ビニールハウスの撤去作業について(災害ボランティアさん向け)

台風15号の施設園芸への被害は大きく、特にビニールハウス等の破損、倒壊が顕著のようです。被害面積は千葉県だけで479ha(9月26日発表)と膨大で、ガラス温室と合わせると500haを超えています。これは千葉県全体の施設園芸面積の1/3に近い数値と思われます。被害を受けた施設での営農再開には、全壊の場合に施設撤去が必要となり、人手が必要です。災害ボランティアの方などが現地に入られ撤去作業を行われることもあると思いますが、ある程度の知識が必要ですので簡単にご紹介したいと思います。安全には十分注意されてください。

 

突風で倒壊した鉄骨温室(茨城県 写真提供:防災技術研究所 横山仁氏 今回の台風15号被害とは関係はありません)

 

 

撤去作業のゴール

 

営農再開には、まず施設を撤去し廃材を処理する必要があります。ビニールハウス(以下パイプハウス)の材料は大きく分けて、ビニール等の「被覆資材」、構造材となる「金属パイプ(以下パイプ)」、取付のための「金属部材(以下部材)」があります。各材料を分別し、結束するなどしてまとめ、廃棄先に搬出することがゴールです。被覆資材は専用のリサイクル施設があり、また金属類もリサイクル可能です。撤去作業のゴールは、各部材を搬出可能な状態に分別し、とりまとめるところまでとなります。

 

 

パイプハウスの構造

 

アーチパイプと呼ばれる曲げたパイプを地面に50cm前後の間隔で挿して固定しています。アーチパイプ同士を直管パイプで連結補強し、そのほかに様々な部材を取り付け、さらに被覆資材をかぶせて固定しています。そのほかに妻面のドア、側面の巻き上げパイプなどもあります。概要はこちらの図が参考になります。

 

 

撤去作業の手順概要

 

作業手順の概要は以下の通りです。

1.被覆資材の撤去:ビニールを固定している部材をはずし、ビニールを撤去し、折りたたむ。

2.部材の撤去:パイプ同士などを連結している部材をはずし、金属パイプのみの状態にする。

3.パイプの撤去:金属パイプを地面から抜く。

4.パイプの結束:搬出しやすいよう結束する。

 

ただしこれは通常の手順で、強風で激しく変形したパイプハウスの場合には、さらに次の作業が必要になります。

※パイプの切断:撤去や結束などがしやすいように工具で切断する。

※部材の切断:変形ではずすことが出来ない部材は、本体や周辺を切断する。

 

 

撤去作業に必要な工具類

 

作業を効率的に行うには工具類が必要です。

 

※工具類、特に電動工具を扱った経験のない方には利用はおすすめできません。ただし手作業では進まないものですので、経験者と一緒に作業をされることをおすすめします。

 

・ハンマー:部材には「くさび類」が多く、くさびを抜くにはハンマーが必要です。振り下ろすような大型のものではなく、トントンと叩ける大きさのものを使います。

・パワーカッター:パイプや部材を切断するための電動工具です。取り扱いには注意が必要です。

・ディスクグラインダー:同じく電動工具です。パワーカッターより小回りは聞きます。細かな金属片の飛散もあるので、保護メガネやグローブが必要になります。

・パイプカッター:パワーカッターやディスクグラインダーは高価で充電電源も必要ですが、手動のパイプカッターもあります。人数分用意するにはこちらが便利でしょう。

・インパクトドライバー:部材を固定には「テックスビス」と呼ばれるネジが使われており、これを外すにはインパクトドライバーと呼ばれる電動工具が必要です。

・6角レンチ:ボルトナットで固定する部材が一部にあります。

・パイプ抜き:地面に挿したアーチパイプを抜き取る工具です。

 

以上の工具類を使っての実際の撤去作業の手順は以下の通りです。

 

被覆資材の取り外し

被覆資材は金属レールにスプリングと呼ばれる部材で固定されています。代表的製品に東都興業のビニペットシリーズがありますが、レールに凸凹型のスプリングで被覆資材を固定する方式です。このスプリングをレールの端から手で外すことができます。

 

部材の取り外し(くさび)

パイプハウスの部材の種類は非常に多いのですが、くさびで固定するタイプのものからハンマーで外します。同じく東都興業のビニペットカチックスといった部材が多く使われていますが、くさび部分をハンマーで叩くことで外れます。

 

部材の取り外し(ボルトナット類、テックスビス類)

レンチやインパクトドライバーで取り外します。

 

パイプの切断

曲がったパイプや長尺のパイプを短く切っていきます。

 

アーチパイプの抜き取り

部材の取り外しを進め、アーチパイプのみの状態になったところで、地面からアーチパイプを抜き取ります。

 

 

注意事項

 

金属類を扱うため、ケガに注意して作業をする必要があります。切断作業は金属が刺さらないグローブ類(ゴム製、革製)を用いてください。軍手では危険です。また長袖、安全靴の着用をお勧めします。 以上です。

 

※追記

このブログを見られたハウス撤去作業のご経験者で千葉県にもボランティアで入られた方からのコメント概要です:「天井部分のジョイント(アーチパイプを連結する部材)を固定したままで、その下の部分の取りはずしを先に行った方が安全で速い」、「その他に番線を切断するカッター、地際のパイプを引き抜く際に使えるバールなどもあると良い」大変ありがとうございました。一般的な工具類も車に積み込んで行くのが良いと思います。

 

 

 

ホームページ「農業・施設園芸・植物工場の未来」もご覧ください

 

by 土屋農業技術士事務所 所長 土屋 和

 

 

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