ハウスの強風対策に必要なこと

強風対策とハウス補強の研修
 

 

強風で倒壊した鉄骨ハウス(画像提供:防災科学技術研究所 横山仁氏)

 

 

 

先日、西日本のある県でパイプハウスの強風対策について、研修講師をいたしました。農林水産省の補助事業の一環として、自然災害に対する園芸施設の強靱化等の対策のため、生産者や関係機関向けに研修が各都道府県で行なわれています。こちらでも計4回、県内各地で研修がされています。施設そのものへの補助ではなく、研修を行って啓蒙する点で従来と異なる趣旨の事業と言えるでしょう。

強風被害の発生要因と対策

パイプハウスや鉄骨ハウスでの気象災害の対策は古くからあって、その基本は変わらないものです。園芸施設の構造設計分野の草分けである千葉工業大学の羽倉先生が書かれた、強風に対しての施設の変形状況や補強材の組み方に関する図は、今でも施設園芸関係のハンドブックに掲載されています。

最近では、農研機構で同分野の研究や調査を精力的にされている森山英樹さんが、昨今の被害状況についてまとめられた報告や論文を多数されています。施設の形状や立地条件の多様化により、被害状況にも様々なバリエーションがありますが、強風による正圧と負圧、そして隙間からの風の侵入による施設内部からの圧、この3つが強風による被害要因として大きくは分類がされています。

その他、雨水浸透などによる地盤の緩み、構造材の腐植や劣化なども加わり、複合的な要因も発生しますが、強風という気象現象とハウス構造物への物理的被害には決まったパターンがあり、おのおのに補強などによる対策も示されてきています。

静岡県の公表資料

平成24年に公表された静岡県の強風対策に関する資料(施設園芸における 台風・強風対策マニュアル)は大変良く整理されたもので現時点でも十分に参考になるものです。この資料の検討にあたっては前述の森山さんも加わっており、またオブザーバーにハウスメーカーの方も加わって実際の補強資材による対策も示されています。静岡県は7年前のものにもかかわらず、現在も公開を続けられており、おそらく全国的にも参照されているものと思います。

知識と情報の重要性

そうした資料には具体的な補強対策や強風時、強風前の注意点、チェックリストなどが掲載されています。経費や手間は発生しますが、いずれも事前に対応可能なものでしょう。また強風や台風の発生や強度についても、事前の予報や警報が利用でき、ある程度の時間的猶予の中での対処も可能な時代となっています。自然災害多発の時代と言われる中、知識と情報が災害対策の基本のひとつと言えるでしょう。

 

 

 

 

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by 土屋農業技術士事務所 所長 土屋 和

 

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人工光型植物工場と太陽光型植物工場の葉菜生産

青山浩子さんの「人工光型植物工場の現状と展望〜市場拡大が野菜生産に与える影響は〜」

 

農業ジャーナリストで、新潟食料農業大学非常勤講師の青山浩子さんが、農畜産業振興機構(Alic)発行の野菜情報2019年11月号の巻頭「話題」欄に、「人工光型植物工場の現状と展望 〜市場拡大が野菜生産に与える影響は〜」を執筆されました。

 

日本施設園芸協会が(株)三菱総合研究所に委託し行っている「大規模施設園芸・植物工場 実態調査・事例調査」をご参考にされ、また一部で取材に協力させていただき、私のコメントも掲載していただきました。ありがとうございました。

 

人工光型植物工場を経営される法人の組織である植物工場産業協会の稲田代表理事や、太陽光型植物工場で大分空港の近くでレタス生産をされるウーマンメイク(株)の平山社長のコメントも掲載され、広く取材をされた記事ですので、ぜひご覧になられてください。

 

ウーマンメイクでの太陽光型植物工場による葉菜類生産の展開

 

ウーマンメイクさんは、お隣の宮崎県や福岡県で導入されていたDFTと統合環境制御を組み合わせた生産性が非常に高い設備での周年レタス生産をされており、また空港至近の地の利から航空便での関東圏へのフレッシュな出荷をされています。記事ではこうした遠距離出荷の他にも地場でも引き合いも強く、今後の増設計画の中でレタス以外の品目展開もはかりながら、地元への営業対応も進める意向を示されています。平山社長とは何度かお会いしたことがあり、また地元大分県で開催された次世代施設園芸フォーラムでの講演をお願いしたことがあり、全国的に注目される女性経営者でもあります。

 

ウーマンメイク(株)の施設全景 (九州農政局ホームページより http://www.maff.go.jp/kyusyu/portal/toprunner/1812_woman.html )

 

現在は3000屬箸いΨ茲靴涜腓くはない規模での経営ですが、すでに確立された栽培技術、生産体制、出荷体制をベースに次の展開を準備されていることを大変心強く感じました。稲田代表理事の植物工場産業協会のメンバーは人工光型植物工場の比較的規模の大きい法人が多く、今後は生産量増大と価格競争の時代に進んでいくものと思われます。平山社長もバッティングのケースが増えていると記事では述べていますが、いかにバッティングを回避し、地域の中で顧客を定着させるかが、物流費の高騰、人件費や資材費の高騰の中での生きるすべになっていくのではないかと思います。

 

地域流通と広域流通の使い分け

 

最近の日産数万株といった巨大なスケールでの人工光型のレタス工場では、もはや地場流通で消化しきれる規模では無くなっているものと思われます。おそらくレタス単一の販売では、様々な販路を持ち、また運賃コストをある程度は掛けながらの広域流通を行う必要もあるかと思われます。しかし地場にマーケットがあれば、地域密着型の生産販売にも取り組む必要があります。それは物流費の低減、鮮度向上、顔の見える野菜への安心感、地域雇用創出など多面的な機能と効果があるためです。また人工光型植物工場に比べ、太陽光型植物工場では品目展開も比較的容易であり、生産ラインの細分化や組み換えをしながら小ロットに対応することもある程度は可能と考えられます。セット商材の提案、きめ細かなラインナップの提案など、地場に対応した生産販売の仕組みも、まだまだ可能性があるように思われます。人工光型植物工場と太陽光型植物工場は、おのおのの特徴を生かし発展していくことが望まれます。

 

 

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by 土屋農業技術士事務所 所長 土屋 和

 

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新規開業技術士支援研究会で報告をしました

技術士の集まりである公益社団法人日本技術士会では、会員のグループ活動として、技術士の様々な部門を越えた各種活動を公認しています。そのグループのひとつである「新規開業技術士支援研究会」で報告をいたしました。この研究会の母体は「技術士協同組合」といって、1976年設立の文部科学省認可の事業協同組合という歴史のある組織です。

 

企業内技術士が多い中で、独立して自営することが本来の技術士の業務であり、そのため高い倫理観と中立性を保つことをモットーとした集まりとなっています。実際は自分のように独立までしていない技術士や、現役のサラリーマン技術士も多く、先輩技術士と新米や新規参入者との交流や情報伝達の場として、この研究会が開催されています。毎月第一月曜日の午後に1時間半程度の時間で、ベテランと新米といった組み合わせで2名の報告を行うことが定例になっています。

 

技術士事務所の開業と板木利隆先生

 

自分の場合、技術士を目指したのも、また実際に技術士事務所の開業を目指したのも、先月90歳で亡くなられた板木利隆先生(板木技術士事務所所長)というメンター技術士の存在がありました。板木先生の長年の実績やご功績に比べるべくもない自分ですが、そうした存在があってこその開業であり、また板木先生が残された言葉を折につけ思い出しています。板木先生の二つの言葉について、今回の報告でもご紹介したのですが、この場で繰り替えしてみます。

 

「技術士試験は他流試合」

 

12年前になりますが、初めて農業部門の技術試験を受けようと板木先生に相談をした際に、この言葉をいただきました。当時もほとんどの技術士試験受験者が企業内技術者や公務員技術者であって、組織内での技術業務が中心であったものの、板木先生は「国家資格試験である技術士試験では組織の壁を越えて実力を評価される試験」として受験に臨む心構えを言われました。おそらく板木先生は、「技術士資格を取ることで組織を超えより広い分野で活躍できる」ということを伝えられたのだと今でも思います。

 

「技術者は書くことが大切」

 

今年の2月に板木先生の自伝的著書「九十歳野菜技術士の軌跡と残照」の出版記念パーティーが開催されました。生涯で36冊の著書を出されたことについて「技術者は書くことが大切で、技術的なことについて言葉で伝えても、そのたびに内容が異なっては正確には伝わらない。特に技術的な内容については書いて記録にとどめること。」と言われました。このブログもその一つではありますが、人に伝えたいことはなるべく書き留め、また重要なことは繰り返し書き表し、多くの方にお伝えするのが技術者、特に技術士の務めであると、板木先生の言葉から考えています。

 

技術士協同組合の森田理事長

 

現在、技術士協同組合を率いているのは、機械部門の技術士である森田祐之理事長です。森田理事長は著書「技術士 独立・自営のススメ」を同組合のメンバーと出版をされ、技術士資格は本来は独立自営の技術士向けのものであること、その差別化のポイントは中立性であり、高い倫理観であることを述べられています。この考え方は技術士協同組合の設立趣旨そのものであり、独立自営の技術士が業務を得る際に絶対に必要なこととされています。持続性の高い業務、環境など社会的な影響を考えた業務に対するには、この二つのポイントは外せないことです。この日も森田理事長の前での発表で大変緊張をしましたが、会の最後で「技術士を派遣する会社を通じて業務を行うべきではない。ピンハネをされることになる。独立した技術士は自分で仕事を取ってくる気概を持っていただきたい。」と強い言葉で締められていました。

 

技術士協同組合 森田理事長著「技術士 独立・自営のススメ」

 

その他にも、独立自営の技術士を志す際に「徹底した自己分析」、「先輩技術士の観察」、「自分のリソースの確認」の3つを行うことを森田理事長は著書で述べられています。この日の報告でも3つについて自分なりに経過や結果をお伝えしましたが、技術士業務を行う際に顧客に何を提供できるか(リソース)、どのようなサービスで提供できるか(自己分析)、他の技術士との違いや共通性はどんなものか(先輩技術士の観察)について、これからも思いめぐらす必要があると考えています。

 

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by 土屋農業技術士事務所 所長 土屋 和

 

 

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大規模施設園芸の次の展開

大規模施設園芸の運営や経営についてのフォーラムを開催していました。ヘクタール規模の施設を数年かけ立ち上げてきた法人の様々な事例の紹介があり、また終了後の交流会でも次の展開についての様々な意見を伺うことができました。

 

大規模施設園芸についてのフォーラムの開催

 

大規模施設園芸の運営では、数十名から百名単位での雇用があり、人集めとその育成、効率的な働き方など、従来の施設園芸では見られなかった新たな課題が発生しています。栽培技術だけでは解決できない大規模経営での課題についての様々な対処について、有意義な報告や意見交換がみられました。

 

大規模施設園芸での管理者能力

 

栽培管理や収穫の自動化が遅れている施設園芸では人の手に頼ることが多く、労働集約的な側面が色濃くあります。これは稲作や畑作との大きな違いで、人的資源に対する投資やフォロー、ケアが重要な業種であると考えられます。また最低賃金の上昇や地域的な労働不足によって、他業種との競合が進み、なかなか人手が集まらない状況が顕著になっており、労働生産性向上が一層求められ、さらに働く側からの要求にもとづいた職場環境作りも必要とされています。

 

フォーラムで報告のあった法人経営体の多くがゼロからのスタートであり、管理者側も作業を行うパート従業員側も施設園芸での農作業自体に不慣れな面が多く、当初は様々な試行錯誤があったようです。作業が安定化するまでには時間を要し、作業の標準化や体系的な教育などの確立には数年がかかっています。その数年の間にパート従業員の技能を向上させ、また指導や管理を行う側も管理能力を身に付け成長する必要がありますが、フォーラムでは管理側の成長についての報告がいくつか見られました。

 

数ヘクタール規模の大規模施設園芸では数名の管理者が必要で、ブロック分けをし分担する形になります。そこでの管理の標準化や平準化がポイントになるようです。管理者間での情報共有やノウハウの共有が円滑となるよう、施設レイアウトも標準化したり、作業情報や環境情報を一元管理できるようなハードソフトを整備することなどがあげられました。管理者は社員として採用され、栽培技術を身に付けながら作業管理技術も身に付ける必要があり、栽培、植物、環境、作業といった様々なデータを扱う職種と言えます。総合的な情報管理能力と判断能力が求められますが、最後はパート従業員に対しての指示や指導に落とし込む必要もあり、コミュニケーション能力も求められます。フォーラムでは、管理者同志のグループ活動での成長についての報告も見られました。孤立した状態での成長はなかなか難しいことが伺え、お互いに切磋琢磨し、励ましあうことも必要と思われました。

 

大規模施設園芸の次の展開

 

フォーラム終了後の交流会での専門家との意見交換の中で、このような管理者の育成に成功することで、次の展開へが容易になることがあげれられました。ゼロから大規模施設を立ち上げる際には管理者の存在が重要であって、その経験を積んだ社員の有無がキーポイントになるということです。おそらく立上げ業務にはマニュアル化できる面とできない面があって、特にパート従業員とのコミュニケーション能力については、現場経験の中で磨かれるものであることでしょう。またマニュアル化が可能な各種データの分析や計画立案等についても、実際の植物栽培や作業管理の経験と試行錯誤の中で能力が磨かれるものと思われます。

 

大規模施設園芸といっても数ヘクタール規模の経営では、従来の農協などの出荷組織に比べれば小規模であり、販売力を高めるためには一層の規模拡大が必要との意見も聞かれました。次の展開を考えた場合、経営規模の拡大が求められるでしょうが、そこで必要とされるのは資金力や土地条件などの他、新たな立上げメンバーや管理者ということになります。フォーラムで報告のあった法人経営の多くでは、そうした人たちの育成に成功しており、次の展開へのきっぷを手にしたものと考えられます。

 

個人的な意見でありますが、この分野での人的資源への投資は非常に効果が高いと感じています。大規模経営の立上げにつまづくと、累積的な損失につながって経営への影響も大きくなりがちです。その点を回避するためにも、計画的な人材の育成や現場での能力向上を先行投資的に進めることが必要と思います。設備投資額が巨額となる大規模施設の展開をリスクを低減しながら進めるためにも、人に焦点をあてた施策がこれからも求められると、フォーラムを終え改めて感じたところです。

 

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by 土屋農業技術士事務所 所長 土屋 和

 

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ロボットの開発と導入への課題

本日から幕張メッセ(千葉市)で農業系展示会が開催されています。植物工場、スマート農業関係の展示が相変わらず目につきますが、すでに実績のあるもの、ベンチャー企業の参入など、様々な展示がみられました。その中で以前のブログでご紹介した「アスパラガス収穫ロボットの提供サービス」の展示が本日行われていました。

 

収穫ロボットの現物展示

 

アスパラガスの収穫ロボットの実演

 

inaho社の展示ブースでは画像の収穫ロボットの実演がされていました。ロボットの現物が動くのを見たのは初めてですが、土壌に埋めたアスパラ(購入したものだそうです)に向けて自動的にアームが動き、アームの先のハンドリング部分でアスパラを挟んで切断、そのまま収穫コンテナに運ぶまでを一連の動作として行っていました。実際のアスパラとは長さや硬さなどが多少異なるとは思いますし、障害物も無い状態での実演でしたが、デモンストレーション効果の高い展示であったと思います。

 

以前からのアナウンスの通り、製品の販売ではなく、サービスの提供による事業化を行うということで、現在は佐賀県の生産者圃場(ビニールハウス内)にて実証とソフトウエア改良を進めているようです。画像のアームの両側に黒い縦長のパーツが見えますが、これらはカメラでアスパラの芽を見分ける役目を担っています。またロボット自体で収穫量の計量、収穫箇所と収穫予定箇所の位置情報や数量の記録なども行っているようです。ビジネスとしては出荷金額に対する一定比率での課金モデルを取るとのことで、初期費用の負担を無くし、またハードウエアの改良にもいち早く対応できるようにするとのことです。

 

ロボットと栽培の歩み寄り

 

展示ブースでは、各国の収穫ロボットや機械類(対象はリンゴ、地這いトマト、ジャガイモ、葉物、パプリカ、トマトなど)の現物や開発状況の紹介が動画で行われました。パプリカとトマト以外は実用化されたものでしたが、オランダのパプリカ収穫ロボット、中国のトマト収穫ロボットは試験途中の様子でした。いずれも果実と葉や茎が重なり合うもので空間での果実の認識を行い、また果実の色付も様々で収穫適期の判断をロボットが行う必要があるようでした。プレゼンターの方によると、ロボットの動作に合った作物の仕立て方が検討されているとのことで、ロボットが活動しやすい環境を整備してロボットの動作の効率性を高める工夫が求められているようでした。品種も含めロボットへの歩み寄りが栽培側に求められている、それだけ果実の収穫ロボットの実用化にはハードルがあるように伺えました。

 

ハードルが高いにせよ、栽培側とロボット開発側が歩み寄ることで、いずれ将来には実用化がされると思います。そこに至るまでどれだけの予算や期間が投入されるのか、また実用化製品の機能や価格がどの程度になるのかはまったく分かりません。しかし早期に実用化をはかるためには、やはり栽培側からの歩み寄りは重要と感じた次第です。

 

ロボットの目はカメラだけか?

 

アスパラ収穫ロボットの展示ブースを離れ、会場を回っている中で野菜の育苗業界の方とお話しする機会がありました。その方の会社では野菜の接ぎ木苗の生産を行っており、過去には接ぎ木ロボットの導入を試みたものの、現在は滞っている様子でした。アスパラのロボット収穫に比べると、野菜の接ぎ木苗のロボットによる接ぎ木作業はデリケートなものと思います。現状の接ぎ木ロボットでは、接ぎ木作業前に苗(穂木と台木)の選別を行い、大きさや太さが適合する穂木と台木通しを接ぎ合わせる方法が取られつつあります。そこではアスパラ収穫ロボットと同様にカメラ入力と画像処理で苗の選別を行うケースもありますが、カメラでは感じ取れない苗の微妙な固さや太さによって、穂木を台木を接ぎ合わせた後の接ぎ木の成功率が異なることもあるようです。また人間の手先による接ぎ木作業では、微妙な苗質の違いに合わせ、なお微妙に接ぎ木作業を調整することもあると思います。

 

治具を使用した手作業によるキュウリの接ぎ木

 

苗の微妙な固さや太さをロボット側が感知し、さらにそれらに合わせた微妙な接ぎ木作業を行わせることは、難易度が高そうに思われます。それだけ人間の感覚や手先作業には幅があり、また調整機能も備わっていると言えるでしょう。収穫ロボットに対して栽培側が歩みよることが、接ぎ木ロボットと育苗側にも考えられるかと言えば、なかなか難しいことなのかもしれません。国内で苗に求められる品質は極めて高いものがあり、また苗質による生育や初期収量の差も大きいものがあります。苗質を変えてまで接ぎ木ロボット側に歩み寄ることは考えずらいのかもしれません。昭和の末期から進められている接ぎ木ロボットが人間の代りとなるためには、次の開発のハードルを越える必要もありそうです。

 

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by 土屋農業技術士事務所 所長 土屋 和

 

 

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新たなトマトのウイルス「ToBRFV」について

千葉大学大学院園芸学研究科の丸尾達先生が、農耕と園芸2019年秋号に「植物工場向けの品種開発の現状ー植物工場を活用した育種の有効性ー」をご執筆されています。その中で新たなトマトのウイルスとして、Tomato brown rugose fruit virus(ToBRFV)に触れられています。ToBRFVの日本語名は定まっていないようですが、果実が褐変し変形(しわ)することが特徴で、直訳すれば「トマト褐色しわ果実ウイルス」と言ったところでしょうか。抵抗性品種の育成や化学的防除方法は確立されていないようで、罹病株の撤去や発生箇所の隔離、人を通じた伝播防止といった物理的防除に頼る状況と推察されます。ToBRFVのトマトにおける発症の画像はこちらになりますが、褐変や変形の激しい症状が特徴と言えるでしょう。

 

 

トバモウイルスとToBRFV

 

ToBRFVはトバモウイルス属のウイルスの一種で、農研機構の久保田健嗣さんの「抵抗性打破能を有するトマトモザイクウイルスの 近年の発生 」によると、トバモウイルスの特徴を「ウイルス粒子は感染植物体内で高濃度に蓄積し,粒子の物理的安定性も極めて高い。 このような性質から,圃場でいったん発生すると,摘心作業などにおいて汁液伝染により容易に感染が拡大する。また,感染植物残渣が土壌中に残ることによって長期にわたって残存し,次作に苗を定植した際に根部の傷口から感染する。」と記されています。また種子伝染についても触れられていますが、伝染性が強いことがうかがわれます。圃場でのハサミを使った作業、植物を触る作業、残渣などを通じ伝染しやすく、また長期にわたり残存することで、根絶するにはやっかいなウイルスと思われます。

 

 

世界のToBRFVの状況

 

ToBRFVが最初に確認されたのは2015年にヨルダンの温室においてと言われています。またEUの関連機関「ヨーロッパ・地中海植物保護機構」、European and Mediterranean Plant Protection Organization(EPPO)では、全世界のToBRFVの発生分布をデータベースとして提供しています。発生マップ(下記の世界地図)、および最新の情報(2019年10月2日現在 表:全世界のToBRFVの発生分布))をダウンロードしてみました。

全世界のToBRFVの発生分布(EPPO Database) 赤丸:存在、黄色丸:一時的

 

 

表:全世界のToBRFVの発生分布(EPPO Database 2020/10/2)

continent country state Status
America Mexico Present, restricted distribution
America United States of America Absent, pest eradicated
America United States of America California Absent, pest eradicated
Asia China Present, few occurrences
Asia China Shandong Present, few occurrences
Asia Israel Present, no details
Asia Jordan Present, no details
Europe Belgium Absent, invalid record
Europe Germany Absent, pest eradicated
Europe Italy Present, restricted distribution
Europe Italy Sicilia Present, restricted distribution
Europe Netherlands Absent, unreliable record
Europe Turkey Present, few occurrences
Europe United Kingdom Transient, under eradication
Europe United Kingdom England Transient, under eradication

 

この表の右列(Status)には、Present(存在)、Transient(一時的)、Absent(なし)の状況が示されています。中国山東省では数例の存在があるとされています。またオランダでは信頼できない記録としながら、なしとされています。

 

 

ToBRFVに関する最新の情報

 

「Tomato news」の2019/9/12付の記事「ToBRFV: Quarantine status in effect from 1 November 11月1日よりToBRFVの検疫を有効化」では、ToBRFVの感染についてEUでは加盟各国の機関に報告義務が課せられるとのことのようです。記事では過去にドイツの企業での感染において根絶例があったとの記載も見受けられます。また未発症国からの圧力で検疫体制を強化との記載も見受けられます。記事には滅菌のためのコンテナ型蒸気消毒装置なども紹介されており、対策が打たれている様子もうかがえます。正確な情報がなかなか分からないところでありますが、このようなWEBサイト上の情報や、EUの公的機関の発表などを参考にしながら、国内においても警戒を怠らない必要があると思われます。

 

 

引用文献 久保田健嗣, 抵抗性打破能を有するトマトモザイクウイルスの 近年の発生, 植物防疫 70(12), 797-800, 2016-12

参考文献 丸尾達、植物工場向けの品種開発の現状ー植物工場を活用した育種の有効性ー、農耕と園芸(1099)、30-34

 

 

 

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ビニールハウスの撤去作業について(災害ボランティアさん向け)

台風15号の施設園芸への被害は大きく、特にビニールハウス等の破損、倒壊が顕著のようです。被害面積は千葉県だけで479ha(9月26日発表)と膨大で、ガラス温室と合わせると500haを超えています。これは千葉県全体の施設園芸面積の1/3に近い数値と思われます。被害を受けた施設での営農再開には、全壊の場合に施設撤去が必要となり、人手が必要です。災害ボランティアの方などが現地に入られ撤去作業を行われることもあると思いますが、ある程度の知識が必要ですので簡単にご紹介したいと思います。安全には十分注意されてください。

 

突風で倒壊した鉄骨温室(茨城県 写真提供:防災技術研究所 横山仁氏 今回の台風15号被害とは関係はありません)

 

 

撤去作業のゴール

 

営農再開には、まず施設を撤去し廃材を処理する必要があります。ビニールハウス(以下パイプハウス)の材料は大きく分けて、ビニール等の「被覆資材」、構造材となる「金属パイプ(以下パイプ)」、取付のための「金属部材(以下部材)」があります。各材料を分別し、結束するなどしてまとめ、廃棄先に搬出することがゴールです。被覆資材は専用のリサイクル施設があり、また金属類もリサイクル可能です。撤去作業のゴールは、各部材を搬出可能な状態に分別し、とりまとめるところまでとなります。

 

 

パイプハウスの構造

 

アーチパイプと呼ばれる曲げたパイプを地面に50cm前後の間隔で挿して固定しています。アーチパイプ同士を直管パイプで連結補強し、そのほかに様々な部材を取り付け、さらに被覆資材をかぶせて固定しています。そのほかに妻面のドア、側面の巻き上げパイプなどもあります。概要はこちらの図が参考になります。

 

 

撤去作業の手順概要

 

作業手順の概要は以下の通りです。

1.被覆資材の撤去:ビニールを固定している部材をはずし、ビニールを撤去し、折りたたむ。

2.部材の撤去:パイプ同士などを連結している部材をはずし、金属パイプのみの状態にする。

3.パイプの撤去:金属パイプを地面から抜く。

4.パイプの結束:搬出しやすいよう結束する。

 

ただしこれは通常の手順で、強風で激しく変形したパイプハウスの場合には、さらに次の作業が必要になります。

※パイプの切断:撤去や結束などがしやすいように工具で切断する。

※部材の切断:変形ではずすことが出来ない部材は、本体や周辺を切断する。

 

 

撤去作業に必要な工具類

 

作業を効率的に行うには工具類が必要です。

 

※工具類、特に電動工具を扱った経験のない方には利用はおすすめできません。ただし手作業では進まないものですので、経験者と一緒に作業をされることをおすすめします。

 

・ハンマー:部材には「くさび類」が多く、くさびを抜くにはハンマーが必要です。振り下ろすような大型のものではなく、トントンと叩ける大きさのものを使います。

・パワーカッター:パイプや部材を切断するための電動工具です。取り扱いには注意が必要です。

・ディスクグラインダー:同じく電動工具です。パワーカッターより小回りは聞きます。細かな金属片の飛散もあるので、保護メガネやグローブが必要になります。

・パイプカッター:パワーカッターやディスクグラインダーは高価で充電電源も必要ですが、手動のパイプカッターもあります。人数分用意するにはこちらが便利でしょう。

・インパクトドライバー:部材を固定には「テックスビス」と呼ばれるネジが使われており、これを外すにはインパクトドライバーと呼ばれる電動工具が必要です。

・6角レンチ:ボルトナットで固定する部材が一部にあります。

・パイプ抜き:地面に挿したアーチパイプを抜き取る工具です。

 

以上の工具類を使っての実際の撤去作業の手順は以下の通りです。

 

被覆資材の取り外し

被覆資材は金属レールにスプリングと呼ばれる部材で固定されています。代表的製品に東都興業のビニペットシリーズがありますが、レールに凸凹型のスプリングで被覆資材を固定する方式です。このスプリングをレールの端から手で外すことができます。

 

部材の取り外し(くさび)

パイプハウスの部材の種類は非常に多いのですが、くさびで固定するタイプのものからハンマーで外します。同じく東都興業のビニペットカチックスといった部材が多く使われていますが、くさび部分をハンマーで叩くことで外れます。

 

部材の取り外し(ボルトナット類、テックスビス類)

レンチやインパクトドライバーで取り外します。

 

パイプの切断

曲がったパイプや長尺のパイプを短く切っていきます。

 

アーチパイプの抜き取り

部材の取り外しを進め、アーチパイプのみの状態になったところで、地面からアーチパイプを抜き取ります。

 

 

注意事項

 

金属類を扱うため、ケガに注意して作業をする必要があります。切断作業は金属が刺さらないグローブ類(ゴム製、革製)を用いてください。軍手では危険です。また長袖、安全靴の着用をお勧めします。 以上です。

 

※追記

このブログを見られたハウス撤去作業のご経験者で千葉県にもボランティアで入られた方からのコメント概要です:「天井部分のジョイント(アーチパイプを連結する部材)を固定したままで、その下の部分の取りはずしを先に行った方が安全で速い」、「その他に番線を切断するカッター、地際のパイプを引き抜く際に使えるバールなどもあると良い」大変ありがとうございました。一般的な工具類も車に積み込んで行くのが良いと思います。

 

 

 

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by 土屋農業技術士事務所 所長 土屋 和

 

 

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加工・業務用野菜と冷凍野菜(VEDICAセミナーより)

昨日までアグリビジネスジャパン(ABJ:於東京ビッグサイト)の併設セミナーでは、VEDICA(野菜流通カット協議会)による「加工・業務用野菜の情報交換セミナー」が開催されました。加工・業務用野菜の需要が高まる中、それらを使用した冷凍野菜にスポットを当てたテーマで、冷凍野菜の生産者、実需者による貴重な講演を聞くことができました。冷凍野菜はエダマメやホウレンソウがポピュラーですが、そのほかにもコマツナや新規野菜についてのお話も伺えました。

 

VEDICA主催の「加工・業務用野菜の情報交換セミナー」の様子

 

冷凍野菜の位置づけ

 

冷凍野菜は野菜の需給と価格の変動に対し、-18℃以下の冷凍保存によるバッファーを持たせることができ、生産側と実需側にとってメリットのある商品と言えます。季節的に市場に野菜があふれ価格が低迷する時期であっても、冷凍保存によって出荷調整が可能となり、価格を安定化することができます。また生鮮野菜が不足する時期にあっても実需側は安定的に調達が可能となります。このセミナーの日本農業新聞の記事(2019年9月13日付け流通経済面)には、「日本冷凍食品協会によると、国産冷凍野菜の供給量はこの30年、年間8〜10万トンで推移し、流通量の多くを輸入品が占めている。」とあります。実際の冷凍野菜消費量は加工・業務用途を中心に確実に伸びているはずで、記事の内容は国産供給がそれに追いついていないことを示しています。

 

冷凍野菜の生産事例

 

セミナーでは、いくつかの加工・業務向けの野菜栽培の事例と、実際の冷凍野菜加工の事例が紹介されました。二つの事例((有)ワールドファーム、(株)ジェイエイフーズみやざき)があり、野菜栽培と冷凍野菜加工の双方を手掛けられております。ワールドファームでは全国に3拠点(茨城、鳥取、熊本)の工場を持ち、社員が栽培と加工の両方を受け持ち、双方の作業の繁閑のバランスを上手に調整されているとのことです。最終的には全国に100拠点の工場立地を目指し、すでにいくつかの工場を立上げ中とのことです。流通経費削減(一般の流通では包装資材と物流費で売り上げの3割程度に)のため農場と加工工場を隣接させ、鮮度も良い状態で工場に搬入できるよう拠点を配置する工夫をされています。100拠点という目標は壮大ですが、国産の冷凍野菜への実需に強いものがあるという証かと思われます。

 

ジェイエイフーズみやざきでは、施設園芸が盛んな宮崎県西都市に工場が立地しており、葉タバコ生産が盛んであった地域での加工・業務用野菜の生産を地域で広めています。葉タバコの元圃場でホウレンソウの栽培を生産者が行い、その収穫と運搬などを会社側が行うという分業体制が特徴でした。冷凍野菜工場は稼働率を高めるよう、常に原料野菜の供給が求められますが、それを生産者まかせとせず会社側が自ら取りに行くことで工場の安定稼働を担保しており、あわせて生産者の負担を軽減していると言えます。お話では先に工場を建設し、それにあわせた野菜生産を確立されたとのことでした。その手法を畜産で見られるインテグレーションとして紹介され、土壌分析や施肥指導、栽培指導、品質管理など生産、加工、販売までの一貫体系を構築できる体制を作り上げられていました。圃場側はGGAPを、工場側はFFSC22000などを取得されており、実需側との商談もスムースに進むとのことでした。圃場管理もマッピングされ営農指導のIT化も万全で、農水省のスマート農業実証プロジェクトにも採択をされているとのことでした。

 

冷凍野菜の未来

 

パネルディスカッションでVEDICAの木村会長が、国産冷凍野菜の現状と課題を総括されていました。まず冷凍野菜工場の全国分布には偏りがあって、工場ゼロの都道府県もあるとの指摘で、地域での栽培と加工を考えると更なる工場建設が求められるとのご見解でした。また品目的には、すでに単品のカット野菜で需要が拡大しているネギの冷凍化がさらに進むこと、産地が全国化しているニラについても冷凍化が期待されること、施設野菜、果菜類についてもABJ会場で展示のあったパプリカ(タカヒコアグロビジネス社ブース展示)のスライス冷凍品などが期待されることなど、いくつかのご提案がありました。果菜類の冷凍品のイメージは冷凍イチゴ以外あまりなかったのですが、まだまだ商品開拓の余地はありそうでした。またヨーロッパで菓子などに使われるイチゴの原料供給のほとんどは中国産冷凍イチゴとのことで、冷凍品をターゲットとした施設生産という展開も今後あるのかもしれません。

 

施設野菜の周年生産、周年供給と、価格変動の波の大きさには近年矛盾が生じていると感じられますが、冷凍野菜をそこに組み入れることで新たな展開もあるのかもしれません。冷凍野菜工場の設備投資は数十億円にのぼるケースもあって簡単に取り組めるものではありませんが、セミナーに参加し今後の可能性を感じた次第です。

 

 

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by 土屋農業技術士事務所 所長 土屋 和

 

 

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台風15号が千葉市上陸(9月9日)

コンパクトながら発達した台風15号(FAXAN)が9日の朝5時前に千葉市(中央区)に上陸しました。最大瞬間風速で57.5mという過去最大の強風を記録し、千葉県内にも今も大きな被害をもたらしています。

 

台風の進路

 

台風15号は暴風域はコンパクトながら中心気圧が関東地方接近前でも950〜960ヘクトパスカル程度と強く、時速も30キロ程度と足の速い特徴がありました。この時速であれば接近時間が短いため台風対策の時間は限られ、進路予想が大切になります。気象庁の当日予報では「神奈川県から静岡県に上陸の可能性」というアナウンスもあり、これは結果的に外した予報でありましたが、地図上で台風進路の右側に強風が吹き込むことを考えれば、それでも千葉県側は十分警戒する必要があったでしょう。

 

米軍の台風進路予想

 

台風15号FAXAIの進路予想(米軍合同台風警報センター)

 

気象庁の進路予想図には、進路は範囲として示されおり、決めうちの予想とはなっていません。それに対し米軍関連機関が公開している進路予想図には、進路は一本の曲線として示されています。9日の零時を回った時点での米軍関連の進路予想は東京湾から千葉県方面を示していました。この時点での千葉市(筆者は台風上陸の千葉市中央区在住)は強風や豪雨には至っていませんでしたが、自宅方面に向かっていることは明らかでした。

 

台風に対する危機管理

 

足の速い台風でしたので、間際にならないと実感がわかない面はあったと思いますが、強い勢力を保ち、実際に千葉市中央区に上陸時にも瞬間最大風速57.5mという過去最大の強風が生じました。また気象庁から風と雨に対する警報は、通常より高いレベルで発せられており、危機管理が必要な状況であったと思います。一般住民の住居への台風対策は雨戸締めや片づけなど限られていますが、停電に対しての光源と水や食料の備蓄は必須であり、合わせて通信手段の確保、貯水など、間際でもやるべきことはいろいろとあると思われます。

 

現時点でも非常に多くの世帯や施設で停電が続き、二次災害のリスクも大きくなっています。千葉県は九十九里など太平洋沿岸での台風による強風被害が多く、また最近では茨城県も含めた広域の塩害もありました。今回のような強力で東京湾からのコースでの上陸は初めてのケースではないかと思います。被害が広範に及び、また現時点でも多くの方たちが大変なご苦労をされていると思いますが、今後もこうした災害が多発するという前提で、危機管理を行政や組織のみならず、ひとりひとりが心がける必要があると感じています。まずは身を守ることから。

 

 

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by 土屋農業技術士事務所 所長 土屋 和

 

 

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千葉大学土葉会「スマート農業の最前線」とJAの役割

千葉大学園芸学部蔬菜園芸学研究室は、施設園芸と野菜生産、養液栽培研究での長い歴史がある研究室です。研究室の勉強会にも伝統ある土葉会という会があり、今年度の幹事長を拝命し運営のお手伝いをさせていただいています。

 

 

土葉会「スマート農業の最前線」

 

本日は土葉会の第327回例会が開催され、「スマート農業の最前線」と題し4名の方に下記のテーマでお話をいただきました。
 

「AGRIOSを導入した経営改善」

螳羹丱肇泪版星/螢侫 璽爛ーエス 代表取締役 井出 寿利 氏

 

「クラウド制御型 養液土耕 自動化支援システム ゼロアグリ」

螢襦璽肇譽奪・ネットワークス 取締役CTO 喜多 英司 氏

 

「施設園芸コンテンツ連携による経営一貫体系の実証について」

農研機構野菜花き研究部門 野菜生産システム研究領域 生産工学ユニット 上級研究員 磯崎 真英 氏

 

「次世代環境・生育センシング技術とICTを活用した栽培支援技術の開発及び利用技術の確立(スマート農業プロ」

千葉県農林総合研究センター 最重点プロジェクト研究室 室長 齊藤 俊一 氏

 

スマート農業最前線のテーマにふさわしく、ICTで現場改善や生産性向上をはかるアプリケーション、新技術や実証体系のご紹介で、今現在の動きが分かるご講演ばかりでした。その中で「施設園芸以外のスマート農業の話」をお願いしました千葉県の齊藤さんのご講演についてです。あえて施設園芸以外でお願いしたのは、他の3題が施設園芸に特化した内容であり、土葉会の会員の方々には施設関係以外の方も多くいらっしゃるため、バランスを取ることも考えたためです。しかし、千葉県のスマート農業研究は、施設園芸以外の分野でも面白い方向に進んでいることがお話を聞いて分かりました。

 

千葉県のスマート農業研究テーマ

 

千葉県では水田作における農業機械の自動化、水管理の自動化、ドローンや各種センサーを利用した計測、計測情報や各種データのマッピングなど、広く取り組まれています。これは全国的な傾向で、農林水産省のスマート農業プロジェクトでも水田作関係のテーマが多くみられています。千葉県では水田作の他に露地栽培でのスマート農業の取り組みが多く、齊藤さんからは「病害虫予測に基づいた防除支援システム「梨ナビ」の開発」の他、ラッカセイの生産安定化のためのメッシュ気候データやUAV(ドローン)での画像情報利用、サツマイモの貯蔵安定化のための生育、収量、貯蔵性予測などのご紹介がありました。

 

いずれも千葉県の主要園芸作物で、主に気象要因、気象変動から生産や貯蔵などに影響を受ける事象について、メカニズムの解明や分析予測手法の開発を県の研究機関でされています。スマート農業の観点からは研究成果(予測などのアルゴリズム)をクラウドサービスに移行することが課題で、ユーザー(農業生産者)に使いやすいよう、エクセルなどを利用したPC上での計算や予測から、スマホなどを利用した簡易な操作性やアクセス性を進めることが示されました。研究成果を普及させるにはスマホ利用やクラウド利用とアプリ開発が必須であり、民間の技術やサービスを活用することが不可欠となり、そのためのプロジェクトが始まっているとのことでした。今後に期待したいと思います。

 

スマート農業とJAの役割

 

齊藤さんにJAとの取り組みや関係について質問をしたところ、サツマイモの貯蔵安定化については全農(千葉県本部)からの要望課題ということでした。配布資料では民間との共同研究や競争的資金獲得によりアプリ開発やマップ化等の実証化と普及を進めるようなスケジュールも示されていました。サツマイモ貯蔵のテーマに関しては、生育状態の良くないサツマイモでは貯蔵中の腐敗が起こりやすいため、長期貯蔵に適するサツマイモを圃場で選定できるようドローン画像による草勢などの生育情報の取得と分析を行い、また気象情報や土壌情報の収集と生育、収量、貯蔵性の予測手法などを研究し、貯蔵性を考慮した出荷戦略や施肥設計への活用をはかることも示されていました。こうした研究開発が進み、開発されたシステムが導入された場合、非常に広範囲なデータ(気象、土壌、生育、出荷、貯蔵、販売等)が集積することが予想されます。

 

これらデータが課題を要望したJA側に集積された場合には、営農指導だけでなく販売までの一貫体系としてのスマート農業の取り組みが期待されますが、いわゆるビッグデータを取り扱うことになり、それなりのクラウド上でのデータ処理や分析のためのシステム開発や運用体制も必要になると思います。また開発期間や開発費用もそれなりのスケールになることが予想されますが、それらをJA側が上手に進めることができれば、サツマイモの長期貯蔵による出荷が進展し、貯蔵物の出荷価格が上昇していることから、生産者の収益向上が見込めることになるようです。

 

JAのASPへの変身について

 

かなり昔のことになりますが、平成17年に農林水産省農林水産技術会議主催による、21世紀の農林水産業を展望するシンポジウム「次世代の農林水産業を支える革新技術」が開催されました。そこでの三重大学の亀岡先生のご講演についての自分のメモには、「ロボットに合わせた圃場設計があるのでは?」 「植物工場に合った品種選択があるのでは?」 「植物にとっての体温計の情報は何か?」 「ISO22000、GAP対応で、JAはASPに変身できるか?」といった興味深いコメントが残されていました。この最後の「JAはASPに変身できるか?」というコメントが10年以上立った今でも自分の頭に残っております。

 

ASPというのはアプリケーションサービスプロバイダーのことで、インターネット上でソフトウエアのサービスを提供する事業者のことであり、近年ではSaaSなどとも言われるネット上でのサービス提供に関することになります。亀岡先生のご講演の当時はISO2200もGAPも一般化しておらず先見性の高いお話だったと思います。そこにさらにASPを乗せていたことは驚きなのですが、スマート農業の担い手として、産地の生産から販売まで一手に扱えるJAがASPに変身できれば、産地の活性化に有効なことは間違いないと思います。今後はそうした観点でJAの役割を考える必要もあるものと考えます。

 

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