農業新聞記事より「耐暑性多収性の「単為結果性トマト」の育種」

2019年9月4日付の日本農業新聞1面に「トマト新世代 高温でも多収受粉要らず 筑波大など」として、トマトの新品種育成に関する記事が掲載されました。

 

 

育成された品種の特徴

 

筑波大学や千葉県のかずさDNA研究所などの研究チームが、高温でも受粉せずに着果する単為結果性で多収性のトマトを育成したというニュースです。一般にトマトの受粉は高温になると花粉の受粉能力が低下し、また受粉を行うマルハナバチなどの活動も低下し、花が咲いても着果しずらくなります。単為結果性とは受粉作業を行わなくとも着果する性質のことで、そのような性質を持ったトマトはすでにいくつか育成され、商業栽培でも使われていました。例えばルネサンス(サカタのタネ)などがありますが、大玉トマトにしては少し小ぶりの果実(100~150g程度)であり、多収性品種とは言えませんでした。サカタのタネからは、その後、大玉品種で単為結果性のパルトという品種も育成、販売されています。ニュースでは、これはルネサンスやパルトのような市販品種ではなく、この系統を使って交配を繰り返し、新たな大玉トマトやミニトマトの育成に利用できる、としています。つまり耐暑性で多収性の系統として、これからのトマト品種育成に活用できるということで、研究グループでは種苗会社と連携し新品種育成に活用する、とあります。

 

最近のトマト生産の課題と高温期の栽培

 

ここ数年のトマト生産の大きな課題として、4~6月のトマト出荷量が全国的に増加し、市場価格が低迷して、トマト生産者の収益を圧迫していることがあります。これには、企業参入によるトマトの大規模施設の増加、補助事業を利用したトマト産地での施設面積増加、環境制御技術の普及による単収の増加などが理由としてあげられています。どの理由も根拠として正しいと思いますが、もうひとつあげるとすれば、トマトの作型(播種、定植、収穫、撤去までの年間の栽培スケジュールのこと)が全国的に平準化され、特に4~6月の一時期に集中して出荷が進むことがあると考えます。この作型は長期1作型と呼ばれ、最近の大型施設、オランダ型の養液栽培施設などでは一般的なものです。また農業生産者の一般的な栽培でも、以前は夏秋栽培、抑制栽培、越冬栽培、半促成栽培、促成栽培など様々な作型がありましたら、これも周年栽培や雇用型農業の流れから作型が延長され、長期1作型にシフトする動きが目立つようになりました。結果的に全国どこに行っても、お盆から9月頃に定植を行い、秋が深まるころから収穫が始まり、春先に一挙に収量が増え、暑さが限界になるまで取り続けるような作型が一般的になりました。このモノカルチャー的とも言える作型の平準化が、春先のトマト価格低迷の大きな要因ではないかと、私は考えております。

 

またその結果、9月〜10月にかけてのトマトの収穫量が全国的に低下し、モノが足りない、価格が上昇する傾向となっています。これは定植時期も平準化したことで仕方がないことです。その中でトマトが市場に不足する時期を狙い、春先に定植をして高温期を越しながら9〜10月にも収穫を続ける新たな作型(夏越栽培)に挑戦する生産者も出現しています。高温期の栽培を行うため、ハウス内の温度低下のための仕組みも必要となり、遮光、細霧冷房、送風などの技術を組み合わせるなど、設備投資やノウハウも必要で、誰にでも可能なものとは言い難いと思います。

 

育成された品種への期待

 

既存の単為結果性品種が夏越栽培で多く使われているとは言い難く、単為結果性だけでは解決できない課題もあると思われます。一般に高温期には果実が早熟しやすく、その分、果実も小さめで収穫され収量も低下しやすくなります。また着果そのものが低下すれば果実数も少なくなり、収量も低下してしまいます。育成されて品種は多収性をうたっており、これらの課題が解決されることが期待されます。またこの系統を使って、食味の良いトマト、さらに多収性のトマト、大玉、中玉、ミニトマトなど様々なバリエーションの育成も期待されます。

 

一方で、夏期の猛暑が年々さらに進み、栽培環境も悪化しています。施設内での作業環境も厳しく、人が作業すること自体、難しい時期も長くなっています。また台風や豪雨などの自然災害が夏期に集中し発生するようになってきました。もうひとつの課題として高温期の果実の品質低下があります。これは熱帯夜の発生など夜温が上昇することで呼吸消耗がおこり、糖度など果実品質の低下が進むことがあります。こうしたことは施設内の温度環境を改善するか、熱帯夜が発生しない高冷地や沿岸地域での栽培にシフトするかなどの対策が必要になります。新たな品種への期待感は高いものがあると思いますが、万能ではないことにも注意が必要です。

 

 

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by 土屋農業技術士事務所 所長 土屋 和

 

 

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