施設園芸生産者のスタディーグループ

国内の施設園芸のスタディーグループについての記事を先般書いてみました。施設園芸国であるオランダのスタディーグループについて触れられた論文があり、ご紹介します。論文名は「オランダの施設園芸における農業者育成の現状と特徴」、著者は農研機構で農業経営を研究されている山田伊澄さんです。オランダの施設園芸について、教育訓練や農業者育成の支援の仕組みについて現地での聞き取り調査を行なったもので、2014年4月に受理された論文です。論文によると、オランダでは農業者同士での情報交換、外部アドバイザーによる支援、研究機関での新技術情報など、様々な場面で知識の獲得をしているとのことです。スタディーグループについての箇所を引用します。

 

トマト生産者の現地検討会
トマト生産者の現地検討会

 

 

オランダのスタディーグループ

 

オランダでは,同レベルの農業者同士が自主的に集まって情報交換をし,互いの農場を互いに見て切磋琢磨する,スタディグループというものが存在する5).同じ品種や作物,特定の技術など農業者でスタディグループが形成されている.農業者同士は,競争相手であるが友人として信頼関係があり協力するという.こうしたスタディグループは,オランダの農業者育成における大きな特徴の一つである.

 

日本の施設園芸でのスタディーグループは、産地の中でのグループ化が前提にあると思います。オランダの場合は同レベルの農業者の自主的な集まりということですが、日本の場合は必ずしもそうとは言えないでしょう。オランダは経営規模も数ha〜数十ha単位と大きく、技術レベルや経営レベルに差があるとグループ活動に支障があるかもしれません。日本では産地のくくりの中で、多少レベルに差があってもグループを組織して情報交換から始めることになると思います。それは産地競争の中での産地維持という目的があり、脱落者を出さないような仕組みも求められるためです。オランダの場合は国内での競争もあるかもしれませんが、スペインや東欧など、EU域内外での競争が前提にあるため、さらに高いレベルを目指す必要があって同レベルの農業者の集まりでのグループ活動となっていることが想像できます。

 

 

山田さんの論文では、栽培面積27haの大規模経営を行う生産者のスタディーグループ活動を紹介しています。この生産者は家族経営の大玉トマト農場での生産部門を担当しています。農場経営は、単収が63t/10a、年間収量が1万7千t、販売単価が84円/kg、売上が14億円、経費が4200〜4800円/屐経常利益が1.4億円となっています。5年以上前の調査ですので、現状の経営状況に変化があるはずですが、生産や販売の規模がやはり日本とは桁が違います。また5年ごとに約10億円の設備投資や規模拡大を行うとあり、家族経営と言えども投資と拡大再生産を展開していることが伺えます。

 

 

この大規模経営の生産担当者が属しているスタディーグループは2つあって、両者とも毎週、数名の生産者が集まり環境制御、施肥、病害虫防除などの情報交換、意見交換をするとあります。さらに月1回、お互いの労働面やコスト面のデータについて議論をし、販売面で競争相手であっても技術や知識面では協力をするとあります。

 

 

スタディーグループと外部のアドバイザー

 

スタディーグループの活動の他に、知識や情報の獲得手段としてアドバイザーの支援があげられ、IPM(病害虫)、栽培(作物)、エネルギー、法律関係のアドバイザーがいるとのこと。ここでのアドバイザーとは、日本ではコンサルタントと呼ばれる専門家のことで、大規模施設園芸に関わる各分野の専門家になります。アドバイザーの料金は論文では触れられていませんが、グループ単位でアドバイスを受け、料金の支払いも分担して行う例も実際にはあると聞いています。その場合はそれなりの額のアドバイザー料ということになるのでしょう。

 

 

論文ではスタディーグループ活動とアドバイザーによる支援は分けて記述されていますので、この生産者は単独でアドバイザーに業務を依頼していると思われます。IPMのアドバイザーについては毎週ハウスでの病害虫発生の確認を行い、2〜4週に一度のミーティングを行うとあります。また栽培のアドバイザーも2〜4週に一度の訪問とミーティングを行うとあります。農場特有のアドバイスを受けるためには、このような形態が必要になるでしょうが、グループでのアドバイスを受ける場合にはグループの農場巡回への動向によるアドバイス、各農場のデータを共有するミーティングへの参加などが考えられます。

 

 

スタディーグループのデータ共有

 

オランダでは環境制御装置のメーカーが異なってもクラウド上でデータを共有する仕組みもあるそうで、スタディーグループ活動も、そこに入るアドバイザーもクラウドデータの活用を行っていると思われます。各種データの共有と比較検討そのものが簡便に行える環境がある、ということになります。日本でも高知県が環境制御装置や環境測定装置に蓄積されたデータをメーカーの違いを超え収集する仕組みを最近採用しており、県単位でのスタディーグループ活動に取り組み始めたと言えるかもしれません。メーカーや装置の機種の違いがグループ活動の壁になるようでは技術の向上は望めず、この先のマイナス要素になるかもしれません。クラウド経由でそうした壁を取り払うことが日本でも有効になるのではと思われます。

 

 

日本とオランダの施設園芸は経営規模や生産性、生産コストや販売単価、さらに気象条件に隔たりがあり、オランダの仕組みや技術を取り入れてもそうした隔たりに起因する問題が発生することもあります。スタディーグループについても活動目的として全体の底上げをするのか、さらに高みを目指すのか、情報の共有範囲や対外発信をどこまで行うのかなど、取り決めるべきことは多いと思います。またスタディーグループだけでなく、品種育成、技術開発、マーケッティングなどを共同で行うより機能的な組織もオランダでは多くみられます。

 

 

日本でこれに当たる施設園芸のグループは、カゴメの農事業の各菜園や、高糖度トマト生産出荷を行う静岡県のサンファーマーズなどがあげられます。こうしたグループは構成農場でのスタディーグループの機能を内包しており、データ共有の仕組みも進んでいるものと思われます。一方で日本の個別経営の現場ではデータの収集と見える化による栽培技術向上の流れが定着してきたと思われます。次のステップに進むためには、スタディーグループのようなグループ内でのデータ共有や、グループ活動での相互学習と切磋琢磨が求められると考えられます。さらに先のステップには、品種選定や育成、技術開発やマーケッティングなどの共同化があるのかもしれません。

 

 

引用文献:山田伊澄、「オランダの施設園芸における農業者育成の現状と特徴」、農林業問題研究(194)

 

 

 

ホームページ「農業・施設園芸・植物工場の未来」もご覧ください

 

by 土屋農業技術士事務所 所長 土屋 和

 

 

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