女峰いちごと電力会社

1.電力会社と農業、施設園芸

 

四国電力の昨日のリリースによると、香川県のイチゴ生産者、千疋屋などと共同出資で、新しく農業法人を作り、60aのハウスで高設栽培によるイチゴ生産を、来年出荷を目指し行うとのことです。電力各社では、本体による農業参入や、関連の研究所での農業技術開発の取り組みが盛んで、最近では東京電力が横浜火力発電所内で、同様にイチゴの施設栽培を行っています。もともと農業での電力利用を振興する目的で、電力各社での研究開発が行われており、最近では自ら農業に参入するケースもある、ということです。

 

四国電力も関連会社の四国総合研究所などで、バイオ関連技術、ハウスでの計測制御技術、病害虫防除技術等の開発を長年行っており、独自の製品やサービスも提供しています。私も1990年代から計測制御に関して一緒に仕事をした経験があります。四国の主要な産業のひとつに農業があり、地元との関係の中で農業関連の研究開発も進められた経緯もあったことと思われます。今回の四国電力のリリースでは出資と経営全般に係る支援・事業多角化支援の役割が記載されていますが、自社の施設園芸や植物工場についての関連技術(計測機器、病害防除用照明)の提供もされています。

 

2.香川県のイチゴ生産と女峰

 

香川県は瀬戸内海の気候を生かした農業県で、イチゴ栽培も盛んであり、90ha程度の栽培面積があるようです。特徴としてベンチ式の高設式の養液栽培が全国的にも早くから取り入れられ、普及も進んでいることがあります。同様に環境制御技術のひとつである、CO2施用の普及も進んでいます。イチゴ栽培に対する設備投資が進んだ産地という特徴があります。

 

また香川県が高設式養液栽培に適した品種として育成した「さぬきひめ」という品種が多く栽培されており、現在では全体の2/3程度で栽培されています。残りの1/3の多くが、1980年代に栃木県で品種登録された「女峰」が今でも栽培されていることが、もう一つの特徴と言えます。本家の栃木県では、その後、「とちおとめ」が育成され女峰に置き換わり、栃木県以外の多くの地域においても「とちおとめ」は栽培されています。しかし香川県では女峰が今でも「女峰」栽培が生き残っています。全国的に見ても女峰の産地は香川県になります。

 

今回の四国電力の農業参入でも、共同出資者の生産者は女峰を栽培しており、千疋屋などに向け、業務用として女峰を出荷する模様です。女峰は大粒のきれいな円錐形をしており、いかにもイチゴらしい形としています。ショートケーキ用のイチゴは女峰が占めていた時代もありました。味は作り方によって変わるかと思いますが、一般的には甘さと酸味のバランスがすぐれていると言われています。ほどほどに甘く、昔のイチゴの味を知る世代にはなつかしい味なのかもしれません。

 

 

3.女峰と最新の栽培技術の組み合わせ

 

今回の農業法人設立によって、60aのイチゴ栽培施設と育苗施設が建設されますが、高設式の養液栽培装置の他、様々な環境制御装置、照明装置などが組み込まれていくはずです。四国電力としても自社の技術は惜しみなく投入するでしょう。

 

今回の取り組みで注目しているのは、「女峰」の収量性です。品質的には千疋屋を満足させるものがある前提として、どこまで収量を高められるかがポイントと思われます。「女峰」のような、ひと昔前の品種について、現在のイチゴ栽培に多く取り入れられているCO2施用や、湿度管理、細霧冷房、さらにLEDによる電照や補光といった植物工場的な技術がどのような成果を生み出せるかです。女峰栽培の全盛期には、こうした植物工場的な技術の導入はありませんでしたが、出資者の生産者の方々はこうした取組みをされていると思います。また60aという国内では比較的大規模なイチゴ栽培施設に最新の設備と技術を投入し、さらにレベルアップを目指していると想像します。香川県内の平均的なイチゴの収量は、10a当たり3トン程度です。高設式の養液栽培では一般的に5~6トン程度が収量目標であり、大粒の女峰でどこまで収量を伸ばせるか、注目をしたいと思います。

 

 

参考:四国電力プレスリリース「イチゴ“女峰”の生産事業を行う新会社「あぐりぼん株式会社」の設立について〜生産者・流通事業者・小売事業者と地域電力が共同で取り組む、日本初の事業モデル〜」

 

 

ホームページ「農業・施設園芸・植物工場の未来」もご覧ください。

 

JUGEMテーマ:農業

外国人技能実習生と施設園芸

農業分野の人手不足は今に始まったことではありませんが、ここに来て農業のボトルネックになっていると思います。家族経営から雇用型の経営に移行する中では、社員やパートの募集がままならないということは、良く耳にします。農村部では、そもそも労働人口が少ない、他産業の時給や労働条件の良い職場に人が流れる、最低賃金程度の時給しか払えない、農業経営体同士での奪い合いがある、など状況は様々です。国内の労働人口がこの先も増える見込みがないなかで、賃金レベルが元々高くない農業は、常に人手不足の環境にあると言えます。

 

1.外国人技能実習生の活用実態

 

そうしたところで、農業での外国人技能実習生の活用が年々進んでいます。長野県の高原レタス栽培や茨城県のハクサイ栽培のように、露地での重労働な農作業環境では、早くから実習生制度を利用しており、すでに外国人なしでは産地が成り立たない状況と言われています。施設園芸や植物工場でも、大規模化するほど所要する人手が集まりにくく、この制度の利用が増えています。

 

技能実習生の施設園芸における実態は、あまり表には出てきませんが、農場の近隣に住み、フルタイムで実習を行う形が多いと思われます。日本人のパートやシルバー人材では、フルタイム勤務にはなかなかならないので、これだけでも貴重な人材と言えます。彼らに支払われる報酬は決して高いレベルではありませんが、能力面では特に若い実習生は手際が良く、特別な内容でなければ日本人よりも多くのことができるでしょう。

 

2.外国人技能実習生と、様々な人材の確保

 

ここに来て政府は外国人の技能実習生の滞在期間の延長や、特区による外国人労働者の受け入れなど、規制緩和的な施策に踏み込んでいます。技能実習生制度は、あくまで日本で身に着けた技能を母国に戻り役立てることが趣旨でしょうが、より国内の労働力不足を補うことに主眼が移っているのが実態と思います。また外国人技能実習生を導入すると、同レベルの人材を日本国内で確保することも難しい状況です。いつかは母国に帰国する技能実習生について、継続的に確保したいという要望が、現場から出て来てもおかしくありません。さらに、特区により労働力としての位置付けに踏み込んでいる訳です。

 

こうした議論は、移民の是非へ飛躍することもあると思いますが、いつまでも技能実習生を確保できるか、より条件の良い国へ外国人が流れないか、といった不確定要素もあります。自動化が水田作や畑作に比べ遅れている施設園芸、植物工場分野では、手作業を行う労働力確保がキーとなっています。外国人技能実習生の活用は魅力的ではありますが、作業能力は劣っても時間に余裕のある高齢者、短時間で効率的に働きたい主婦層、よりしっかりと意欲的に働きたい人たち、働く場の確保が難しい障がい者たちなど、人材の獲得について、様々な経路や手段が必要になるかもしれません。

 

韓国のパプリカ栽培と外国人労働者

 

3.海外の施設園芸での外国人労働力利用

 

オランダ、スペイン、韓国など施設園芸の盛んな諸国では、規模拡大も進んでおり、外国人労働力も欠かせない状況です。オランダは東欧から、スペインは北アフリカから、韓国は東南アジアから労働力を確保しています。ハンガリーなどの東欧は施設園芸自体に取り組むようになって、オランダへの労働力供給に変化が生じているようです。スペインでは厳しい労働環境に対し外国人によるデモが起きているようです。韓国ではより条件のよい農場に外国人が移ってしまうこともあるようです。各国の農場経営者は苦労しながらも外国人労働力に頼らなければならない状況は変わらないと思います。日本は、世界に例をみない高齢化や、専業主婦やパートタイム層の多さなど、他国とは異なる環境にありますが、施設園芸や植物工場での雇用についても独自の道をたどる必要がありそうです。

 

 

ホームページ「農業・施設園芸・植物工場の未来」もご覧ください。

 

 

JUGEMテーマ:農業

AIと農業(その4)データの見える化とAI

1.IoT、クラウド利用と見える化の進展


IoTやクラウド利用は農業分野で、ここ数年のトピックとなっています。これら技術の発展とコストの低下があり、また農業側にも気象条件や植物の成育を制御して、収量や品質を上げるため、基礎となるデータの取得が必要とされてることがあります。こうしたIT技術がトピック化する以前から、施設園芸では特に温湿度や日射量の計測は盛んに行われてきました。また、植物の成育状況を定期的に計測することも最近の特徴です。環境と植物の両面から、データにもとづく分析や判断を行う流れが、現場では主流となりつつあります。ハードウエアとソフトウエアの両面から、施設園芸での見える化の流れが強まってきたと言えます。

 

 


 

施設園芸の現場に各種の計測機器やクラウド機器がごく普通に見られるようになっており、生産者は自分のスマートフォンで環境データをリアルタイムで容易に参照できるようになりました。当初はモニター機能だけで、出先から天候の変化を見ながら、電話で現場に機器の設定の指示をする生産者もいましたが、現在ではモニターだけでなく機器の操作や設定値の変更も可能なものも多く提供されています。
 

 

2.データの増大と集計機能の向上


施設園芸では、その場にいずとも、ある程度の管理が可能となり、現場に張り付きになる必要は薄まってきました。その一方で、データを見て、その意味合いを判断し、次の操作や設定値の調整を行うことについては、生産者が自ら行っています。これは多くの場面で従来から変化していません。一方でIoTやクラウドの利用により、データはあっという間にたまります。たまった過去のデータを有効に利用することが次に求められますが、そこに手間と時間を掛けない工夫が必要でしょう。
 

過去のデータについて、期間を指定し集計やグラフ化する機能は、最近の製品の多くに取り入れられています。現在と過去の比較など簡単にできる製品も多く、過去の気象条件や環境制御の結果と現状を比べ、調整に生かすことができると思います。こうした機能も見える化の一部と言えます。競合する製品が多く発売されるようになり、ハードウエア上の差が出にくくなってくると、こうしたソフトウエアの機能や、サービスの内容で差別化がはかられるようになると思われます。ユーザーが膨大なデータを見やすく簡単に検索、集計、グラフ化することは、これからも容易になると思われます。

 

3.データの見える化、集計の先にあるもの

 

先に述べたように、生産者はデータを見て、その意味合いを判断し、次の操作や設定値の調整することが、やるべきことです。そうすることで、データを介して収量や品質の向上に結び付けられるからです。一方で、集計やグラフ化されたデータの意味合いを判断するには、データの基準値や適正な範囲が必要になります。これらから外れている場合には調整が必要となり、機器動作の調整や設定値の修正を行うことになります。集計>判断>調整のプロセスは、日単位、週単位など、いくつかのサイクルがあり、データをまとめ、植物の状態や収穫状況など踏まえ、調整を行う形が一般的であると思います。

 

こうした判断や調整のプロセスにも、定型的な部分と、異常値や急な環境の変動に対する非定型的な部分など、様々なものがあると考えられます。定型的なプロセスについては、おそらくAIの利用、機械学習の活用によって、自動化も進んでくると思われます。また非定型的なプロセスについても、細かく場合分けをしていけば、定型化や自動化もある程度は可能かもしれません。

 

 

 

 

4.AIと生産者

 

機械化、自動化、AI利用の先にあるものは何か?という議論は、最近よく聞かれます。AIの進展で不要となる職業、のような記事も見かけられます。その一方で、AIのような新しい技術が普及すると、それにまつわる新しい技術や職種も必要とされる、というのが歴史の流れである、という主張もあります。AIは、過去のデータから学習し、それに沿った判断を行うことは得意でしょうが、正しい基準値や適正範囲を決めることは不得意と思われます。これらは人間が最初に決めなければなりません。作物の収量や品質を高めるような基準値や適正範囲そのものを、AIが自動的に決め、季節や気象条件などにより微調整することも、やがては可能になるかもしれませんが、現状では大きな隔たりがあるでしょう。

 

逆に言えば、目標とする基準値や適正範囲を諸条件から決められる生産者は、AIも使いこなし、省力的に管理作業を進められ、経営規模も増やすことが可能になると考えられます。それが出来ないとなると、機械に使われてしまい、結果も出せない、ということに成りかねないでしょう。そうならないため、どうのような注意や日常の取組みが必要になるか、考えていく必要があります。

 

 

ホームページ「農業・施設園芸・植物工場の未来」もご覧ください。


 

 

JUGEMテーマ:農業

AIと農業(その3)施設園芸・植物工場展 2018 GPECのAI展示

「施設園芸 植物工場展 2018 GPEC」が先週、東京ビッグサイトで開催されました。週明けの業界紙には展示商品の特集が出始めています。AI特集記事には至っていませんが、会場では初めて見るAI関連の展示もいくつかありました。その中から2つ、ご紹介します。

 

1.大葉選別・調整ロボット

 

大葉(シソの葉)は、青果売り場では大きさや形が揃ったものを輪ゴムで止めパックされて売られています。シソ自体は様々な大きさの葉がついている植物で、収穫後の調整作業は産地の家庭の内職と言われています(産地に住むサラリーマンの方が、お母さんが毎晩やっていたと言っておりましたが、本当に大変な作業で、お勧めできないそうです)。1枚の大葉を選別して並べる場合の標準作業時間は5秒程度のようです。ロボットはAIを用いた画像処理と、吸引式のアームなどを用い、現時点では同程度の時間で並べているとのことです。

 

大きさを揃え、たばねられた商品の大葉

 

展示ブースでは、デスク脇に置くキャビネット程度の大きさのボックスがあり、大葉を置いた箇所で画像認識がされ、吸引アームでの選別作業のデモが行われていました。GPEC当日の日本農業新聞(7月11日付け総合営農面)にも詳しく記事が掲載されており、それによると2000枚以上の大葉の画像をAIに学習させて、ほぼ100%の精度で規格(S,M,L)や裏表、向き、キズなどの選別が可能とのことです。大葉の形状は周囲に細かな切れ込みがあり、複雑なものですが、おそらく収穫の際には奇形や変形のものは排除されていると思われます。その上での学習であれば、2000枚のオーダーで選別精度100%になったと想像できます。

 

別のマスコミ記事を見ると、開発者の大学教授は、選別時間の5秒を3秒にし、予定価格500万円で来春の発売をめざしているとのことです。大葉農家では1日に5~8万枚の選別をしているが、このロボットで1日に1万5千枚の選別を目標するそうで、これは毎時1200枚の処理能力として、15時間程度の稼働時間になります。またこれはパートさん1名が1枚5秒で選別し休みなく仕事をして21時間程度はかかる仕事量(3~4人分)です。

 

500万円が高いか、安いかは大葉農家の意見も聞いてみる必要がありますが、大葉産地にある大学と機械メーカーなどの共同開発品であり、そのあたりのマーケティングもきちんとやっていると思われます。しかし単純な導入コストだけの判断ではなく、人がいない、集まらないという前提で農業を継続することを考えざるを得ない時代ですので、こうした自動化・省力化は望まれる技術になるはずです。

 

 

2.キャベツ自動収穫ロボット

 

無人トラクターのアタッチメントとして、画像処理による機械収穫を行うもので、こちらも大学と農業機械メーカー等の大がかりな共同研究成果です(パネル展示とセミナー発表のみ)。こちらは不整地のキャベツ畑をトラクターが無人走行しながら、キャベツを見つけて株元をカットし収穫するという、難易度が高そうな作業の自動化です。

 

無人トラクターの研究は、乗用車等の自動走行のような道路交通法の制約や人命など安全面の制約が少ないため、ここ数年で一挙に進んでいる分野です。この研究は知的ビークルという分野で、畑で生育したキャベツ画像をディープラーニングにより位置情報や形状を認識させ、機械動作の微調整を行いながら自動走行と収穫作業を両立させる形のようです。畑とキャベツの3次元の位置や形状の情報は千差万別でしょうし、ディープラーニングの適用分野なのかもしれません。大葉と異なり、そうした畑でのリアルなサンプルを大量に学習させるには工夫が必要と思われます(パネル展示だけでは不明でした)。

 

 

他にも、いくつかAIに関係する展示が見られましたが、実用に近そうで、内容も比較的よくわかるものをご紹介いたしました。

 

ホームページ「農業・施設園芸・植物工場の未来」もご覧ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

JUGEMテーマ:農業

 

 

AIと農業(その2)生産場面で進むAI利用

JUGEMテーマ:農業

 

前回(だいぶ前ですが)、農業はバラツキの産業で、そこでの選別のプロセスにAIは有効に使えるかもしれない、という意見を述べました。

 

その後に、ある会合で農業とAIについてのお話をする機会があり、このような図で説明をいたしました。

 

施設園芸・植物工場での生産~販売工程とAI利用(クリックで拡大)

 

施設園芸での、いくつかの実用化例や開発事例をピックアップして並べたところ、育苗から出荷販売の各プロセスでAI利用はそれなりに進んでいることがわかりました。新たに画像計測を行って得られる画像データを利用してAIによる学習を行うもの、通常のプロセスから発生するデータを利用してAIによる学習を行うものに大別されます。以下にそれらの概要を説明します。

 

 

1.画像計測によるデータの利用

 

【育苗】

トマトやキュウリの接ぎ木育苗で、台木と穂木の成育程度が適合していないと、接ぎ木後の活着(接ぎ木面が癒合し、その後の成育がスムーズに行くこと)に影響がでやすい。生産現場では従業員の目視による選別を行っているが、労力負担や生産量の律速要因となる問題がある。AIを用い大量の苗画像データより苗の形状や成長の程度を学習させる。学習を繰り返し、選別の精度を高め、接ぎ木の活着率向上に活かす(苗生産業での開発事例)。

 

【病害虫診断】

葉が大きく、病害の診断が比較的容易なキュウリについて、病害発生状況を撮影した画像と病害名をAIに学習させ、診断システムを開発した。3ケタ程度のサンプルで学習をさせた後、無病の葉と10数種類の病害の葉について実際に診断をさせたところ、精度は80%であった。(大学と研究機関による開発事例)。

 

【収量予測】

トマトの果実を移動式の装置に取り付けたカメラで撮影し、果実数や着色具合が撮影された画像と、別途計測したハウス環境データなどから収穫に適した果実数や収穫日などをAIを用い繰り返し学習し、収穫日や収量の予測を行う(ICT企業による開発事例)。

 

 

2.プロセスから発生するデータの利用

 

【水分制御、培養液制御】

養液土耕装置において、環境データにもとづいた潅水や肥料配合の指令を行うが、自分の意図に沿わない動作をした場合、農家が装置メーカーに連絡しAIの調整を適時行っている。AIは過去の制御やモニター値からの学習により、制御の方法や設定内容を判別する機能がある。あらかじめ定められた範囲での制御を行うが、細かな設定はAIによる判断が生かされている(ICT企業による実用化例)。

 

 

実用化例と開発事例が混在していますが、学習精度が上がれば実用化レベルに近づくものも今後でてくるものと思います。画像計測データによる学習はAIの得意分野です。またプロセスデータから自動学習させる機能については、農家の指示による調整で段々と精度が上がってくるもので、調整がうまくされれば農家には手放せないシステムになるのかもしれません。

 

 

以上は、生産工程におけるAI利用例ですが、そのあとの販売工程においては、農業分野での利用例にはまだ遭遇しておりません。しかし顧客の販売履歴を学習させ顧客の好みを抽出してターゲットを明確にしたDM発信をするなど、小売業でのAI利用はかなり実用化がされています。そうした例は農業へも販売データの蓄積により応用がされる可能性もあると思われます。

 

以上の事例はここ1年ほどに明らかになってきたものです。農業や施設園芸での生産から販売までの多くのプロセスにAIが導入される日はそう遠くないものと考えております。

 

 

ホームページ「農業・施設園芸・植物工場の未来」もご覧ください。

 

 

 

 

施設園芸 植物工場展 2018 GPECの見方

「施設園芸 植物工場展 2018 GPEC」が今週、東京ビッグサイトで開催されました。2年に一度のイベントであり、2日間で4万人以上の来場がありました。各社の出展ブースでは、商品展示というよりも、ひとつのパッケージとして商品の利用場面やICT サービスまで広範な提案を行うものが多く見られました。

 

施設園芸・工場展 GPEC(クリックして拡大)

 

1.商品やサービスのパッケージ化とサプライチェーン

 

商品やサービスをパッケージ化するためには何らかの軸が必要になります。例えばトマトを栽培し販売するという軸で考える場合には、播種育苗から収穫、選果出荷までの一連の流れがあります。製造業の世界ではサプライチェーンマネジメントという観点で、物の流れや情報の流れを全体的に整理し最適化する考えが主流です。農業や施設園芸でのサプライチェーンマネジメントを一貫してできる事業者はそう多くはないと思われます。また今回の展示会では、パッケージ化といっても生産段階を対象としたものがほとんどで、出口を見据えた提案は生産販売や加工流通にかかわっている一部の展示ブースであっただけでした。 この点では、まだまだ発展や改良の余地はあると思われます。

 

2.積み上げ型経営からのサプライチェーンマネジメントへの転換

 

今までの農業経営や施設園芸経営では積み上げ型のものが主流でした。これは規模が小さいため、ひたすら作り、その分の出荷をすれば経営として成り立っていたためだと思われます。

しかし経営規模が大きくなると、作ったものをどのように販売するか、余さず売り切るか、またそこから利益を確保して次の投資に生かすことまでも考える必要がでてきます。

従来の農業経営者の他、農業資材の提供者、技術情報の提供や指導を行う公的機関や研究機関なども、同様に積み上げ型の思考であったことが考えられます。

今後は、規模拡大の流れから、そうした思考が通用しなくなることは明らかです。販売の出口から逆算して物事を組み立て、考える必要が出てきます。そして利益重視型の経営、また利益を確保するための生産の仕組みと施設の設計、こうした考え方がどうしても必要になってくると思います。そしてそれらをまとめあげるのが、サプライチェーンマネジメントの考えになるでしょう。

 

3.展示会のあり方と今後の課題

 

今回の展示会では 、様々な新商品や新しいサービスの紹介がありました。また開発途上であってもユーザー側の反応を確かめるような展示も多くみられました。GPECのような大規模な展示会にはメーカーやディーラー、農業関係機関などの業界関係者の方々も多数参加をされます。こうした方にとっては情報収集や取引の絶好の機会であり、展示会の意義も大きいものがあると思います。

しかし生産する側にとって新しいものがすべてではありません。出展ブースには数は少ないので すが農産物を生産販売するユーザー側の方々もおられ、立ち会った限りでも出展者との交流(売り込み)も多くみられました特にパッケージとしての提案は、そこそこの導入費用がかかるため、費用対効果や投資回収についてユーザー側は値踏みをしています。ユーザー側はなるべく簡素化し導入費用を抑えようとしますし、出展者は付加価値を乗せ販売をしようとしますが、最終的な導入の判断はユーザー側が利益を確保できるかどうかになるはずです。ここでもサプライチェーンマネジメントの観点で見る必要があるでしょう。

こうした直接のやりとりが見られるのことも、大規模な展示会の存在意義のひとつではないかと思います。2年に1度の展示会であり、ユーザーと出展者が良い意味での探り合いを深め、業界の発展に結びつけることが重要ではないかと考えます。

 

ホームページ「農業・施設園芸・植物工場の未来」もご覧ください。

 

 

ものづくり改善ネットワークと農業、施設園芸

JUGEMテーマ:農業

 

東京大学ものづくり経営研究センターセンター長の藤本隆宏先生が理事長をつとめる「(一社)ものづくり改善ネットワーク」が、農業分野も含めた勉強会を始めたので、さっそく参加をしてまいりました。

 

開かれたものづくり研究会」として開催され、農業をはじめ、サービス業、医療、観光などに、製造業で培われた「ものづくりの良い流れ作り」を展開していこうと、トライアルで始められたものです。このネットワークには、トヨタ系を始め、製造業の現場の改善のプロフェッショナルが集まり、さらに長期研修で改善のためのインストラクターを育成するなど、人材育成に力を入れている組織です。

 

会費1000円で、藤本先生の話を聞けるというのもあって参加しましたが、先生の話はスケールが大きく(10兆円単位くらいで産業を見ている)、国と産業、産業と技術の流れを俯瞰するポジションで、論考をされていました。中国の電気自動車や電池産業がこれから伸びたとしても日本の自動車産業が一斉にそれにシフトすることはあり得ない話で、今の電池の技術レベルがいくら上がったとしても限界があり、内燃機関の車やハイブリッド車は残るもので、日本の製造業の優位はまだまだ続く、ということでした。

 

この日はサービス業や医療現場での「よい流れ」がサブテーマになり、藤本先生から事例紹介がされました。「よい流れ」とは、設計情報の製造ライン(サービス業ではサービスの現場:フロントエンド、バックエンド)へのスムースな転写による品質や生産性の確保、というように理解をしています。サービス業の「よい流れ」の例として、関東のスーパーのフロントエンド(店頭)でのベテランパート従業員(奥様方です)たちが、その日の売れ筋商品を自分らで考え(設計)、時間帯ごとに客層に合わせて売り場商品を並べ替え(転写)、異なった客層にマッチする売り場作りを滞りなく行っている(良い流れ)ことを紹介されました。

 

他にも、京都の芸者、舞子さんのサービスの流れ(全体を俯瞰して、お客の階層、特性ごとにスタッフを配置して、場の流れをもりあげる)などの紹介もあり、話の飛躍度がどんどん上がっていました。

 

さて、農業にいつ話が着地するのかは、まだわかりませんが、冒頭で藤本先生は「この数年でどの業界も人手不足が突然深刻になって、労働生産性の向上のことは共通テーマになっている」とズバリ話されました。また、参加者の1/3程度が霞が関の各省の現職官僚の方々で、白書を実際に執筆されている方も何名かおられ、そうした観点で参加をしていることは想像できました。

 

製造業での「よい流れ」を、農業を始め各産業に展開するには、それにたけた人材(設計者)と、実際に確実かつ効率的に実行(転写)できる人材の両方が必要になると思います。人手不足が解消する見込みは今後もまず無いという前提で、農業の生産性向上(主に労働生産性)のポイントを見出して設計すること、それを実施するための教育とスキルアップ、標準化などがますます重要になることを強く感じた研究会でした。

 

ホームページ「農業・施設園芸・植物工場の未来」もご覧ください。

7月5日に研修講師を行いました(大阪府立大学植物工場研究センター 指導者育成研修)

悪天候の中でしたが、大阪府立大学植物工場の指導者育成研修2018「No.1 植物工場を始める前に」の講師を仰せつかり、大勢の方が関西を中心に、また全国から参加をされました。

 

私が担当したのは、「施設・設備の計画」という講義で、これから植物工場を始める際に、何を検討し何を計画していくか、の概要をお話しいたしました。話の流れは、以下のようでした。

 

​  植物工場を始める前に(クリックして拡大)  ​
植物工場を始める前に(クリックして拡大)

 

 

Step1. 前提条件

目指すところ、やりたいことなど(前提条件)を実現するため、施設と設備の計画を立てる必要がある。

具体的な目的、目標を定め、それを生産計画や販売計画、さらに事業計画に落とし込んでいく。

そうした計画を実現するために、施設や設備を準備することになる。

 

Step2.制約条件

前提条件を実現する際には、様々な制約条件がある。それらを事前に調査し、洗い出して、計画の絞り込みを行う。

また、リスク管理として、将来発生しそうなリスク要因の洗い出しも行っておく。

制約要因としては、土地、気象、給排水、周辺環境、アクセス、雇用環境、法令や規制などがある。

 

Step3.要求仕様

絞り込まれた計画を要求仕様として具体化する。

施設や設備のエリア(温室、環境制御、給排水、搬送、選果、貯蔵など)別に項目出しを行う。

発注者として要求する機能や性能を整理し、固まったところでエリア別に見積をとりながら、機能性と経済性のバランスを検討していく。

 

ざっと、こんな流れでの講義でした。

資料は40ページほどで多く、1枚には長い時間をさけませんでしたが、内容が内容だけに広く薄い説明になってしまったと思います。

 

質疑は活発で、異分野からの参入企業の方、コンサルタントの方、実際に植物生産と販売を行われている事業者の方などから質問をいただきました。その主な内容をご紹介します。

 

Q1:大規模施設園芸を始める際に、要求仕様の策定で共通する課題は何か?

>大規模になると設備の寸法や容量について、求めるものと実際のものの差が小さいと思っても、影響が大きく出ることがあります。ケースバイケースですが、実際の事例をよく調べ、適正なものかを確認して仕様を確定する必要があります。

 

Q2:建設業からの参入例の話があったが、異業種から入った場合、野菜の栽培のことなどわからないことが多いがどうしたらよいか?

>わからない分野は、その道の専門家や実践している企業と組む必要があります。あるいは、そうしたところへ事前に研修に行き、技術を身に着ける方法もあります。栽培の他、販売も重要ですので、事前に販路や販売方法の検討も必要になります。

 

Q3:人工光型植物工場を農地に立てる場合、農地転用が必要で煩雑である。一層のことハウスを農地に建てて、その中に植物工場を設置することも考えているがどうだろうか?

>農地法の改正で、栽培施設内に通路などのコンクリート打設が農地転用なしで認められるようになりました。おっしゃるケースが該当するかどうかは分かりませんが、規制緩和は進んでいます。

 

このような質疑がありましたが、関西の参加者の方々は、割とフランクに悩みや問題をお話になられる印象を持ちました。植物工場研究センターの増田センター長、大山先生、下釜さん、大変お世話になりました!

 

 

 

ホームページ「農業・施設園芸・植物工場の未来」もご覧ください。

 

 

超高齢化社会と施設園芸

JUGEMテーマ:農業

 

昨日のNHKスペシャルでは、高齢者が訪問介護や保育園の運転手として働く現場のレポートがありました。車での移動送迎が必要な地方の現場では、人手不足から70歳代のシルバー人材の活用が求められています。一方で、視力や認知力、記憶力などの衰えから限界ぎりぎりまで働くシルバーたち、それを見守る周囲の人たちのリアルな姿もありました。

このような現場の様子は、農業や施設園芸でも同様に見られます。特に収穫などの機械化が進んでいない施設園芸では、作業を行う人材集めに苦しんでいる経営体が多いのが現状です。若いママさんたちのパートタイム雇用とシルバー層雇用の二本立てが普通になっており、さらに外国人技能実習生の活用も見られます。労働力の確保が経営の最優先課題となっている経営体も多いことでしょう。

まずは人集めからですが、教育や戦力化も必須であります。また年齢も経験も多様な働き手が共存する職場で、能力に応じた働き方を個別に考えることも必要になっています。若いパートさんとシルバー層を同列に扱い期待することには無理が生じることも多いと思われます。同じ時間内にこなせる作業量や、作業負荷にも差が生じることは否めません。

 

 

温室内での高所作業


そうしたことで、若者中心の外国人技能実習生への期待も施設園芸では高まっていますが、番組では日本が今後も実習生を集められるかについて疑問を呈していました。労働力として即戦力で外国人を受け入れている台湾の例を示し、現地の言葉を習得していなくとも、とにかく労働力不足を解消するためにベトナムから受け入れている様子がありました。

日本の技能実習生制度では、技術習得が基本であり日本語の習得も必須となっています。そのための習得費用や時間的な負担も受け入れ側に生じています。それは実習生側への負担ともなり、日本での技能実習を希望せず、労働力として受け入れてくれる韓国や台湾、さらにルーマニアなどへのベトナム人出稼ぎ例もありました。

番組では超高齢化社会へ突入する日本が、移民制度や外国人労働力の活用に積極的ではない中で、今後どのように社会を維持していくか、世界が固唾をのんで見守っている、としていました。つまり、このままでは日本は社会制度や産業を維持できないと、世界は見ているということでもあると思います

このことは、地方で雇用労働力不足に常に直面している施設園芸にも、そのまま当てはまるでしょう。最近の重要なテーマである自動化や省力化、AIやIoTとロボットの活用と、シルバー人材や外国人技能実習生の活用は、施設園芸では表裏一体の課題なのであると考えられますハイテク一辺倒では解決できない難問に、我々は立ち向かう必要があります。社会保障、福祉、移民などの社会制度面の改革や変化に、農業や施設園芸にどのように適応させるかが問われています。

一方で、あまり聞かなくなった作業環境の快適化について、作業効率を高め、作業者の健康や安全性を確保するような基本的な取り組みも、労働生産性の向上のためにも改めて着目する必要があるのでは、と私は考えています。

加工・業務用野菜とサプライチェーン


加工・業務用野菜という、やや業界用語的なジャンルがあります。外食や中食など、食の外部化が進む中で、それら の用途を担う野菜のことで、スーパーや直売所で購入した自家消費用野菜に対するジャンルでもあります。この加工・業務用野菜の需要が、2兆円強の国産野菜出荷額の半分を超えて久しいのですが、ここに対応した野菜生産が今求められています。 
 
加工・業務用野菜を扱うところとして、弁当や総菜、サンドイッチ、給食など様々な加工食品を作る食品製造業者があります。また野菜をカットやミックス、パッキングして、これらの業者に納める加工業者も存在します。いずれの業者も大量の野菜を原料として仕入れ、特定の売り先に供給しています。ここでのキーワードは野菜の安定供給であり、定時、定量、定質の3定、さらに定価格が加わった4定があります。 

 

サラダ野菜の加工場

 
一方で、野菜の生産者や出荷組合、農協などは、これらの業者に対し、一定の契約のもとで野菜の出荷、販売を行っていきますが、そこには生産側と需要側の様々なミスマッチが存在しています。生産側からすると、3定や4定を求められても、気象変動や自然災害に対処しての計画通り、契約通りの出荷は大変難しい面があります。 
 
業者側からすると逆であって、安定供給先を本当に確保できるか、通年で切れ目無く品質が一定の野菜が供給されるのか、という不安があります。また、業務用途ということでの大量購入の反面、価格面は抑えられるため、双方の値決めが難しい側面も見られる。 
 
実際にはこうした取引を、契約を介し成立させることはかなり難しく、業者側も様々な種類の野菜が必要となるため、中間業者とよばれる専門業者が両者の間に立って、安定供給や物流、商流の形成に寄与しています。 
 
流通の仲介という卸売機能にとどまらず、中間業者は野菜の1次加工や鮮度保持やバッファーのための貯蔵を担い、また生産者や産地に対し生産計画や実施状況の管理を行い安定供給の支援を行うところもあります。さらに自ら農業法人を設立して、生産業務にも領域を拡大する動きまででています。
 
以上のように、加工・業務野菜においては、生産、物流、貯蔵、加工、製品化までの一連の流れがあり、一般製造業におけるサプライチェーンに対し、フードサプライチェーンとして捉えられるものです。このフードサプライチェーンでは中間業者によるQCDの調整機能が重要であり、ICTによる流通と一体化した生産管理や品質管理、鮮度管理の取り組みも行われています。一見地味な加工・業務用野菜の世界が、実は今の農業の流れの最先端を担っているのかもしれません。 
 
参考文献:加工・業務用野菜をめぐる現状(2013)、農林水産省