北限も生じるでしょう。新たな農業生産を考える場合には、まず作物に適した気象条件と適地を検討する必要があると思います。労働力や物流網の確保といった重要な地域条件もありますが、自然相手の農業では気象条件の把握と評価がより重要になるでしょう。年々厳しくなる猛暑や寒波、極端に短くなった春と秋、頻発する豪雨や台風の被害、こうした悪条件を回避しながら、その作物にあった地域の選定を考える必要があるでしょう。

種子法廃止と農業の未来

JUGEMテーマ:農業

種子法廃止と日本農業の未来 
 
日本には主要農作物種子法(種子法)という法律があり、コメ、ムギ、ダイズの主要穀物について、国や県による主導で、優良な品種を育成し、奨励品種としてきました。またこれらの穀物の種子を都道府県単位で維持し供給してきました。コメであれば、種籾(たねもみ)と呼ばれる種子です。 
 
この種子法が、29年度の国会での種子法廃止法案の成立によって廃止されました。農業関係者や一部のマスコミでは、この廃止が国産穀物の育種や種子供給に悪影響を及ぼすことや、国や都道府県が持つ遺伝資源が外資に渡って独占されることへの危惧が叫ばれていました。しかし、種子法が今まで果たしてきた役割は、一般にはほとんど知られていないと思います。 
 
種子法は根拠法であり、種子法にもとづいて都道府県は、穀物の育種や採種、原種や原々種と呼ばれるオリジナルの種子の保存などの事業を行っています。また、実際にコメの種籾やダイズの種子を地域で育成、採種、販売することには、多くのプロセスがかかわっています。 

 

車窓からの風景


例えば、種取りをする作物の栽培中には、何度か圃場審査があって、生育状態を細かな基準に従って計測を行い、 合否が下されます。また収穫後には、種子は等級や品質、発芽率なども厳しい基準で選別が行われ、DNA識別までされることもあります。一方で、種子作物の生産者は、病害虫防除や異品種の混入防止、細密な収穫後の調整など、通 常より多くの神経を使って栽培をしなければなりません。 
 
この審査や検査は、都道府県の職員や、委嘱された専門家が行っていますが、ここでの人件費や各種経費は都道府県の負担によるものです。また直接、現場での審査や検査に携わらない職員(行政職、技術職)の人件費や、育種、技術開発に関する費用も多大なものがあります。 
 
都道府県としては、地域の気象条件や地理的条件などに適した品種を育成、維持、配布し、地域農業や関連産業 を振興するという目的があって、こうした事業を推進してきましたが、その背景というか大元の根拠法として種子法 が長年存在していたわけです。種子法のおかげで、コメの主産地では独自の競争力のある高品質の品種が 育成、普及しており、最近の「きらきらネーム」のコメ品種の興隆も、その成果とも言えます。 
 
国内では自家採種がほとんどであったものが、1952 年制定の種子法によって、都道府県による穀物の種子配布 事業が推進され、農家も種取りから解放されて、栽培に集中できるようになったともいえるのです。 
 
以上のような種子法の役割は、今回の種子廃止法案によって終わってしまいました。もちろん根拠法が無くなった らといって、今まで実施されていた様々な事業や取組がすぐに無くなるわけではありません。すでに独自の条例で対策を進めている自治体も現れています。しかし行政の世界では、 毎年予算を獲得して事業を継続してきたため、根拠法の廃止の影響はじわじわと出てくる可能性も考えられます。 なぜこのような事態となったか、また主要穀物の育種や種子の流通がこの先どうなっていくかは、またの機会に触れてみたいと思います。 
 
参考文献:水稲の採種栽培 第3版(2016)、千葉県・千葉県農林水産技術会議