スマート農業と植物の生育情報

農水省のスマート農業関連事業がスタートし、スマート農業への関心も高まっています。長年、施設園芸にかかわって来た一人として、ブーム的な現象に終わって欲しくないと思っております。

 

スマート農業と作物の生育状況の把握

 

スマート農業の要素技術のひとつのAIは、昭和末期から平成前期にかけ何度か農業や施設園芸に利用する取り組みがされました。主に研究サイドの動きでしたが、定着することにはなりませんでした。当時はコンピュータの能力も現在とはくらべものになりませんでしたし、また機械学習といったコンピュータの学習能力や画像処理能力も劣っていました。人工知能に関するプロジェクトも立ち上がっていましたが、現在のように官民共同での大がかりなものではありませんでした。

 

今回のスマート農業関連事業は、農水省が旗を振り、研究機関や農業団体、農業法人、自治体と民間がプロジェクトを組んで短期間で実証成果を出し、次の全国的な普及につなげていこうという動きであり、今までにはないものです。また要素技術の実用性も上がり、すでに現場で使われているものもあって、成功の確度も高まっていると思います。

 

ただし見かけでは上手く行っているように見えても、実際には手間がかかっていたり、利用条件が限定されていたりなど、その後の展開が難しい場合もあります。 平成26年に取りまとめられた「スマート農業の将来像」では、施設園芸分野を含めたスマート農業の進む方向のひとつとして「植物の能力を最大限に活かす」ことがあります。そのための「データに基づくきめ細やかな栽培」として「圃場ごとの栽培履歴や作物の生育状況を把握し、資材投入量の最適化や効率的な作業計画の策定を実現」が示されています。この中で難易度が高いものが作物の生育状況の把握です。

 

培地重量を計測し潅水のタイミングや潅水量を調整している養液栽培

 

難易度の高い生育情報の把握

 

例えば、植物体そのものの形態や成長などをリアルタイムで把握することは、画像処理技術が発展してもなかなか難しいことのようです。実用化技術として、選果装置や接ぎ木ロボットの前工程での、画像処理による果実や苗の分類自動化などがあります。しかし生育中の植物の形態を的確に把握するには、数段高いレベルの技術が求めるられるでしょう。特に立体的な形状や、重なりがある場合などは難易度が高くなります。

 

また、植物が必要とする水分量を決定するため、間接的な方法ですが一般的に日射量の計測を行います。しかし日射センサーは通常は屋外に設置され、植物が受ける光環境とは必ずしも一致はしないと言えるでしょう。また一方で植物体の大きさにより必要水分量も変わってきます。しかし最近では養液栽培において培地の重量を秤で直接計測し、重量変化から必要水分量を把握する技術が使われています。また土耕栽培において屋外の日射センサーの他に土壌水分センサーも組み合わせ、必要水分量の精度を高める工夫もされています。いずれも直接的に植物体を計測するものではありませんが、それに近い計測制御技術としてレベルを上げたものと言えるでしょう。

 

スマート農業における情報の入り口の大切さ

 

1970年代から現在まで施設園芸研究に携わってこられた高倉直先生(東大名誉教授)は、「スマート農業に望むこと」ととして論文を最近書かれています。そこでは「AIが十分生かされるためには、まず正確な情報を取得する必要があるが、余り注目されていない。(中略)AIの基本は植物の環境を正確に計測できるセンサーの開発とそれによる正確な情報の収集であると言っても過言ではない。」と結ばれています。情報の入口の大切さを高倉先生は説かれています。われわれがスマート農業について理解するためには、まずこの点から注視する必要があるでしょう。

 

引用文献:高倉 直 2019. スマート農業に望むこと. 農業および園芸 94:285-289.

 

 

ホームページ「農業・施設園芸・植物工場の未来」もご覧ください

 

by 土屋農業技術士事務所 所長 土屋 和

 

 

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