「無人化農場」は必要か?

人手不足が深刻になり、パート従業員の募集をしても予定の人数がなかなか集まらない話しは施設園芸でも良く聞かれます。人手に頼らざるを得ない作業の多い施設園芸のボトルネックとなるのが人集めであり、また集まった従業員の作業能力向上です。未経験の従業員の作業能力は一般的に経験者の半分程度と言われており、特に農場の立ち上げ時には人も足りない、作業能力も足りない、さらに作業計画や作業指示もままならないという三重苦の状態が起こりやすいとも言われています。

 

無人化農場のイメージ

 

施設園芸の現場では、少ない人数で農場作業を回すように様々な工夫や取組がされており、作業の標準化、5Sの励行、ICTを利用した作業管理システムの活用などがあり、ようやく製造業の現場に近づいて来た感もあります。しかし人による作業を前提としたものではおのずと限界があり、また人が集まらない状態となると手の打ちようがありません。外国人技能実習を活用が施設園芸で進んでいることも必然かと思いますが、国際的な賃金格差の低下や、日本の賃金水準が相対的に低下傾向にあることから、外国人の来日と雇用について将来的な見通しも不透明な部分もあるかと思います。

 

製造業並みに機械化、自動化、省力化が進み、施設園芸の生産現場に人がいなくなる日が果たして来るものか、その対策として無人化を前提とした農場について考える必要があるのではと思います。生長し形が変わり、また環境の悪化でダメージを受けやすい植物を扱う施設園芸を、製造業と同列に扱うには無理な点も多いと思います。そこをあえて考えてみる、ということになります。

 

 

果実が露出したキュウリつるおろし栽培

 

画像は、果実が露出していつキュウリつるおろし栽培です。葉かきを十分行って株元の風通しを良くし、果実の視認性も高めることで収穫作業もやりやすい状態と思います。そして農場におじゃましキュウリの姿を見て、夜間に収穫ロボットが畝間を走行し果実を切ってコンテナに詰めて回る光景を想像しました。この農場の畝は100mもあって収穫作業を行って帰って来るのに何時間もかかるはずです。この長い畝をロボットが何台か分散し走行して収穫を行い、キュウリが満載されたコンテナを集積場に置きに戻り、また次の収穫に向かうことを誰もいない夜間にもくもくとこなすイメージです。収穫を容易にするため、葉かきも自動で行って残渣も清掃して回るロボットも別動隊として走行しています。あるいはロボット同士が協調動作をし、葉かき後に露出した果実を別のロボットが見つけて収穫を行うこともあるかもしれません。

 

葉かきと収穫だけであれば、この画像を元におおよそのロボットの動作がイメージできると思います。実際は果実と茎や他の果実が重なったりして、画像では判別できないケース、判別できても収穫動作には至らないケースなど、例外処置も数多く発生するでしょう。そうなると動作の歩留まりが低下し、ロボットの稼働率も向上せず、また人間の手作業による補佐も発生してしまうことでしょう。無人化農場の実現のためには、そうした課題をロボット開発とは別の視点で改善する必要がありそうです。

 

無人化農場への耕種側からのアプローチ

 

ロボットの動作と人間の手先作業の動作を比較すると、動作の許容範囲、作業上の調整範囲などは人間の冗長性は圧倒的に大きいと言われています。許容範囲の狭いロボットの動作では、いずれ人間による補佐が発生して実用化に結びつかない可能性が高くなるでしょう。歴史の長い接ぎ木ロボットの開発でも同様な課題があって、台木と穂木がサイズ的に合う範囲がロボットで接ぐ場合は狭いため、苗質を揃える必要があるということです。これは栽培側、耕種側からのアプローチと言えるでしょう。最近ではサイズが多少揃っていない場合でも、伸縮性のテープを使って接合面をギュッと縛るようにして止める方式も開発されており、ロボットにも冗長性を持たせる技術も生まれてはいます。

 

接ぎ木ロボットにおける冗長性の課題は、収穫ロボット、葉かきロボットなどでも同様にあると思われます。収穫の適合範囲を広くするため、斜め誘引を行い果実同士の重なりを少なくする方法、小葉に仕立てることで葉かき作業をしやすくする方法、節間を長く持たせ様々な重なりを少なくする方法、様々なアプローチが考えられます。またロボット走行をスムースにするための通路幅やコーナーの余裕なども、農場全体のレイアウトを調整することで保持できると考えられます。

 

いずれの方法も、耕種側からすれば従来のやり方を改めてロボットに合わせられたと感じられるかもしれません。しかし従来と同じ方法や環境において無人化農場を実現することは、おそらく不可能と思います。耕種側とロボット側の歩み寄りも必要であり、さらに歩み寄りを超え共通の目標に向けた協業に進めば実用化にも近づくのではないかと思います。

 

無人化農場の実現に向けて考えるべきこと

 

収穫と葉かきという、作業に占める割合が高いものに絞って考察をしてみましたが、その他にも搬送作業や管理作業(誘引、芽かき等)など多くの作業があります。また人間が発見し対処している病害虫防除についても、観察と伝達という作業があってのことで、そこでも無人化の余地はあるものと思います。

 

無人化というコンセプトはあまり語られることはなかったかもしれません。しかし人がかかわらないという前提で農場作業を進めるにはどうしたら良いか?という視点で、レイアウト、品種、栽培方法、仕立て方、果実品質、葉面積など、ゼロから見直してみれば、開発のポイントが浮き出てくる可能性もあると思います。夢物語に終わらせないために、柔軟にこうしたことを考えるべきと思います。

 

 

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by 土屋農業技術士事務所 所長 土屋 和

 

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南九州大学で環境園芸論の講義を行いました

宮崎県都城市にある南九州大学園芸環境学部にて、園芸環境論の講師をいたしました。2年生の環境園芸論の単位講座で、また公開講座として「スマート農業の視点ー施設園芸と環境保全」のテーマで90分の講義となりました。聴講生は50名ほど、また担当教官で環境フィールド科学センター長の山口健一教授のゼミからも多数の専攻生にも聴講いただきました。自分にとって、農業関連機関や企業向けセミナーでの講師経験はあるものの、大学での講義は初めての経験でした。

 

南九州大学環境園芸学部での講義


大学生に向けた次世代の施設園芸について

20歳前後の学生で、農業関係機関や企業への就職を目指す若者が聴講生でしたので、10年先、15年先の施設園芸のイメージについて、まず示しました。人口減少のスピード以上に農業や施設園芸の担い手高齢化が進む一方で、施設園芸面積の現状維持は難しく一層の減少も予想されること、さらに働き方改革の影響が及んで他産業での労働条件の改善と同様に対応を進めないと、雇用確保が難しくなること、こうしたマイナス要因についてです。

マイナス要因をカバーするには様々な形で生産性を上げなければならないこと、生産性の指標として施設面積当たり、労働時間当たり、エネルギー投入量当たりの各生産量があり、それらの向上策についての考え方を示しました。

スマート農業について

生産性を上げるための要素技術として環境制御があること、そのための計測制御機器類はセンサー、空調機器、カーテンや天窓の駆動装置など昭和の頃から実用化されたものが多いこと、最近ではヒートポンプやバイオマスボイラーなど多様化が進んでいること、施設の大型化に従い計測制御点数も増え、制御装置もPCやクラウド経由での操作に変わってきたことなどを示しました。

スマート農業そのものには触れる時間はありませんでしたが、生産性向上のためには環境、労働、エネルギーについて管理指標が必要であること、そのためにはデータにもとづく管理、すなわち見える化が重要であること、経験や勘から数値による管理やコミュニケーションが重要となることなどを示しました。

施設園芸と環境保全について

施設園芸で生産性を向上することは重要ですが、その一方で生産に伴う廃棄物が大量に発生することを示しました。植物残渣、培地、肥料分、廃プラスティック、そして化石燃料の燃焼にともなうCO2発生について示し、それらに対する環境保全策の基本的な考え方を示しました。

基本的な考え方には3Rとして、Reduce(減量)、Reuse(再利用)、Recycle(循環)があり、おのおのの実践例として、暖房における省エネ技術、プラスティックの再生利用、養液栽培での培養液循環システムなどを紹介しました。

CO2については、光、水とともに植物の光合成の原料となること、植物は呼吸に伴いCO2の発生もしていること、環境制御技術の中で半閉鎖系のハウス内でCO2濃度が低下した際に灯油等の燃焼などによりCO2を供給していることを示し、温暖化ガスと言われるCO2が施設園芸では様々な役割にあることを示しました。

実質70分程度の講義でしたが、前列で真剣にメモをとったり、興味がある内容に耳を傾ける聴講生もみられました。2年生には少し濃い内容であったかもしれませんが、次世代の農業、施設園芸を担う学生に、将来を見通した学習のポイントを伝えるための講義としたつもりです。講義の準備にご尽力をいただいた山口先生とゼミ生の皆様には、厚く御礼申し上げます。

 

 

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都市近郊農業の経営戦略と品目展開

千葉大学園芸学部蔬菜園芸学研究室が主催する勉強会の土葉会が先日開催されました。野菜関係の研究普及成果や実際の経営の情報などを千葉大学や関東近郊の関係者が報告する会で、今回で第329回例会となる長寿の勉強会です。今回はシンポジウムとして「都市近郊農業の経営戦略と品目展開」として、貴重な講演を聞くことができました。

 

目次 

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世界都市農業サミットin練馬

世界都市農業サミットが練馬区などの主催で開催され、世界の都市農業の報告がされるという貴重な場で、うち生産販売分科会に参加しました。一言で都市農業と言っても様々な形があり、それぞれの課題解決の手段としても取り組まれていましたので、その一部をお伝えしたいと思います。
 

 



練馬での都市農業の報告

 渡戸さんという1.3haで年間30種の野菜、うち江戸東京野菜の10種を栽培、庭先販売中心に行う生産者からの報告がありました。出荷形態が他にも市場出荷、JA直売所、レストラン飲食店向けと多様なのが都市農業の特徴であること、物流費低減や鮮度などのメリットと、品揃えのための多品目栽培で農閑期がないデメリットなどがあること、しかし消費者にとっても多様な販売形態があることが都市農業の特徴であることを言われました。また他に都市農業の価値として、加工による付加価値向上、農業の魅力の発信、農業のコミュニティーの構築、災害時に農地でできることなどをあげられました。

 特に加工についてはレストランや菓子店などのつながりが強く、そうしたプロを通じて地元野菜の情報発信や利用がされている事例も報告されていました。しかしスーパーなどでの地元産野菜の販売は実態としてまだまだとの意見もありました。また2015年に都市農業を振興する法律が制定されてから、都市に農地を残す政策が動きだして、練馬には200ha以上の農地があるとのことで、特に都心の農業経営では後継者のいる割合も8割程度と高く、若い生産者が多いのも特徴でした。

 京都の生産者も仲間の一人として登壇され、京野菜の生産から個別訪問販売(行商による顧客を200件)の紹介もありました。この先、東京と京都の生産者の連携があるかどうかですが、販売面での取り組みもいろいろな形で出てくるとの印象でした。またこれから先、遠隔地の農業と都市農業の連携も何か出てこないものかと思った次第です。


ニューヨークのCSA(地域支援型農業)の報告

 NYからNPO活動による60エーカーの有機栽培農園でのCSA(Customer Supported Agriculture)の取り組み報告がありました。CSAは農家を支援する会員が会費を先払いし、販売先を確定して生産を行う形態の農業のことです。会員25名からスタート、3年目で100名になり、また職場向けのCSAを作り、職場に収穫物を送り受け取る仕組みを作ったとのことです。野菜以外にも蜂蜜、果物、家畜にも取り組み、様々なイベントやオフィスに加工品を持ってまわるなどの活動も進め、農家によるオフィス訪問、農場への招待、持ち寄りパーティーなどの企画の紹介もありました。こうした活動の背景にはオンライン販売などとの競合があるそうです。

 メンバーにニュースレターを送り、ユニークな野菜への紹介とレシピを教えているとのこと。データも大切にし、CSAシーズン後にアンケートを送り、半数が初めてのメンバー、また半分以上が女性(20-30台半ば)で、レシピを得られること、新鮮なこと、オフィス配達の利便性が良いとのことを会員が評価しているとのことでした。

 つぎに、子供たちに健康で独立した食習慣を教え、特に若い頃から教えることの重要ということで、ファーストフード中心の生活を改め、料理の基本を教え、種まきから収穫、調理までを体験させ、またコミュニティー作りも教えることで、次の世代にも農業や食について伝えることができるとのことでした。このNPO活動はビジネスとしても成り立つよう工夫されていますが、子供の食生活改善というミッションのための活動をCSAを絡ませながら行っていることが特徴でした。そして食を中心に生活の基礎、健康の基本、経済の基礎が回っていることも強調されていました。


ロンドン市の食料政策と農地拡大の報告

 ロンドン市の大ロンドン庁食糧政策係長の方から、900万人のロンドン市人口のうち300万人の貧困層に食料を届けるための都市農業政策の報告がありました。
 ロンドンの100マイル周囲での様々な流通経路を考えるに当たって、ロンドン周囲に保全されたグリーンベルト地帯があってこれを食料生産に用い、貧困層に食料を届ける流通経路の構築を始めたとのことです。

 「ロンドン食料戦略」を2年掛けて策定し、capital growthと呼ばれる生産拠点(農場)を 3000箇所を目標に設置し、20万人以上がその活動に関与し、うち20%が学生であるとのこと(スケールがかなり大きいプログラムです)、また若者の参加で犯罪率減少、プログラムを通じたコミュニティーの形成も進んでいるとのことです。拠点設置のためには土地所有者の特定から始める必要があったとのことで、ボックススキームというプロジェクトも進め、季節によって様々なボックス野菜を買える仕組みを設け、一般市民以外にも農家とシェフの契約なども進めて、50種類の契約野菜をレストランに配送し、メニューに生産者名を記載してPRも行い、農場スタッフにはボランティアを活用しているとのことでした。

 北西ロンドン地区では、拠点農場以外にも自宅庭で農産物生産する地元民がボックスに野菜を入れる仕組みがあり、また貧困地域にファームガーデンを作り栽培を行う仕組みもあるとのこと。さらに効果があったのは卸売りのための物流倉庫を建設し、ロンドン郊外農地から一箇所にアクセスできる物流網も構築したこととのことでした。これだけ聞くと大きなビジネスを行政が行っているように思えますが、郊外に生産拠点を広めることで、環境面に配慮した生産を高め、おいしく栄養価の高い野菜を配布できる仕組みを構築したと言われていました。

 グリーンベルトでの農地拡大の取り組みの日本への応用はどうか?との会場からの質問に対し、大ロンドン庁の係長の方は、「練馬では農地の保全に成功していると思うし、それを長期的な観点でさらに成功するよう取り組む必要がある。土地の所有者の特定が重要。」と行政マンらしい回答をされていました。


ジャカルタの街中水耕葉菜栽培の報告

 ジャカルタの主婦の方から、狭い土地(住宅地)で政府と協力し「緑の路地プロジェクト」を始めたことの報告がありました。壁面を使った野菜栽培(屋外設置での4段式水耕栽培、レタスや空心菜などの葉菜の月1回収穫)を壁や柵にパイプを張り巡らし培養液を流して行っていること、自宅用の野菜生産と販売のための野菜生産を兼ね、夕方に主婦が作業を行っていること、バザーでの販売や、市民向け教育活動、チンゲンサイ加工品、パクチー栽培。緑豆のジュース加工など、広大な土地が不要な都市農業を報告されました。

 画像を見る限り、下町の塀そのものが、水耕栽培のパイプになって、樹木のかわりに葉菜類が栽培されている様子で、見たことのない世界でしたが、ジャカルタの主婦の創意工夫が感じられ、大変おもしろい報告でした。


都市農業の多面的機能

 他にもいくつかの報告がありましたが、どれも経済活動だけではなく、地産地消、食料安定供給、食育、農商工連携といった農林水産省の施策をすべて飲み込んでいるような活動内容であり、都市農業の様々な多面的機能を発揮しているものでした。食は生活や教育、経済活動の基本であり、生産者はそうしたアクティビストにもなりうるという印象を受けたサミットでした。規模だけでは無い農業の強さも感じられ、またそれらを支える関係者の活動にもスポットが当てられたと思います。

 

練馬区が中心に運営されたサミットでは同時並行で3つの分科会があり、私が参加した分科会では日英韓とインドネシア語の同時通訳(韓国語とインドネシア語の同時通訳までされていました)もあるなど、かなり入念に準備されていたようです。関係の皆様のご努力にも感謝申し上げます。


世界都市農業サミット

https://www.city.nerima.tokyo.jp/kankomoyoshi/nogyo/summit.html


 

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ハウスの強風対策に必要なこと

強風対策とハウス補強の研修
 

 

強風で倒壊した鉄骨ハウス(画像提供:防災科学技術研究所 横山仁氏)

 

 

 

先日、西日本のある県でパイプハウスの強風対策について、研修講師をいたしました。農林水産省の補助事業の一環として、自然災害に対する園芸施設の強靱化等の対策のため、生産者や関係機関向けに研修が各都道府県で行なわれています。こちらでも計4回、県内各地で研修がされています。施設そのものへの補助ではなく、研修を行って啓蒙する点で従来と異なる趣旨の事業と言えるでしょう。

強風被害の発生要因と対策

パイプハウスや鉄骨ハウスでの気象災害の対策は古くからあって、その基本は変わらないものです。園芸施設の構造設計分野の草分けである千葉工業大学の羽倉先生が書かれた、強風に対しての施設の変形状況や補強材の組み方に関する図は、今でも施設園芸関係のハンドブックに掲載されています。

最近では、農研機構で同分野の研究や調査を精力的にされている森山英樹さんが、昨今の被害状況についてまとめられた報告や論文を多数されています。施設の形状や立地条件の多様化により、被害状況にも様々なバリエーションがありますが、強風による正圧と負圧、そして隙間からの風の侵入による施設内部からの圧、この3つが強風による被害要因として大きくは分類がされています。

その他、雨水浸透などによる地盤の緩み、構造材の腐植や劣化なども加わり、複合的な要因も発生しますが、強風という気象現象とハウス構造物への物理的被害には決まったパターンがあり、おのおのに補強などによる対策も示されてきています。

静岡県の公表資料

平成24年に公表された静岡県の強風対策に関する資料(施設園芸における 台風・強風対策マニュアル)は大変良く整理されたもので現時点でも十分に参考になるものです。この資料の検討にあたっては前述の森山さんも加わっており、またオブザーバーにハウスメーカーの方も加わって実際の補強資材による対策も示されています。静岡県は7年前のものにもかかわらず、現在も公開を続けられており、おそらく全国的にも参照されているものと思います。

知識と情報の重要性

そうした資料には具体的な補強対策や強風時、強風前の注意点、チェックリストなどが掲載されています。経費や手間は発生しますが、いずれも事前に対応可能なものでしょう。また強風や台風の発生や強度についても、事前の予報や警報が利用でき、ある程度の時間的猶予の中での対処も可能な時代となっています。自然災害多発の時代と言われる中、知識と情報が災害対策の基本のひとつと言えるでしょう。

 

 

 

 

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人工光型植物工場と太陽光型植物工場の葉菜生産

青山浩子さんの「人工光型植物工場の現状と展望〜市場拡大が野菜生産に与える影響は〜」

 

農業ジャーナリストで、新潟食料農業大学非常勤講師の青山浩子さんが、農畜産業振興機構(Alic)発行の野菜情報2019年11月号の巻頭「話題」欄に、「人工光型植物工場の現状と展望 〜市場拡大が野菜生産に与える影響は〜」を執筆されました。

 

日本施設園芸協会が(株)三菱総合研究所に委託し行っている「大規模施設園芸・植物工場 実態調査・事例調査」をご参考にされ、また一部で取材に協力させていただき、私のコメントも掲載していただきました。ありがとうございました。

 

人工光型植物工場を経営される法人の組織である植物工場産業協会の稲田代表理事や、太陽光型植物工場で大分空港の近くでレタス生産をされるウーマンメイク(株)の平山社長のコメントも掲載され、広く取材をされた記事ですので、ぜひご覧になられてください。

 

ウーマンメイクでの太陽光型植物工場による葉菜類生産の展開

 

ウーマンメイクさんは、お隣の宮崎県や福岡県で導入されていたDFTと統合環境制御を組み合わせた生産性が非常に高い設備での周年レタス生産をされており、また空港至近の地の利から航空便での関東圏へのフレッシュな出荷をされています。記事ではこうした遠距離出荷の他にも地場でも引き合いも強く、今後の増設計画の中でレタス以外の品目展開もはかりながら、地元への営業対応も進める意向を示されています。平山社長とは何度かお会いしたことがあり、また地元大分県で開催された次世代施設園芸フォーラムでの講演をお願いしたことがあり、全国的に注目される女性経営者でもあります。

 

ウーマンメイク(株)の施設全景 (九州農政局ホームページより http://www.maff.go.jp/kyusyu/portal/toprunner/1812_woman.html )

 

現在は3000屬箸いΨ茲靴涜腓くはない規模での経営ですが、すでに確立された栽培技術、生産体制、出荷体制をベースに次の展開を準備されていることを大変心強く感じました。稲田代表理事の植物工場産業協会のメンバーは人工光型植物工場の比較的規模の大きい法人が多く、今後は生産量増大と価格競争の時代に進んでいくものと思われます。平山社長もバッティングのケースが増えていると記事では述べていますが、いかにバッティングを回避し、地域の中で顧客を定着させるかが、物流費の高騰、人件費や資材費の高騰の中での生きるすべになっていくのではないかと思います。

 

地域流通と広域流通の使い分け

 

最近の日産数万株といった巨大なスケールでの人工光型のレタス工場では、もはや地場流通で消化しきれる規模では無くなっているものと思われます。おそらくレタス単一の販売では、様々な販路を持ち、また運賃コストをある程度は掛けながらの広域流通を行う必要もあるかと思われます。しかし地場にマーケットがあれば、地域密着型の生産販売にも取り組む必要があります。それは物流費の低減、鮮度向上、顔の見える野菜への安心感、地域雇用創出など多面的な機能と効果があるためです。また人工光型植物工場に比べ、太陽光型植物工場では品目展開も比較的容易であり、生産ラインの細分化や組み換えをしながら小ロットに対応することもある程度は可能と考えられます。セット商材の提案、きめ細かなラインナップの提案など、地場に対応した生産販売の仕組みも、まだまだ可能性があるように思われます。人工光型植物工場と太陽光型植物工場は、おのおのの特徴を生かし発展していくことが望まれます。

 

 

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新規開業技術士支援研究会で報告をしました

技術士の集まりである公益社団法人日本技術士会では、会員のグループ活動として、技術士の様々な部門を越えた各種活動を公認しています。そのグループのひとつである「新規開業技術士支援研究会」で報告をいたしました。この研究会の母体は「技術士協同組合」といって、1976年設立の文部科学省認可の事業協同組合という歴史のある組織です。

 

企業内技術士が多い中で、独立して自営することが本来の技術士の業務であり、そのため高い倫理観と中立性を保つことをモットーとした集まりとなっています。実際は自分のように独立までしていない技術士や、現役のサラリーマン技術士も多く、先輩技術士と新米や新規参入者との交流や情報伝達の場として、この研究会が開催されています。毎月第一月曜日の午後に1時間半程度の時間で、ベテランと新米といった組み合わせで2名の報告を行うことが定例になっています。

 

技術士事務所の開業と板木利隆先生

 

自分の場合、技術士を目指したのも、また実際に技術士事務所の開業を目指したのも、先月90歳で亡くなられた板木利隆先生(板木技術士事務所所長)というメンター技術士の存在がありました。板木先生の長年の実績やご功績に比べるべくもない自分ですが、そうした存在があってこその開業であり、また板木先生が残された言葉を折につけ思い出しています。板木先生の二つの言葉について、今回の報告でもご紹介したのですが、この場で繰り替えしてみます。

 

「技術士試験は他流試合」

 

12年前になりますが、初めて農業部門の技術試験を受けようと板木先生に相談をした際に、この言葉をいただきました。当時もほとんどの技術士試験受験者が企業内技術者や公務員技術者であって、組織内での技術業務が中心であったものの、板木先生は「国家資格試験である技術士試験では組織の壁を越えて実力を評価される試験」として受験に臨む心構えを言われました。おそらく板木先生は、「技術士資格を取ることで組織を超えより広い分野で活躍できる」ということを伝えられたのだと今でも思います。

 

「技術者は書くことが大切」

 

今年の2月に板木先生の自伝的著書「九十歳野菜技術士の軌跡と残照」の出版記念パーティーが開催されました。生涯で36冊の著書を出されたことについて「技術者は書くことが大切で、技術的なことについて言葉で伝えても、そのたびに内容が異なっては正確には伝わらない。特に技術的な内容については書いて記録にとどめること。」と言われました。このブログもその一つではありますが、人に伝えたいことはなるべく書き留め、また重要なことは繰り返し書き表し、多くの方にお伝えするのが技術者、特に技術士の務めであると、板木先生の言葉から考えています。

 

技術士協同組合の森田理事長

 

現在、技術士協同組合を率いているのは、機械部門の技術士である森田祐之理事長です。森田理事長は著書「技術士 独立・自営のススメ」を同組合のメンバーと出版をされ、技術士資格は本来は独立自営の技術士向けのものであること、その差別化のポイントは中立性であり、高い倫理観であることを述べられています。この考え方は技術士協同組合の設立趣旨そのものであり、独立自営の技術士が業務を得る際に絶対に必要なこととされています。持続性の高い業務、環境など社会的な影響を考えた業務に対するには、この二つのポイントは外せないことです。この日も森田理事長の前での発表で大変緊張をしましたが、会の最後で「技術士を派遣する会社を通じて業務を行うべきではない。ピンハネをされることになる。独立した技術士は自分で仕事を取ってくる気概を持っていただきたい。」と強い言葉で締められていました。

 

技術士協同組合 森田理事長著「技術士 独立・自営のススメ」

 

その他にも、独立自営の技術士を志す際に「徹底した自己分析」、「先輩技術士の観察」、「自分のリソースの確認」の3つを行うことを森田理事長は著書で述べられています。この日の報告でも3つについて自分なりに経過や結果をお伝えしましたが、技術士業務を行う際に顧客に何を提供できるか(リソース)、どのようなサービスで提供できるか(自己分析)、他の技術士との違いや共通性はどんなものか(先輩技術士の観察)について、これからも思いめぐらす必要があると考えています。

 

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by 土屋農業技術士事務所 所長 土屋 和

 

 

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大規模施設園芸の次の展開

大規模施設園芸の運営や経営についてのフォーラムを開催していました。ヘクタール規模の施設を数年かけ立ち上げてきた法人の様々な事例の紹介があり、また終了後の交流会でも次の展開についての様々な意見を伺うことができました。

 

大規模施設園芸についてのフォーラムの開催

 

大規模施設園芸の運営では、数十名から百名単位での雇用があり、人集めとその育成、効率的な働き方など、従来の施設園芸では見られなかった新たな課題が発生しています。栽培技術だけでは解決できない大規模経営での課題についての様々な対処について、有意義な報告や意見交換がみられました。

 

大規模施設園芸での管理者能力

 

栽培管理や収穫の自動化が遅れている施設園芸では人の手に頼ることが多く、労働集約的な側面が色濃くあります。これは稲作や畑作との大きな違いで、人的資源に対する投資やフォロー、ケアが重要な業種であると考えられます。また最低賃金の上昇や地域的な労働不足によって、他業種との競合が進み、なかなか人手が集まらない状況が顕著になっており、労働生産性向上が一層求められ、さらに働く側からの要求にもとづいた職場環境作りも必要とされています。

 

フォーラムで報告のあった法人経営体の多くがゼロからのスタートであり、管理者側も作業を行うパート従業員側も施設園芸での農作業自体に不慣れな面が多く、当初は様々な試行錯誤があったようです。作業が安定化するまでには時間を要し、作業の標準化や体系的な教育などの確立には数年がかかっています。その数年の間にパート従業員の技能を向上させ、また指導や管理を行う側も管理能力を身に付け成長する必要がありますが、フォーラムでは管理側の成長についての報告がいくつか見られました。

 

数ヘクタール規模の大規模施設園芸では数名の管理者が必要で、ブロック分けをし分担する形になります。そこでの管理の標準化や平準化がポイントになるようです。管理者間での情報共有やノウハウの共有が円滑となるよう、施設レイアウトも標準化したり、作業情報や環境情報を一元管理できるようなハードソフトを整備することなどがあげられました。管理者は社員として採用され、栽培技術を身に付けながら作業管理技術も身に付ける必要があり、栽培、植物、環境、作業といった様々なデータを扱う職種と言えます。総合的な情報管理能力と判断能力が求められますが、最後はパート従業員に対しての指示や指導に落とし込む必要もあり、コミュニケーション能力も求められます。フォーラムでは、管理者同志のグループ活動での成長についての報告も見られました。孤立した状態での成長はなかなか難しいことが伺え、お互いに切磋琢磨し、励ましあうことも必要と思われました。

 

大規模施設園芸の次の展開

 

フォーラム終了後の交流会での専門家との意見交換の中で、このような管理者の育成に成功することで、次の展開へが容易になることがあげれられました。ゼロから大規模施設を立ち上げる際には管理者の存在が重要であって、その経験を積んだ社員の有無がキーポイントになるということです。おそらく立上げ業務にはマニュアル化できる面とできない面があって、特にパート従業員とのコミュニケーション能力については、現場経験の中で磨かれるものであることでしょう。またマニュアル化が可能な各種データの分析や計画立案等についても、実際の植物栽培や作業管理の経験と試行錯誤の中で能力が磨かれるものと思われます。

 

大規模施設園芸といっても数ヘクタール規模の経営では、従来の農協などの出荷組織に比べれば小規模であり、販売力を高めるためには一層の規模拡大が必要との意見も聞かれました。次の展開を考えた場合、経営規模の拡大が求められるでしょうが、そこで必要とされるのは資金力や土地条件などの他、新たな立上げメンバーや管理者ということになります。フォーラムで報告のあった法人経営の多くでは、そうした人たちの育成に成功しており、次の展開へのきっぷを手にしたものと考えられます。

 

個人的な意見でありますが、この分野での人的資源への投資は非常に効果が高いと感じています。大規模経営の立上げにつまづくと、累積的な損失につながって経営への影響も大きくなりがちです。その点を回避するためにも、計画的な人材の育成や現場での能力向上を先行投資的に進めることが必要と思います。設備投資額が巨額となる大規模施設の展開をリスクを低減しながら進めるためにも、人に焦点をあてた施策がこれからも求められると、フォーラムを終え改めて感じたところです。

 

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by 土屋農業技術士事務所 所長 土屋 和

 

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ロボットの開発と導入への課題

本日から幕張メッセ(千葉市)で農業系展示会が開催されています。植物工場、スマート農業関係の展示が相変わらず目につきますが、すでに実績のあるもの、ベンチャー企業の参入など、様々な展示がみられました。その中で以前のブログでご紹介した「アスパラガス収穫ロボットの提供サービス」の展示が本日行われていました。

 

収穫ロボットの現物展示

 

アスパラガスの収穫ロボットの実演

 

inaho社の展示ブースでは画像の収穫ロボットの実演がされていました。ロボットの現物が動くのを見たのは初めてですが、土壌に埋めたアスパラ(購入したものだそうです)に向けて自動的にアームが動き、アームの先のハンドリング部分でアスパラを挟んで切断、そのまま収穫コンテナに運ぶまでを一連の動作として行っていました。実際のアスパラとは長さや硬さなどが多少異なるとは思いますし、障害物も無い状態での実演でしたが、デモンストレーション効果の高い展示であったと思います。

 

以前からのアナウンスの通り、製品の販売ではなく、サービスの提供による事業化を行うということで、現在は佐賀県の生産者圃場(ビニールハウス内)にて実証とソフトウエア改良を進めているようです。画像のアームの両側に黒い縦長のパーツが見えますが、これらはカメラでアスパラの芽を見分ける役目を担っています。またロボット自体で収穫量の計量、収穫箇所と収穫予定箇所の位置情報や数量の記録なども行っているようです。ビジネスとしては出荷金額に対する一定比率での課金モデルを取るとのことで、初期費用の負担を無くし、またハードウエアの改良にもいち早く対応できるようにするとのことです。

 

ロボットと栽培の歩み寄り

 

展示ブースでは、各国の収穫ロボットや機械類(対象はリンゴ、地這いトマト、ジャガイモ、葉物、パプリカ、トマトなど)の現物や開発状況の紹介が動画で行われました。パプリカとトマト以外は実用化されたものでしたが、オランダのパプリカ収穫ロボット、中国のトマト収穫ロボットは試験途中の様子でした。いずれも果実と葉や茎が重なり合うもので空間での果実の認識を行い、また果実の色付も様々で収穫適期の判断をロボットが行う必要があるようでした。プレゼンターの方によると、ロボットの動作に合った作物の仕立て方が検討されているとのことで、ロボットが活動しやすい環境を整備してロボットの動作の効率性を高める工夫が求められているようでした。品種も含めロボットへの歩み寄りが栽培側に求められている、それだけ果実の収穫ロボットの実用化にはハードルがあるように伺えました。

 

ハードルが高いにせよ、栽培側とロボット開発側が歩み寄ることで、いずれ将来には実用化がされると思います。そこに至るまでどれだけの予算や期間が投入されるのか、また実用化製品の機能や価格がどの程度になるのかはまったく分かりません。しかし早期に実用化をはかるためには、やはり栽培側からの歩み寄りは重要と感じた次第です。

 

ロボットの目はカメラだけか?

 

アスパラ収穫ロボットの展示ブースを離れ、会場を回っている中で野菜の育苗業界の方とお話しする機会がありました。その方の会社では野菜の接ぎ木苗の生産を行っており、過去には接ぎ木ロボットの導入を試みたものの、現在は滞っている様子でした。アスパラのロボット収穫に比べると、野菜の接ぎ木苗のロボットによる接ぎ木作業はデリケートなものと思います。現状の接ぎ木ロボットでは、接ぎ木作業前に苗(穂木と台木)の選別を行い、大きさや太さが適合する穂木と台木通しを接ぎ合わせる方法が取られつつあります。そこではアスパラ収穫ロボットと同様にカメラ入力と画像処理で苗の選別を行うケースもありますが、カメラでは感じ取れない苗の微妙な固さや太さによって、穂木を台木を接ぎ合わせた後の接ぎ木の成功率が異なることもあるようです。また人間の手先による接ぎ木作業では、微妙な苗質の違いに合わせ、なお微妙に接ぎ木作業を調整することもあると思います。

 

治具を使用した手作業によるキュウリの接ぎ木

 

苗の微妙な固さや太さをロボット側が感知し、さらにそれらに合わせた微妙な接ぎ木作業を行わせることは、難易度が高そうに思われます。それだけ人間の感覚や手先作業には幅があり、また調整機能も備わっていると言えるでしょう。収穫ロボットに対して栽培側が歩みよることが、接ぎ木ロボットと育苗側にも考えられるかと言えば、なかなか難しいことなのかもしれません。国内で苗に求められる品質は極めて高いものがあり、また苗質による生育や初期収量の差も大きいものがあります。苗質を変えてまで接ぎ木ロボット側に歩み寄ることは考えずらいのかもしれません。昭和の末期から進められている接ぎ木ロボットが人間の代りとなるためには、次の開発のハードルを越える必要もありそうです。

 

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by 土屋農業技術士事務所 所長 土屋 和

 

 

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新たなトマトのウイルス「ToBRFV」について

千葉大学大学院園芸学研究科の丸尾達先生が、農耕と園芸2019年秋号に「植物工場向けの品種開発の現状ー植物工場を活用した育種の有効性ー」をご執筆されています。その中で新たなトマトのウイルスとして、Tomato brown rugose fruit virus(ToBRFV)に触れられています。ToBRFVの日本語名は定まっていないようですが、果実が褐変し変形(しわ)することが特徴で、直訳すれば「トマト褐色しわ果実ウイルス」と言ったところでしょうか。抵抗性品種の育成や化学的防除方法は確立されていないようで、罹病株の撤去や発生箇所の隔離、人を通じた伝播防止といった物理的防除に頼る状況と推察されます。ToBRFVのトマトにおける発症の画像はこちらになりますが、褐変や変形の激しい症状が特徴と言えるでしょう。

 

 

トバモウイルスとToBRFV

 

ToBRFVはトバモウイルス属のウイルスの一種で、農研機構の久保田健嗣さんの「抵抗性打破能を有するトマトモザイクウイルスの 近年の発生 」によると、トバモウイルスの特徴を「ウイルス粒子は感染植物体内で高濃度に蓄積し,粒子の物理的安定性も極めて高い。 このような性質から,圃場でいったん発生すると,摘心作業などにおいて汁液伝染により容易に感染が拡大する。また,感染植物残渣が土壌中に残ることによって長期にわたって残存し,次作に苗を定植した際に根部の傷口から感染する。」と記されています。また種子伝染についても触れられていますが、伝染性が強いことがうかがわれます。圃場でのハサミを使った作業、植物を触る作業、残渣などを通じ伝染しやすく、また長期にわたり残存することで、根絶するにはやっかいなウイルスと思われます。

 

 

世界のToBRFVの状況

 

ToBRFVが最初に確認されたのは2015年にヨルダンの温室においてと言われています。またEUの関連機関「ヨーロッパ・地中海植物保護機構」、European and Mediterranean Plant Protection Organization(EPPO)では、全世界のToBRFVの発生分布をデータベースとして提供しています。発生マップ(下記の世界地図)、および最新の情報(2019年10月2日現在 表:全世界のToBRFVの発生分布))をダウンロードしてみました。

全世界のToBRFVの発生分布(EPPO Database) 赤丸:存在、黄色丸:一時的

 

 

表:全世界のToBRFVの発生分布(EPPO Database 2020/10/2)

continent country state Status
America Mexico Present, restricted distribution
America United States of America Absent, pest eradicated
America United States of America California Absent, pest eradicated
Asia China Present, few occurrences
Asia China Shandong Present, few occurrences
Asia Israel Present, no details
Asia Jordan Present, no details
Europe Belgium Absent, invalid record
Europe Germany Absent, pest eradicated
Europe Italy Present, restricted distribution
Europe Italy Sicilia Present, restricted distribution
Europe Netherlands Absent, unreliable record
Europe Turkey Present, few occurrences
Europe United Kingdom Transient, under eradication
Europe United Kingdom England Transient, under eradication

 

この表の右列(Status)には、Present(存在)、Transient(一時的)、Absent(なし)の状況が示されています。中国山東省では数例の存在があるとされています。またオランダでは信頼できない記録としながら、なしとされています。

 

 

ToBRFVに関する最新の情報

 

「Tomato news」の2019/9/12付の記事「ToBRFV: Quarantine status in effect from 1 November 11月1日よりToBRFVの検疫を有効化」では、ToBRFVの感染についてEUでは加盟各国の機関に報告義務が課せられるとのことのようです。記事では過去にドイツの企業での感染において根絶例があったとの記載も見受けられます。また未発症国からの圧力で検疫体制を強化との記載も見受けられます。記事には滅菌のためのコンテナ型蒸気消毒装置なども紹介されており、対策が打たれている様子もうかがえます。正確な情報がなかなか分からないところでありますが、このようなWEBサイト上の情報や、EUの公的機関の発表などを参考にしながら、国内においても警戒を怠らない必要があると思われます。

 

 

引用文献 久保田健嗣, 抵抗性打破能を有するトマトモザイクウイルスの 近年の発生, 植物防疫 70(12), 797-800, 2016-12

参考文献 丸尾達、植物工場向けの品種開発の現状ー植物工場を活用した育種の有効性ー、農耕と園芸(1099)、30-34

 

 

 

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by 土屋農業技術士事務所 所長 土屋 和

 

 

 

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