農業・施設園芸への企業参入

昨日(4月29日)の日本農業新聞アグリビジネス面に、農業参入企業に対し行ったアンケートの結果を記事にまとめられていました。農業参入の理由として、新規事業の展開、地域貢献、本業の付加価値化などをあげる企業が多い、という記事内容でしたが、解説として農地法改正による農地リース方式による参入自由化があげられていました。

 

農地法改正での農地リース自由化と企業参入

 

資料:農林水産省経営局調べ(平成29年12月末現在)

 

10年前の2009年の農地法改正によって、農地リース(借地)が自由化され、一般法人が農地を借りることができるようになりました。その法人数は2017年末で3030法人になり、改正前の9.7倍とのことです(農水省資料からの解説記事)。3030法人のうち約4割が野菜栽培となり最多とのことで、その一部は施設園芸を行う法人となります。法人の内訳は、農水省の資料:一般企業の農業参入状況(平成29年12月末)に掲載されており、食品関連産業からが21%(632法人)、建設業からが11%(335法人)、NPO法人からが9%(263法人)、その他(サービス業他)からが23%(684法人)などとなっています。

 

いずれの法人も農地リース自由化前には農地の貸借は自由に行えず、農業参入や施設園芸参入での農地利用には制約があり、この自由化によって企業参入が容易になった訳です。実際の農地貸借には、地権者との交渉、とりわけ複数地権者に対する合意形成が必要で、手間と時間を要することが多いのが実態です。これは地権者数が多いほど大変な手続きとなり、企業参入では地元の協力が重要になってきます。農業新聞の記事にある企業の農業参入の理由の2番目には地域貢献とあり、これも当然の理由と言えるでしょう。

 

施設園芸分野への企業参入と成否

 

農水省の資料には施設園芸分野への参入状況の記載は残念ながらありません。しかし全体の4割の1,246法人のうちの一部は施設園芸であり、相当数が該当するものと思われます。特に最近の数ha規模の大規模施設園芸では、そのほとんどが企業参入であり、農業新聞の記事の農業参入理由のトップである新規事業展開(約70%の企業があげる)を中心に事業化を進めていると思われます。例として全国10箇所で大規模施設園芸を行っている次世代施設園芸拠点の事業主体は、すべて株式会社や有限会社です。また大規模施設園芸が集積する山梨県北杜市にも株式会社による参入が多数あります。この背景に農地リースの自由化があることは間違いありません。

 

また解説記事には、技術習得や人材確保といった課題から撤退する企業が多い、と軽く触れられています。撤退理由には様々な要因があるはずで、この2点だけで判断すべきでは無いと思われます。やはり事業計画段階で、技術習得や人材確保も含め、栽培施設の妥当性や生産コストの試算、販路確保などを含めた実現可能な経営計画の策定が求められるでしょう。

 

記事の約半分では最近の企業参入の事例として、大手不動産会社と農業ベンチャーが共同で出資した農業法人の経営を紹介しています。千葉市でハウス2棟(計43a)での高糖度ミニトマトの栽培を行うとあり、課題は安定生産と販路確保とあります。またミニトマトを糖度別に販売し、小売価格は一般的な商品の2,3倍でスーパーを中心に販売するとあります。スーパーで販売される野菜の高額商品は高糖度トマトやイチゴなど一部に限られており、そこでの販路開拓は確かに課題と思われます。また安定生産が課題とあるのは具体的には不明ですが、高温期や寡日照期などの安定生産を指しているのかもしれません。こうした課題を織り込んで立ち上げてから数年かけ経営を軌道に乗せることが、企業参入での成否につながるものと考えられます。

 

企業参入による施設園芸の未来

 

おそらく施設園芸への企業参入は途切れないものと想像します。新規事業の創出や展開は、どの業界、どの企業に置いても常に課題であり、その候補には農業分野や施設園芸・植物工場分野が今後も必ずあげられると思われます。記事の解説として企業の農業参入に詳しい岡山大学の大仲准教授のコメントがあり、今後の企業参入増加に対し農業現場での企業とJAなどとの共生の必要性を示されています。これは人材確保などでの競合発生を懸念されてのことですが、その他にも販売や物流での共同化、現場からの技術的な支援、企業経営のノウハウの提供など、様々な共生の関係が考えられます。単純な企業参入から地元を巻き込み協調をはかる共生関係は確かに未来への道筋に思えます。

 

ホームページ「農業・施設園芸・植物工場の未来」もご覧ください

 

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