収量向上から収益向上へ

収穫工程までのICT利用と収量向上

 

農業の生産・出荷工程は、農場における収穫までの工程と、選果、貯蔵、出荷などの収穫後の工程に2分できます。施設園芸でも、センシング、モニタリングや環境制御などのICT利用の場面は、施設内での栽培〜収穫の工程で多くみられました。ここでのICT利用ではもっぱら生産性の向上に主眼がおかれています。施設生産性(=単収)、労働生産性、エネルギー生産性などで、投入資源や投入金額に対しての収量や品質をどれだけ高められるかがポイントになります。

 

ICT導入効果は多くの施設で見られ、近年のトマト栽培やキュウリ栽培での単収向上に反映されていると思います。特に環境制御技術が未導入の場合には、導入前後で1割〜2割程度の増収例もあって、その効果が注目されてきました。

 

収量向上と収益向上は比例しない?

 

最近のトマトなどの相場の低迷は、長期にわたる好天や全国的な増産の影響で、市場にトマトがあふれたことが要因と言われています。つまり単に増収をしただけでは、それに見合う収益が得られないことが多いと言えるでしょう。対策のひとつに、生産性の向上による生産コストの低減があげられますが、これには限度があります。収量向上には一定量の資源(エネルギーや労働力、肥料、農薬など)の投入が必要なためです。

 

ではICT利用などで向上した収量に見合う収益を得るにはどうしたらよいか?、現在の施設園芸業界が直面している大きな課題のように思います。長らく農業界では、作ることと売ることが別のことのように扱われて、プロダクトアウトの考えが主流であったと思います。最近ではマーケットインの考えで需要や受注に応じた生産を行う農業法人も、葉菜類や苗の施設栽培で多くみられます。

 

しかし長期栽培で気象など外部要因の影響を受けやすい果菜類の施設栽培では、ほとんどの現場が見込み生産を行っており、収穫できたものを需要先に当て込んで出荷販売しているのが実態と言えるでしょう。この当て込みを需要にマッチさせ、販売単価を確保しながら収益を向上させるかが、今後の施設園芸の成功のポイントのように思います。

 

安定供給による販売単価の確保

 

生鮮販売先や加工業務用途先といった実需者との取引を行う場合には、ある程度の見込み数量で取り決めをし、直近の生産状況によって修正をはかっていると思います。品質や納品数が安定した取引を望むこうした実需者としては、リスク回避のため様々なルートを確保したり、納品トラブル発生時には新たな対応を迫られることも多いと思います。こうした対応は手間とコストに跳ね返るため、実需者側は同一の仕入れ先から安定した納品を望む傾向があります。そのため年間を通じた安定供給を前提として、相場の影響を受けないような販売単価で契約取引を進める例もあると聞きます。

 

このことは言うは簡単ですが、高温期間や低日照期間、また台風や大雨などの気象災害のリスクの中で、周年での安定供給を行うことはICT利用であっても完璧には難しいと言えるでしょう。特に夏場の暑さ対策をどうするかで、秋以降の収穫量に影響が出るため、高温対策技術の優劣や気象環境による地域差が出やすいのが実情です。また高温に対し「冷やす」技術の導入には、設備や電力などのコストが発生することも多く、ICT利用が収益に直結するとは必ずしも言えないと思われます。

 

収穫以降でのICT利用

 

以上のように収穫までのICT利用は、通年の収量を向上することが可能であるものの、年間の安定供給のレベルには必ずしも達しておらず、実需者との取引を優位に進めるには物足りない部分があると思われます。そのため、今後は選果や調整、梱包、出荷といった収穫以降の工程におけるICT利用も良く検討し、実需に対応した計画的な取引や販売単価の向上に向けた活用を考えるべきと思います。

 

こうした考えは、スマート農業の分野ではあまり取り組まれていないように思われます。生産から出荷、消費までのフードバリューチェーンの構築といったお題目を聞くことは多いのですが、実際に構築された例というのは施設園芸においては聞き及びません。その一方で、現場の工夫の中で、収穫以降のICT利用が進んでいるようです。

 

葉菜栽培での生産〜収穫〜在庫〜出荷のリンク

 

一例として葉菜栽培での生産と出荷を結びつける取り組みがあります。レタス類などの施設栽培(養液栽培)では、栽培期間が数週間程度と短期であり、需要に応じた計画生産が可能です。そのため営業から上がる受注を元に作付計画を立案し、播種日や播種数を決定して栽培計画に落とし込む形になります。実際は栽培計画通りに収穫が進まないこともあるため、早取りや遅取りを行ったり、短期間ですが在庫を持ち出荷調整を行う必要もあります。このような生産〜収穫〜在庫〜出荷の流れを全体でコントロールすることで、実需先への安定供給や生産や在庫面でのロスの低減が図れます。そのためのICT利用による計画生産や在庫調整が先進的な経営体では見られます。

 

沖縄県のスーパー店頭の葉菜類

 

この手法をさらに進めると、生産施設の空き状況などを見ながら、実需先への出荷提案もある程度可能になると思います。待ちの営業から提案営業への転換となり、生産ラインの確保をしながら安定供給を進めるといった製販一体化を進められると思います。

 

果菜栽培での収量予測から販売提案への流れ

 

一方で果菜類の栽培は長期栽培が多く、葉菜類の栽培のように播種日から計画化された出荷のような手法は難しいと思います。しかし圃場には収穫前の果実が着果していれば、それらをカウントし、過去のデータや今後の気象予測などを踏まえ、収穫時期や収穫量の予測がある程度は可能です。この面のICT化や予測技術の開発は多方面で進められておりますが、現場的には調査区画での果実数のカウントを基盤とし、そこからの収穫到達日数を踏まえた予測が多く取られています。

 

このような予測手法は実需者への安定供給面でも役に立つと思われます。特に栽培規模が大きい施設であれば、出荷ロットも大きく、大口の実需者との取引も容易となるため、そこでの予測にもとづく販売提案があれば、担当者(バイヤー)の負担を軽減できることになります。さらに果実の大きさ(2L、L、M、S)や梱包形態(箱詰め、パック詰め)などの情報が付与されれば、より取引は進むものと思われます。

 

収穫までの工程では収量を上げることはできますが、売り上げを立てることはできません。需要に応じた形状や梱包形態に選果調整をして適期に出荷納品することで売り上げが立ち、またより積極的に販売提案をすることで売り上げを先取りすることも可能かと思います。

 

収量向上はやはり重要

 

以上のように収量向上に見合うよう、販売先と販売単価、売り上げを確保し、収益に結びつけるよう収穫以降を含めたICTの利用の考え方について記しました。そうしたICT利用は、生産が安定して収量が十分確保され、複数の販売先への供給能力が見込める場合に発揮されると考えます。少ない収量では様々な提案はおろか、安定供給そのものが担保されず、また生産コストそのものも上昇する場合が多いためです。施設園芸の基本は生産性向上であり、基本は単収の向上であると思います。そのうえで生産コストの低減と収益の向上をどのように図るかを、ICT利用、スマート農業の活用を含め検討する時代に来ていると思います。

 

 

 

ホームページ「農業・施設園芸・植物工場の未来」もご覧ください

 

by 土屋農業技術士事務所 所長 土屋 和

 

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