新たなトマトのウイルス「ToBRFV」について

千葉大学大学院園芸学研究科の丸尾達先生が、農耕と園芸2019年秋号に「植物工場向けの品種開発の現状ー植物工場を活用した育種の有効性ー」をご執筆されています。その中で新たなトマトのウイルスとして、Tomato brown rugose fruit virus(ToBRFV)に触れられています。ToBRFVの日本語名は定まっていないようですが、果実が褐変し変形(しわ)することが特徴で、直訳すれば「トマト褐色しわ果実ウイルス」と言ったところでしょうか。抵抗性品種の育成や化学的防除方法は確立されていないようで、罹病株の撤去や発生箇所の隔離、人を通じた伝播防止といった物理的防除に頼る状況と推察されます。ToBRFVのトマトにおける発症の画像はこちらになりますが、褐変や変形の激しい症状が特徴と言えるでしょう。

 

 

トバモウイルスとToBRFV

 

ToBRFVはトバモウイルス属のウイルスの一種で、農研機構の久保田健嗣さんの「抵抗性打破能を有するトマトモザイクウイルスの 近年の発生 」によると、トバモウイルスの特徴を「ウイルス粒子は感染植物体内で高濃度に蓄積し,粒子の物理的安定性も極めて高い。 このような性質から,圃場でいったん発生すると,摘心作業などにおいて汁液伝染により容易に感染が拡大する。また,感染植物残渣が土壌中に残ることによって長期にわたって残存し,次作に苗を定植した際に根部の傷口から感染する。」と記されています。また種子伝染についても触れられていますが、伝染性が強いことがうかがわれます。圃場でのハサミを使った作業、植物を触る作業、残渣などを通じ伝染しやすく、また長期にわたり残存することで、根絶するにはやっかいなウイルスと思われます。

 

 

世界のToBRFVの状況

 

ToBRFVが最初に確認されたのは2015年にヨルダンの温室においてと言われています。またEUの関連機関「ヨーロッパ・地中海植物保護機構」、European and Mediterranean Plant Protection Organization(EPPO)では、全世界のToBRFVの発生分布をデータベースとして提供しています。発生マップ(下記の世界地図)、および最新の情報(2019年10月2日現在 表:全世界のToBRFVの発生分布))をダウンロードしてみました。

全世界のToBRFVの発生分布(EPPO Database) 赤丸:存在、黄色丸:一時的

 

 

表:全世界のToBRFVの発生分布(EPPO Database 2020/10/2)

continent country state Status
America Mexico Present, restricted distribution
America United States of America Absent, pest eradicated
America United States of America California Absent, pest eradicated
Asia China Present, few occurrences
Asia China Shandong Present, few occurrences
Asia Israel Present, no details
Asia Jordan Present, no details
Europe Belgium Absent, invalid record
Europe Germany Absent, pest eradicated
Europe Italy Present, restricted distribution
Europe Italy Sicilia Present, restricted distribution
Europe Netherlands Absent, unreliable record
Europe Turkey Present, few occurrences
Europe United Kingdom Transient, under eradication
Europe United Kingdom England Transient, under eradication

 

この表の右列(Status)には、Present(存在)、Transient(一時的)、Absent(なし)の状況が示されています。中国山東省では数例の存在があるとされています。またオランダでは信頼できない記録としながら、なしとされています。

 

 

ToBRFVに関する最新の情報

 

「Tomato news」の2019/9/12付の記事「ToBRFV: Quarantine status in effect from 1 November 11月1日よりToBRFVの検疫を有効化」では、ToBRFVの感染についてEUでは加盟各国の機関に報告義務が課せられるとのことのようです。記事では過去にドイツの企業での感染において根絶例があったとの記載も見受けられます。また未発症国からの圧力で検疫体制を強化との記載も見受けられます。記事には滅菌のためのコンテナ型蒸気消毒装置なども紹介されており、対策が打たれている様子もうかがえます。正確な情報がなかなか分からないところでありますが、このようなWEBサイト上の情報や、EUの公的機関の発表などを参考にしながら、国内においても警戒を怠らない必要があると思われます。

 

 

引用文献 久保田健嗣, 抵抗性打破能を有するトマトモザイクウイルスの 近年の発生, 植物防疫 70(12), 797-800, 2016-12

参考文献 丸尾達、植物工場向けの品種開発の現状ー植物工場を活用した育種の有効性ー、農耕と園芸(1099)、30-34

 

 

 

ホームページ「農業・施設園芸・植物工場の未来」もご覧ください

 

by 土屋農業技術士事務所 所長 土屋 和

 

 

 

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