コロナ禍の施設園芸・植物工場業界への影響について

養液栽培に関係する生産者、研究者、資材メーカー等が会員となっている日本養液栽培研究会では、年2回の会報「ハイドロポニックス」の発行を行っています。表題について同誌への寄稿を依頼され、原稿を執筆中です。寄稿依頼の趣旨として、今回のコロナ禍の業界への影響について、記録の意味で状況を記して欲しいとのことでした。業界全体のことをつぶさに調べることは難しく、関係の方々を中心に聞き取りをしながら、点の情報となりますが執筆をしました。本ブログでは、原稿に書き切れないことを中心に、生産現場に近い内容で記したいと思います。

 

 

青果物を扱う業界の動向記事

 

2020年7月21日より5回の連載記事「コロナ禍の上半期業界動向」が掲載されています。5回の連載タイトルを引用しますと「コンビニ苦戦続く」、「食品スーパー好調」、「宅配売り上げ好調」、「底を脱した百貨店」、「外食回復勢いを欠く」とあり、青果物を扱う業界の動向を端的に表現しています。青果物需要は、外出や飲食の自粛により外食や業務用途での落ち込みが大きく、一方で巣籠り生活の長期化から食品スーパーや宅配での需要は堅調と言えるでしょう。スーパーでは青果の伸びがトップとあり、上半期は気温が高くサラダ食材などの販売が好調とあります。その他、自宅での調理機会が増えたことで、調味料や粉ものの需要増、調理の大変さに対応したミールキットの宅配での伸長などが特徴づけられています。

 

業界全体を俯瞰した分析記事はありませんでしたが、青果物全体の需要としては「プラマイゼロ」に近い状況ではないかと思われます。後述しますが、個々の経営では業務需要低下の中でも深刻な販売低下というお話は伺っていません。

 

 

7月の天候の影響

 

下半期となる7月になると気候が一変し、全国的な豪雨災害と長雨、長期にわたる低日照の影響から青果物の価格も上昇しています。露地野菜の生育不良と作業の困難さ、施設野菜も生育不良と着花不良や着色不良など、困難な状況になっていますが、8月の遅い梅雨明けとともに徐々に回復が見込まれるでしょう。スーパーの店頭を見ていると、天候の影響を受けなかった北海道産の野菜の入荷が目立っています。また関東近郊から東北の露地野菜も徐々に増えているようです。

 

悪天候の時期の野菜生産では、力量の差が出やすいと言われています。果菜類は産地の端境期にあたり、夏秋栽培で安定して出荷を行う生産者や産地には、堅調な需要に対して売り上げを増やす機会になっていくかもしれません。個別の栽培技術でいえば、春定植の果菜類では、例えば初期生育の緻密な水分管理による根の伸長の確保といった点で、その後の天候不順期の生育差がつきやすいと思われます。

 

 

植物工場事業者の状況

 

近年、大型の植物工場施設が増加しており、品目も従来のトマト中心からパプリカやレタス類などに広がっています。パプリカ栽培は上方に高く伸ばす栽培方法の特徴から太陽光型植物工場の得意分野になっています。レタス類を中心とした葉菜栽培は、大規模な人工光型植物工場の増加の一方で、コロナ禍による業務用途販売の不振から青果販売へのシフトが起こっているようです。業務用途の葉菜生産では大株収穫や包装簡素化とバラ詰め出荷などで生産コスト低減を図っていますが、青果販売では逆になるため、一層のコスト低減が必要になると思われます。

 

太陽光型植物工場での葉菜生産は、果菜類ほどではありませんが、大型施設が少しずつ増えています。長年、数ha規模で葉菜生産を行う事業者に伺ったとこと、他の事業者や人工光型植物工場との競合のお話はありませんでしたが、外食向け専用に生産する品目の販売が回復しない中で、生協などの宅配向けの販売は好調のため、全体的な販売の落ち込みには至っていないとのことでした。こちらの例では生協が取引先にあったことで、他の事業者との競合も避けれらたのではないかと思われます。一般の青果販売ルートでは、太陽光型と人工光型が入り混じった販売の競合も耳にしています。

 

太陽光型植物工場での果菜生産の多くは作替え時期に差し掛かっていますが、近年は7月など定植時期の前進による秋需要への対応が目立つようになっています。さらに作型を前進させた春定植での夏越し栽培も見られるようになっています。高温期の樹勢維持と収量確保という難易度の高い栽培で、5月以降のトマト、ミニトマトの価格低迷の影響も受けた中ですが、現時点での販売単価は良回復しており、むしろ量が不足している中での良好な販売環境になっていると思われます。この時期に技術力が発揮できれば販売回復に結びつくはずで、コロナ禍と悪天候の影響にどのように立ち向かっていくものか、注目したいと思います。

 

 

淡々と生産と販売を行う都市近郊生産者

 

施設園芸のカテゴリーとして、前述の太陽光型植物工場が脚光を浴びていますが、その販路はスーパーや業務用途向けの契約販売が主流になっています。一般の施設園芸生産者でも同様にスーパー向けに販売(契約販売ではなく、一定の手数料を支払う委託販売が

多い)する方も多くいらっしゃいます。収益性の高い経営スタイルですが、スーパー側からは周年の出荷を求められ、これを実現するには周年栽培の技術力や切らさずに出荷を続ける経営力も求められるようです。

 

 

都市近郊での雨よけトマト栽培 長雨の中で生長点の様子も良好

 

それでも、大都市近郊や人口数十万人規模の地方の中核都市近郊には、作型や品種を組み合わせたり、天候の変化に対応した水分管理や環境管理を行うことで、周年の切れ目ない出荷を行うハイレベルな生産者が存在します。こうした生産者による経営はコロナ禍の影響も受けにくいと言えるでしょう。ある地域のトマト栽培篤農家は、30万人の人口に対しトマト生産者が数えるほどで、大型スーパーでの売り場も確保しており、土耕栽培での食味が良く鮮度の高いトマトを週3日ほど、日々淡々と出荷されています。繁忙期には店から引取りに来ることもあるそうですが、現在はまだ経験の浅い後継者への技術継承が課題となっていました。こうした地域の食を支える生産や経営の持続性が、コロナ禍に負けない農業、施設園芸の課題であることを改めて感じています。

 

 

ホームページ「農業・施設園芸・植物工場の未来」もご覧ください

 

by 土屋農業技術士事務所 所長 土屋 和

 

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