施設栽培での高温対策について

久々の投稿になります。今回の記事では、特に厳しい高温が続いた今年の夏を振り返りながら、施設栽培における一般的な高温対策と今後の動向について触れてみます。

 

トマト栽培での高温の影響

 

施設栽培を行う作物には栽培適温の範囲があり、高温によって適温範囲を逸脱すると高温障害や生育不良、品質低下といった現象が起こります。代表的な施設作物のトマトを例に、高温の影響について以下に記します。

 

トマトの栽培適温となる平均気温の上限は28℃程度と言われ、場合によっては花粉稔性が低下し受粉に障害が起こる場合があります。またマルハナバチの活動も低下し、トマトトーン処理などの人工授粉に頼る必要もありますが、それでも限界はあります。また着果をしても着色が早まり小玉果となったり、裂果の多発もみられます。さらに熱帯夜が続くなど夜温が高い場合には、夜間の呼吸消耗も激しく、生育や果実品質への影響もみられます。その他、高温や強光による葉焼けや果実の焼けなどの直接的な高温障害もあり、高温が続く夏期のトマト栽培は年々厳しいものとなっています。

 

施設栽培での高温対策

 

上述のトマト栽培を含め、施設栽培での一般的な高温対策の例を以下に記します。これらの導入に際しては施設資材等のイニシャルコストや電気代などのランニングコストとその費用対効果を考える必要があり、複数の対策を組み合わせることも重要になります。

 

ハウス開口面積の拡大(天窓、側窓)

 

ハウスの自然換気は、天窓や側窓を通じた外気と内部の温まった空気の交換を指します。自然換気により内外の空気の交換量(換気量)が増すことで室温は低下します。現状より換気量を増やすためには、まず窓の開口面積を増やすことが考えられます。パイプハウスであれば側窓の巻き上げ幅を肩方向まで少し広げる、側窓だけでなく肩換気用の巻き上げ換気装置を加えて開口面積を大幅に増やすことも考えられます。天窓の場合にはそのような施工は困難ですが、天窓の開口幅はある程度の調整は可能です。強風時に天窓が破損しない程度にリミッターを調整することも考えられます。谷換気においても巻き上げ幅を広げることはレールの付け替えやフィルム張替えの工事を伴いますが可能です。

 

風向きに対するハウス開口部の拡大(側窓)

 

ハウスの配置や構造を考える場合、風上側に対して開口部が向いていることで、外気の流入に対して有利に働きます。また流入した空気によって内部の空気が押し出される形で外部へ排出されるよう、風下側にも開口部があると効果的です。その場合、作物の群落がハウス内での気流の動きに抵抗となる場合もあり、畝方向に沿って気流が動くような配置が良いでしょう。オランダ型の高軒高のフェンローハウスなど側窓が無い構造のハウスもありますが、自然換気の強化を考えるとこうしたハウスでも側窓の設置が有利に働くものと考えられます。開口部の設置はハウスの新設設計時に考えるべきことですが、側窓追加の施工はリノベーションとしても可能なものです。また一般的なハウスでも開口部の無い妻面に側窓を設けることも可能です。

 

換気扇による強制換気

 

ハウスの換気量を増加するには強制換気が効果的です。これには大型の換気扇を妻面に設置し、反対側の妻面にもシャッター式の開口部を設置して、換気扇により外気を導入しながらハウス内に気流を作り、反対側から排出を行うものです。この場合も気流に対して作物の群落が抵抗とならないような配置が望ましいでしょう。

 

換気量は換気扇の能力や台数を増やすことで増大しますが、それらはイニシャルコスト(設備施工費)とランニングコスト(電気料金)が伴うため、最近のそれらの高騰によって難しい面もあります。特に電力料金の値上げにより換気扇の運転は生産コストの増大に直結するため、慎重に検討する必要があります。


遮光・遮熱(遮熱資材・遮光カーテン)

 

近年、高温対策として利用が増えているものに、遮熱資材の屋根面への塗布があげられます。これは白色の塗料状の資材で、動噴などにより被覆資材に塗布するものです。熱線となる赤外線領域の光をカットし、作物の光合成に必要な領域の光は透過する性質のもので、遮光による生育の阻害を抑えながら、遮熱を行うことが特徴です。専用の設備が不要でイニシャルコストがかからないことで導入しやすい方法と言え、近年の普及につながっています。また塗布の量や回数によって、遮熱性を調整することも可能です。一方で高温対策が不要になる時期には、ブラシによる洗浄や専用の除去剤の利用によって取り除く必要があります。この除去作業と塗布作業が毎年発生すること、外部作業委託の場合には費用も発生すること、塗布時期が早すぎたり遅すぎたりすることで目的の遮熱効果が得にくくなることなどがデメリットと言えるでしょう。遮熱資材は海外製品が主流ですが、国産製品の販売も行われており、遮熱性などの性質もおのおので多少異なるようです。導入に際しては、すでに利用している事例などを参考にすると良いと思われます。

 

遮熱資材の塗布は、外部遮光の一種と言えます。専用設備が必要でイニシャルコストがかかりますが、外部遮光カーテンによる高温対策は効果が高いと言われています。これはハウス屋根面の傾斜面に沿って遮光カーテンを巻き上げる方法や、屋根面から離れた上部に水平張りの巻き上げ装置を設置して遮光カーテンを開閉する方法があります。前者は花きの栽培施設などでみられ、後者は国内ではあまり普及していませんが、台湾などではよくみられるものです。外部遮光装置の開閉動作は風の影響などを受けて不安定となることが多いため、メインテナンスが重要と言えます。一方で必要に応じた開閉や、適切な遮光率のカーテン資材の選択により、安定した遮熱効果が得られると考えられます。

 

遮光カーテンは一般的には内部のカーテン装置に使われており、保温と遮光を兼ねたカーテン資材も多く用いられています。最近は遮光率が低く通気性も高い遮光専用のカーテン資材も発売されています。外部遮光での高い遮熱効果は期待できませんが、内部遮光でもある程度の効果は期待できるものと考えられます。

 

気化冷却を利用した冷房(細霧冷房、パッドアンドファン)

 

細霧冷房やパッドアンドファンによる気化冷却を利用した積極的な冷房方法があります。細霧冷房では、動噴によりミストノズルから細霧を発生させ、その気化熱によってハウス内を冷却するものです。設備施工費がかかるため、導入施設は限られていますが、一定の冷却効果が期待できます。最近は、台湾製ノズルなどの輸入部材を用い、自家施工も行うことでイニシャルコストを削減する例もみられます。また細霧冷房効果を高めるには換気も必要であり、前述の自然換気や強制換気により換気量を確保することで相乗効果が期待できます。

 

パッドアンドファンは強制換気とパッド(紙製などの通気資材に水を流しながら通風による気化を行う設備)を組み合わせ、冷気をハウス内に通風させるものです。ハウスの片側妻面にパッドを、反対側妻面に換気扇を設け、パッドに吸入された外気が冷却され、ハウス内を通風しながら換気扇で排出される仕組みになります。パッドと換気扇の距離が長くなると、ハウス内の温度ムラ(温度勾配)も大きくなり、限界があります。また強制換気と同様にイニシャルコストとランニングコストを考慮する必要があります。

 

作物の蒸散による気化熱利用

 

作物は高温環境に置かれると積極的に気孔から蒸散を行い、作物体温を下げようとします。その際に作物群落周辺の温度も気化冷却により低下します。その効果は群落量が多いほど高くなるため、高温期の栽培でも葉面積を維持し葉面積指数(LAI:Leaf Area Index)を高めるなど工夫をすることで、温度低下が期待されます。

 

蒸散を促進するには作物の群落に気流を当てることでも効果があり、循環扇や換気扇の利用や、最近ではダクトファンの利用も進んでいます。これは養液栽培のベンチの下に孔開きのポリダクトを配置し、ダクトにファンを取り付けて送風を行い、ベンチ下から群落に向けての気流を形成するものです。群落への通風効果による蒸散促進で、作物が天然の冷却装置として積極的に働くものと言えます。こうした方法はトマトハイワイヤー栽培など群落の量が多いもので有効と考えられます。

 

ヒートポンプによる夜間冷房

 

ヒートポンプは、燃油高騰に伴う暖房用動力光熱費の削減や、化石燃料削減による温室効果ガス排出用削減、さらに暖房だけではなく冷房や除湿の機能など、多目的な利用が可能な装置です。高温期の日中の冷房は能力的にも経済的にも難しいものがありますが、日射の無い夜間の冷房は、カーテンを展張し密閉保温状態の中であれば実現可能と言えます。特に熱帯夜での呼吸消耗を夜間冷房で低減することで、樹勢の維持による生育促進や品質向上の効果が期待されます。夜間冷房のためだけにヒートポンプを導入することはハードルが高いものですが、燃油高騰対策などで導入した暖房用のヒートポンプを高温期にも冷房用として利用することは合理的と言えるでしょう。周年課金される電力の基本料金負担を軽減する効果もあります。それでも冷房用に必要な電気料金は高額になるため、費用対効果を見定める必要があります。

 

今後の展開

 

冒頭でお伝えしたように、施設栽培での高温対策は、いくつかの方法を組み合わせ、効果を高める必要があります。特に遮熱材の塗布は取組みやすく効果も得られやすいため、他の換気や気化熱を利用した冷房などと組み合わせ、ハウス内温度を外気温よりの低下させた例もみられます。その一方で気候変動による異常気象の発生と猛暑の多発から、高温期の作物の栽培そのものが困難になっている状況もあります。そのため高冷地や北日本への産地の移動も今後は本格化することも考えられます。施設栽培は、本来は適地適作で行い、投入費用に対する効果が最大限に発揮されることが経営的に求められます。異常気象により適地範囲が狭まる中で、いかに施設栽培の経営を維持するかは、高温対策に拠る面が大きいと考えられるでしょう。

 

 

ホームページ「農業・施設園芸・植物工場の未来」もご覧ください

 

by 土屋農業技術士事務所 所長 土屋 和

 

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